モータータンパク質「ダイニン」は、その制御因子群と細胞内で適切な順番で出会う

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2022-08-05 国立遺伝学研究所

細胞の中では、物質の輸送や染色体の分配など、ものを運ぶために力が必要とされる場面が多くあり、そのような細胞内での力発生の多くは、分子モーターと呼ばれるタンパク質酵素によって担われています。その分子モーターの中でも、細胞質ダイニンといわれるタンパク質は、細胞の分裂や細胞内での物質輸送など、多岐にわたるプロセスを通じて生命活動の維持に役立っています。ダイニンはその様々な細胞での役割を担うために、多くの「ダイニン制御因子」による制御を受けることが知られており、ダイニンは場所や役割に応じて複数の制御因子と会合し多様な複合体を形成します。これらの複合体が分子レベルでどのような構成のもとでどのような振る舞いをするのか、精製したタンパク質分子を用いた試験管内再構成実験から多くのことが明らかになりつつあります。その上で、実際の細胞の中でダイニンがどのようにして適切なタイミングで適切な場所において適切な制御因子と出会うことができるのかを知ることが、課題となっていました。

このたび、細胞建築研究室の鳥澤助教と木村教授は、線虫C. elegansの初期胚を用いて、細胞が分裂する際にダイニンなどのタンパク質が紡錘体が形成される領域に集積する過程を観察し、細胞内でのダイニン制御に関連する知見を得ました。 本研究では、紡錘体領域へのタンパク質集積現象(図a)について、i) 選択性、ii) 集積場所の違い、さらに iii) 集積順序があることが明らかになりました。選択性とは、「ダイニン制御因子」の中でも集積するものとそうでないものとの間にはっきりとした違いがあるということを指しています。集積場所の違いとは、集積するものの中でも紡錘体のどの場所に集積するかがタンパク質ごとに異なっているということを指しています。いくつかのタンパク質は紡錘体を形成する微小管や染色体ではない領域に集積することが明らかになりました。さらに、鳥澤助教らは、タンパク質が集積する過程の時系列を解析することで、集積がある順序に従って生じていることも明らかとしました(図b)。ここで明らかになった集積順序は、過去の研究から明らかになっていたダイニンの制御の仕組みと照らし合わせると、理にかなったものであり、細胞内では効率的にダイニンを活性化するように、ダイニン制御因子との出会いが時間的にも空間的にも制御されていることが示唆されました。

さらに、鳥澤助教らは順序だった集積の中でも最も早く集積してくるタンパク質であるNUD-2とよばれるタンパク質に着目して研究を続けました。このタンパク質の早期集積が他のタンパク質が集積状態を維持するのに寄与していることを明らかにし、さらに早期集積に必要なNUD-2のアミノ酸領域の特定も行いました。

この過程において開発された線虫胚に対するタンパク質インジェクション法は、分子モーターや細胞分裂の研究を超えて、幅広い目的に対して役立つものであることが期待されます。

本研究で得られた結果は、ダイニンの細胞内での制御複合体形成のダイナミクスの理解を進めると同時に、紡錘体が形成されるときにタンパク質が集められるメカニズムとして普遍的な制御を含んでいると考えられます。

本研究はJSPS科研費 JP19K16094、JP18H02414、 JP18H05529 、JP18KK0202 の支援を受けて行われました.

本研究成果は科学雑誌「Scientific Reports」に2022年7月11日に掲載されました。

図:(a) 細胞が分裂期に入る前(図左側)、染色体を含む核内領域 (紫)は核膜によって、ダイニンやその制御因子(緑)が存在する細胞質と隔てられている。 分裂の際には(図右側)、核膜が崩壊し、細胞質とのあいだで物質の流入と流出がおこる。ダイニンやその制御因子(緑)も核膜の崩壊をきっかけとして紡錘体形成領域に流入し、染色体(紫)と紡錘体を形成する。
(b) ダイニンとその制御因子について、細胞質に対して紡錘体形成領域にどれだけのタンパク質が集積しているかを表す比を定量し、その時間変化を示した図。タンパク質ごとに集積がおこるタイミングが異なっていることがわかる。


Sequential accumulation of dynein and its regulatory proteins at the spindle region in the Caenorhabditis elegans embryo
Takayuki Torisawa, & Akatsuki Kimura
Scientific Reports (2022) 12, 11740 DOI:10.1038/s41598-022-15042-8

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