ダニの卵に触れると孵化が止まることを発見 ~捕食者に狙われる卵がいつ孵るかの駆け引き~

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2019-09-25 京都大学

 矢野修一 農学研究科助教と福勢かおる 農学部生(現・埼玉県農業技術研究センター研究員)は、体長が0.5ミリの捕食者がダニの卵を攻撃する動きを真似て筆先で卵に触れ続けると孵化が止まり、触れるのを止めると孵化が再開することを発見しました。

 本結果は、触られることで捕食者に狙われていることを知った卵が孵化を遅らせ、捕食者が去るのを待って孵化できることを示します。捕食リスクに応じて卵が孵化のタイミングを変える例は節足動物では初めてですが、同様の駆け引きは頑丈な卵を個別に産む陸上動物で広くみられる可能性があります。

 本研究成果は、2019年9月16日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究のイメージ図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-019-50007-4

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/244142

Kaoru Fukuse & Shuichi Yano (2019). Delayed mite hatching in response to mechanical stimuli simulating egg predation attempts. Scientific Reports, 9:13395.

  • 読売新聞(9月24日夕刊 10面)に掲載されました。

詳しい研究内容について

ダニの卵に触れると孵化が止まることを発見

―捕食者に狙われる卵がいつ孵るかの駆け引き―

概要

 孵化したばかりのケナガカブリダニ( 以下ダニ)の幼虫は同種や近縁種の雌成虫( 以下捕食者)によく捕食 されます。捕食者はダニの卵も攻撃しますが、ほとんどの場合は歯が立たずに捕食を諦めます。卵がこの攻撃 に気付いているなら、攻撃されている最中に孵化してむざむざ捕食されるよりも、孵化を先送りするべきです。

  京都大学大学院農学研究科 矢野修一 助教と福勢かおる 農学部学部生( 現: 埼玉県農業技術研究センター) は、体長が 0.5 ミリの捕食者がダニの卵を攻撃する動きを真似て筆先で卵に触れ続けると孵化が止まり、触れ るのを止めると孵化が再開することを発見しました。この結果は、触られることで捕食者に狙われていること を知った卵が孵化を遅らせ、捕食者が去るのを待って孵化できることを示します。捕食リスクに応じて卵が孵 化のタイミングを変える例は節足動物では初めてですが、同様の駆け引きは頑丈な卵を個別に産む陸上動物で 広くみられる可能性があります。

 本研究成果は、2019 年 9 月 16 日に英国の国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されまし た。

1.背景

  動けない卵は捕食者に狙われると座して死を待つしかないと思われがちですが、そうとも限りません。卵 が自分の意志で孵化を早めたり遅らせたりできれば、孵った方が安全な状況では孵化を早め、卵のままでいる 方が安全な状況では孵化を遅らせることができるからです。捕食リスクに応じて卵が孵化のタイミングを変え る例は、これまでに水棲動物を中心に報告されていますが、ダニや昆虫などの節足動物では報告例がありませ ん。

  カブリダニ類は農業害虫を捕食してくれる益虫で人間を刺しません。彼らは植物の上で暮らし、餌の害虫 が不足するとすぐに仲間同士で共食いします。このとき最も捕食されやすいのは、卵から孵化したばかりの幼 虫です。カブリダニは卵も捕食しようとしますが、卵の殻が頑丈なので歯がたたずに転がしてしまいます。も し卵がこの攻撃に気付いているのなら、攻撃されている最中には孵化するのを止めて安全になってから孵化す るべきだ、と予測したのが研究のきっかけです。そこでケナガカブリダニ 以下ダニ)の卵に触れると孵化が 遅れるかどうかを検証しました。

2.研究手法・成果

  まずダニの卵が幼虫よりも捕食されにくいことを確かめるために、卵5個または孵化したばかりの幼虫5 匹を捕食者( ダニの雌成虫)と 24 時間同居させると、確かに卵は幼虫に比べてあまり捕食されません( 図1)。 したがって、捕食者に狙われている状況では、孵化せずに卵のままでいる方が安全です。

 次に、孵化間近の卵に触れると孵化が遅れるかどうかを調べるのですが、卵が孵化間近かどうかを見分け る方法がありません。卵を全ての方向から観察すればわかる場合もありますが、そのためには卵に触ってしま うので実験が台無しになります。そこで、短い時間に産ませた卵の集団を使いました。これらの卵の半分近く が孵化した時に使えば、残りの卵は孵化間近だからです。捕食者はあまり頻繁に卵を攻撃しないので、本物の 捕食者を使うかわりに捕食者の攻撃を真似て極細の筆で孵化間近の卵に触れて 1/4 回転させました。孵化間近 の卵の半数 処理群)を転がし終えるのに5分弱かかるので、5分ごとに 60 分間触れ続けました。すると触 れ続けている間は卵の孵化が止まり、触れるのを止めると孵化が再開して、触れなかった卵( 対照群)の孵化 率に追いつきました 図2)。この結果は、節足動物の卵が捕食リスクに応じて孵化のタイミングを変えるこ とを示す初めての例です。触れた卵の孵化が遅れた直接の理由は、転がしたせいで卵に対する重力の向きが変 わったせいかもしれないと考え、卵を乗せた葉の上下を5分ごとに変えましたが、この場合には孵化は止まり ませんでした。したがって、転がした卵の孵化が遅れた理由は、卵が直接触られたことやその結果卵が葉に接 する部位が変わったせいだと考えられます。こうした出来事は捕食者に狙われた卵にしか起きないので、捕食 リスクの目安になるのでしょう。その一方で、卵を載せた植物が風で揺れても孵化は止まらないはずです。捕 食者は数分程度で攻撃を諦めるので、卵は捕食者が去る( =触られなくなる)のを待ってから孵化できること になります。このダニの卵は何種もの捕食者から狙われるので、いろいろな触れられ方に反応できる方が合理 的です。だから筆で触れた場合にも孵化が止まったのでしょう。

3.波及効果、今後の予定

 捕食リスクに応じて卵が孵化のタイミングを変える例は、卵を一ヶ所にかためて産む水棲動物で多く知ら れます。これらの例では、捕食者自身や攻撃された近くの卵から水を介して伝わる化学物質に卵が反応します。 これに対して、空気を介する匂いはごく近距離でしか当てになりません。また、このダニのように個別に産み 落とされた卵は、隣にある卵が攻撃されたことで捕食リスクを知る術がないので、差し迫った捕食リスクを自 らの(「肌で感じる」しかないのでしょう。このような捕食リスクの評価方法は、頑丈な殻を持ち個別に産み落 とされた陸上動物の卵で広く採用されている可能性があります。その有力な候補は、物理的な振動を感知でき ることが知られる昆虫類などの卵です。そういう動物の卵を使って実験する場合には、実験者が卵に触れたか 否かにデータが左右されるかもしれません。

4.研究プロジェクトについて

 本研究は、( 京都大学運営交付金と)日本学術振興会科学研究費助成金(課題番号 15K07792)の援助を受けま した。

<研究者のコメント>

 本研究は当時4回生だった第一著者の卒論研究に基づきま す。ポスドクや博士過程の研究者に比べると4回生は研究の 初心者と見られがちですが、初心者でも工夫ひとつで世界に 認められることが研究の醍醐味だと思います。当研究室によ る過去の記者発表の大半は卒論研究に基づきます。学部や修 士課程で卒業される予定の皆さん、時間とチャンスはまだ十 分にありますよ! 左 福勢氏 右 矢野助教

<論文タイトルと著者>

タイトル: Delayed mite hatching in response to mechanical stimuli simulating egg predation attempts (ダ ニの卵に捕食者を真似た機械的刺激を与えると孵化が遅れる)

著 者: 福勢かおる( 研究当時京都大学農学部4回生、現( 埼玉県農業技術センター)・矢野修一( 京都大学 大学院農学研究科助教)

掲 載 誌: Scientific Reports  DOI :10.1038/s41598-019-50007-4

<イメージ図>

図1 a)( ケナガカブリダニの卵または幼虫を同種の雌成虫( 捕食者)と同居させると、卵の方が捕食されにく い。b)( 同種の卵を捕食しようとするケナガカブリダニの若虫

図2 捕食者の攻撃を真似て5分ごとに卵に触れ続けると孵化が止まり(60分後まで)、触れるのを止めると 孵化が再開して触れない場合の孵化率に追いつく。

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