ゴルジ体の一生の時空間ダイナミクス~ゴルジ体形成の足場となる膜区画を酵母細胞で発見~

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2024-03-19 理化学研究所

理化学研究所(理研)光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チームの戸島 拓郎 上級研究員、須田 恭之 客員研究員、神 奈亜子 研究員、黒川 量雄 専任研究員、中野 明彦 副チームリーダー(光量子工学研究センター 副センター長)の研究チームは、生きた細胞の中で、ゴルジ体[1]が生まれてから消えるまでの一生の詳細な時空間ダイナミクスを明らかにしました。

本研究成果は、細胞内タンパク質輸送・選別機構の破綻が原因となって起こるさまざまな疾患やウイルス感染のメカニズムの解明に貢献することが期待できます。

ヒトや酵母を含む真核生物の細胞内には、細胞小器官と呼ばれるさまざまな膜構造があります。その一つであるゴルジ体は、小胞体(ER)[2]で作られた多種の積荷タンパク質[3]を取り込んで糖鎖修飾[4]を施し、それぞれが働くべき場所に選別・搬出するという、細胞内物質輸送の中心的な役割を担っています。

今回、研究チームは、独自に開発した高速高解像度共焦点顕微鏡システム(SCLIM)[5]を駆使して、生きた酵母細胞におけるゴルジ体の時空間ダイナミクスを精密に観察しました。その結果、酵母細胞では初めて、小胞体とゴルジ体の間に、ER-ゴルジ中間区画(ERGIC)[6]と呼ばれる膜区画を発見し、これが徐々にその性質を変えていく(槽成熟)ことでゴルジ体が生まれることが分かりました。その後、ゴルジ体がさらにトランスゴルジ網(TGN)[7]という選別輸送に特化した区画に成熟していく詳細な過程も明らかにしました。

本研究は、科学雑誌『eLife』オンライン版(3月19日付:日本時間3月19日午後5時)に掲載されます。

背景

全ての生物は細胞からできており、これが生命の基本単位として働いています。細胞の表面は脂質から成る膜(細胞膜)で覆われています。細胞の内部にも膜に包まれたいろいろな種類の細胞小器官が存在しており、それぞれが独自の役割を果たし細胞の生命活動が維持されています。

細胞小器官の一つであるゴルジ体は、「槽(そう)」と呼ばれる膜でできた袋が複数積み重なった構造をとり、小胞体で作られた積荷タンパク質を受け取って糖鎖付加などの修飾を施す働きを担っています。ゴルジ体の槽の並びには極性があり、積荷タンパク質を受け取る側からシス槽、メディアル槽、トランス槽と呼びます。ゴルジ体で修飾を受けた積荷タンパク質は、トランス槽からトランスゴルジ網(TGN)へと受け渡され、それぞれの目的地へ向けて選別・搬出されます。

積荷タンパク質が、どのように小胞体からゴルジ体に受け渡されるのか、またゴルジ体の複数の槽間をどのように通過していくのかは長らく謎に包まれていました。これまでに中野副チームリーダーらは、独自に開発したSCLIMを用いて、ゴルジ体のシス槽が積荷タンパク質を持ったまま、徐々にその性質をメディアル槽、トランス槽へと変化させること(槽成熟)を明らかにしてきました注1~5)

しかし、ゴルジ体槽成熟の開始地点であるシス槽が、どこからどのようにして生まれるのかについては謎のままでした。

注1)2006年5月15日プレスリリース「細胞小器官ゴルジ体のタンパク質輸送の大論争に決着(PDF 976.7KB)
注2)2013年11月5日プレスリリース「ゴルジ体内のタンパク質輸送を制御する分子機構の一端を解明
注3)2016年9月2日プレスリリース「ゴルジ体槽成熟の分子機構を解明
注4)2019年3月11日プレスリリース「タンパク質がゴルジ体内を輸送される仕組みが明らかに
注5)2019年7月11日プレスリリース「トランスゴルジ網の時空間ダイナミクス

研究手法と成果

研究チームは、生きた酵母細胞の中で、ゴルジ体とその周辺区画で機能する20種類のタンパク質(Emp46、Ypt1、Rer1、Erd2、Grh1、Sed5、Mnn9、Mnn2、Vrg4、Sec21、Gnt1、Sys1、Imh1、Gea1、Gea2、Sec7、Tlg2、Apl6、Gga1、Ypt32)を蛍光タンパク質で多重標識し、これらの詳細な時空間動態をSCLIMで観察しました。

これらタンパク質のうち、Emp46やYpt1は、小胞体-ゴルジ体間の輸送に関わる分子として知られており、これらの哺乳動物相同因子は、哺乳動物細胞にのみ存在するER-ゴルジ中間区画(ERGIC)に局在しています。酵母細胞においてEmp46やYpt1を蛍光標識して観察すると、ゴルジ体と同程度の数とサイズの区画を作り、細胞内を動き回っていました。これらは時間経過とともにゴルジ体シス槽に徐々に変化していきました(図1)。すなわち、酵母細胞において哺乳動物細胞のERGICと相同な区画が初めて発見され、しかもそのERGICが成熟してゴルジ体が生まれることが判明したのです。ERGICの成熟によりゴルジ体が生まれることは、これまで他の生物種においても全く知られていませんでした。また、成熟途中の槽の内部をSCLIMで観察した結果、前後のステージのタンパク質は互いに混ざり合うことなく、区画化された状態で単一の槽内に共存していました。

ゴルジ体の一生の時空間ダイナミクス~ゴルジ体形成の足場となる膜区画を酵母細胞で発見~
図1 ERGICからゴルジ体への槽成熟過程
SCLIMにより、ERGIC局在タンパク質Emp46(緑)とゴルジ体シス槽局在タンパク質Mnn9(マゼンタ)の動態を同時観察した。Emp46がMnn9に徐々に入れ替わっていく「槽成熟」の様子が捉えられた。成熟過程(拡大像)では、両者が完全に混ざり合うことなく区画化していた。


研究チームでは以前、ゴルジ体の最も外側に位置する区画であるTGNが、ゴルジ体が成熟することで生まれることを明らかにしています注5)。今回さらに、その移行過程を詳細に観察し、これまでTGNに存在すると考えられていた、液胞への積荷タンパク質搬出のためのアダプタータンパク質AP-3(Apl6)が、実はTGNではなくゴルジ体トランス槽に存在することや、TGNに積荷タンパク質を受け入れるための足場として機能するImh1が、ゴルジ体トランス槽を中心に現れることなども突き止めました(図2)。

ゴルジ体トランス槽の時空間動態の図
図2 ゴルジ体トランス槽の時空間動態
SCLIMにより、Imh1(緑)とSys1(マゼンタ)の動態を同時観察した。Sys1はゴルジ体トランス槽のマーカー。Imh1がゴルジ体トランス槽に出現することが明らかになった。


過去の報告と合わせて、全部で25種類の、ゴルジ体を出入りする多様な機能タンパク質の時空間マップが完成し、ゴルジ体がERGICから生まれ、TGNへと姿を変えていく一連の過程が解明されました(図3)。

ゴルジ体の形成と消失の時空間ダイナミクスの図
図3 ゴルジ体の形成と消失の時空間ダイナミクス
本研究により、ゴルジ体(青)は、ERGIC(赤)が時間経過とともにその性質を徐々に変える「槽成熟」により形成されることが明らかになった。ゴルジ体はさらにTGNへと成熟し、最終的に多数の小胞となって細胞質中に分散して消滅する。ERGICからゴルジ体へ、ゴルジ体からTGNへの移行期間中は、前後のステージ常在タンパク質は互いに混ざり合うことなく、区画化された状態で単一の槽内に共存していた。

今後の期待

過去の研究から、哺乳動物細胞、植物細胞、酵母細胞といったさまざまな生物種において、ゴルジ体の構造や細胞内配置が大きく異なっていることが知られています。研究チームでは以前、植物細胞において、哺乳動物のERGICと同等の機能を持つ区画を発見し、GECCO(Golgi entry core component)と名付けています注6)。今回、酵母細胞においても、これらと相同な区画が発見されたことで、生物進化の過程で膜交通の分子機構が高度に保存されてきたことが強く示唆されます。

研究チームの高速超解像イメージング技術は発展を続けています。今後は、ゴルジ体局在タンパク質のみならず、積荷タンパク質の動態も、より精密な時空間分解能で可視化されることが期待されます。

積荷タンパク質の誤輸送は、さまざまな疾患の原因となることが知られています。最近では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した細胞のERGICにおいて、ウイルス粒子の構築・蓄積が行われていることが明らかになっています。今後のさらなる研究の発展により、ERGIC―ゴルジ体―TGNにおける積荷輸送の分子メカニズムの全貌が明らかになれば、膜交通の破綻が原因となって起こる疾患や、ウイルス感染症に対する治療・予防戦略の構築に大きく貢献できると考えられます。

注6)2017年11月14日プレスリリース「ゴルジ体の足場GECCO

補足説明

1.ゴルジ体
19世紀にイタリアの科学者カミロ・ゴルジによって発見された細胞小器官で、タンパク質に糖鎖修飾などを施す役割を持つ。扁平な膜でできた袋(槽)から成り、多くの生物種では槽が多数積み重なった層板構造をとるが、出芽酵母細胞では、全ての槽がバラバラになって細胞内に散在する。

2.小胞体(ER)
チューブ状の膜がつながり合って網目のように広がる細胞小器官の一つ。リボソームが付着している粗面小胞体では、ゴルジ体に運ばれる積荷タンパク質の合成が行われる。

3.積荷タンパク質
小胞体で新しく合成され、膜交通経路によって働く場所(細胞外、細胞膜、各種細胞小器官など)まで運ばれていく過程にある膜/分泌型タンパク質の総称。

4.糖鎖修飾
タンパク質の翻訳後修飾の一つ。細胞外に分泌されるタンパク質や、細胞膜表面のタンパク質にはいろいろな種類の糖が連なった糖鎖が付加されており、付加された糖鎖はタンパク質の特異的な機能の発揮にさまざまな役割を果たす。ゴルジ体は主要な糖鎖修飾の場である。

5.高速高解像度共焦点顕微鏡システム(SCLIM)
研究チームが独自に開発した顕微鏡システム。生きた細胞の中で動き回る細胞小器官のような小さな物体を経時的に観察するのに適している。スピニングディスク式共焦点スキャナー、高速駆動ピエゾ、多波長分光器、冷却イメージインテンシファイア―、EMCCDカメラなどから構成される。SCLIMは、Super-resolution confocal live imaging microscopyの略。

6.ER-ゴルジ中間区画(ERGIC)
動物細胞において小胞体からゴルジ体までの長距離積荷輸送を媒介する膜区画として発見された。その後、植物にも相同な膜区画があることが研究チームにより発見され、GECCO(Golgi entry core compartment)と名付けられた。しかしこれまで、酵母細胞にはERGIC/GECCOは存在しないと考えられていた。ERGICは、ER-Golgi intermediate compartmentの略。

7.トランスゴルジ網(TGN)
小胞体からゴルジ体を経由して受け取った積荷タンパク質を仕分けし、さらに細胞内各所に向けて送り出す網目状の膜構造体。細胞膜などからリサイクルされた積荷タンパク質も取り込んで仕分けする。ゴルジ体の最も外側の槽(トランス槽)が成熟することによって形成される。TGNは、trans-Golgi networkの略。

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(S)「ゴルジ体を中心とした選別輸送機構の超解像ライブイメージングによる完全解明(研究代表者:中野明彦)」、同基盤研究(A)「ゴルジ体を中心とした膜交通機構の統合モデルの構築(研究代表者:中野明彦)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「ER exit siteでのGPIアンカー蛋白質選別輸送ゾーンの解析(研究代表者:中野明彦)」、同基盤研究(C)「膜交通の可視化と操作による神経回路形成機構の解明(研究代表者:戸島拓郎)」、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「ゴルジ体の動態解明に基づく糖鎖修飾の制御(研究代表者:加藤晃一)」による助成を受けて行われました。本研究には、理研バイオリソース研究センターから提供されたバイオリソース(HeLa細胞RCB0007)が使用されました。

原論文情報

Takuro Tojima, Yasuyuki Suda, Natsuko Jin, Kazuo Kurokawa, and Akihiko Nakano, “Spatiotemporal dissection of the Golgi apparatus and the ER-Golgi intermediate compartment in budding yeast”, eLife, 10.7554/eLife.92900

発表者

理化学研究所
光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チーム
上級研究員 戸島 拓郎(トジマ・タクロウ)
客員研究員 須田 恭之(スダ・ヤスユキ)
研究員 神 奈亜子(ジン・ナツコ)
専任研究員 黒川 量雄(クロカワ・カズオ)
副チームリーダー 中野 明彦(ナカノ・アキヒコ)
(光量子工学研究センター 副センター長)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

生物化学工学
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