光がん治療法の新原理を提案 ~必要に応じて薬剤を供給するドラッグデリバリーシステムへの発展に期待~

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2022-09-21 東京大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 生体を透過しやすい赤色光を当てると、光が当たった部位でのみ薬剤が放出され、がん細胞を攻撃する、光がん治療法の新原理を提案した。
  • 室内光では変化せず、赤色パルスレーザー光が当たった場合にのみ一部が切断され、反応性の高い薬剤として働く「有機金属フタロシアニン」を開発した。
  • がん細胞を攻撃する薬剤の他にも、さまざまな薬剤を放出する「有機金属フタロシアニン」を合成できる可能性があり、必要な場所に必要なタイミングで薬剤を供給する「ドラッグデリバリーシステム」としての発展も期待できる。

光がん治療法(光線力学的療法、Photodynamic Therapy(PDT))は、光エネルギーで物質を活性化し、その化学反応によって腫瘍を選択的に治療する方法である。一般的には、光照射によって活性酸素を発生させ、がん細胞を攻撃させるメカニズムが用いられている。しかし、①プログラムされた細胞死であるアポトーシスを誘導しづらいこと、②腫瘍組織の低酸素領域では治療効果が低いことなどの課題があった。

東京大学 生産技術研究所の村田 慧 助教、石井 和之 教授、池内 与志穂 准教授らの研究グループは、生体を透過しやすい赤色光(650ナノメートル以上)により、薬剤(反応性が高いラジカルやアルデヒドなど)を放出できる新たな光がん治療法の原理を提案した。本研究では、光エネルギーで活性化される物質として「有機金属フタロシアニン」を用いた。この物質は、室内光下では安定でありながら、赤色パルスレーザー光によって薬剤を放出する。この薬剤と、光によって活性化された酸素分子(活性酸素)の協働効果により、がん細胞を死滅させることに成功した。薬剤の放出は酸素濃度によらず進行し、かつ周辺の正常細胞にダメージを与えにくいアポトーシスを誘導することから、新たな光がん治療法としての応用が期待できる。

本システムにはさまざまな薬剤の導入が可能であることから、新たな光がん治療法としての応用だけでなく、ドラッグデリバリーシステムとしての発展も期待できる。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 ACT-X「生命と化学」(JPMJAX191H、研究代表者:村田 慧)、JSPS科学研究費補助金 新学術領域研究(JP17H06375)、若手研究(JP19K15582)の助成を受けて行われた。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Two-Photon, Red Light Uncaging of Alkyl Radicals from Organorhodium(III) Phthalocyanine Complexes”
DOI:10.1039/D2CC03672J
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
村田 慧(ムラタ ケイ)
東京大学 生産技術研究所 助教

石井 和之(イシイ カズユキ)
東京大学 生産技術研究所 教授

<JST事業に関すること>
宇佐見 健(ウサミ タケシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 先進融合研究グループ

<報道担当>
東京大学 生産技術研究所 広報室
科学技術振興機構 広報課

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