嚥下食用米粉「ゼリーノ米粉」の発売~ ミキサー・ゲル化剤不要でお手軽に 米粉100%の粥ゼリーが作れます~

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2022-09-26 農研機構,株式会社フードケア,株式会社図司穀粉

ポイント

農研機構(茨城県つくば市)と、株式会社フードケア(本社:神奈川県相模原市)、株式会社図司穀粉(本社:京都府京都市)は、高アミロース米でんぷんのゲル化特性を利用した嚥下えんげ食用米粉「ゼリーノ米粉」を開発しました。米粉に水を加えて加熱後に冷却するだけで、従来必要であったミキサーやゲル化剤を使用しなくても、米粉100%で嚥下食の主食となる粥ゼリーが調理できます。本成果は嚥下食の主食調理の簡便化に役立ちます。

概要

高齢化が進む中、飲み込むことに問題のある嚥下(えんげ)障害者が増加しており、病院や介護施設、在宅介護の食事提供の場面で、嚥下機能障害に配慮して飲み込みやすく調製した嚥下調整食(嚥下食)のニーズが高まっています。一方、嚥下食は普通食の調理よりも手間がかかるため、調理の簡便化が求められています。

嚥下食の主食として米は重要ですが、米飯の粒は咀嚼そしゃくを必要とし喉に残留しやすいため、そのままでは嚥下食には適しません。米を嚥下食にするためには、粥にし、さらに粘りを抑えるためのでんぷん分解酵素1)を加えてミキサーでペースト状にしてからゲル化剤2)を加えてゼリー状にするといった調理の手間を要します。この課題を解決するため、農研機構では、これまでに見出したアミロース3)という成分が多い米(高アミロース米4))から作った米粉を用いたゲル5)調製法を活用し、調理が簡便な米嚥下食の開発に取組んできました。

農研機構と株式会社フードケア、株式会社図司穀粉は「米粉でやさしい嚥下食」研究コンソーシアムに参画し、高アミロース米粉の嚥下食への実用化研究を行い、ゲル化剤不要で粥ゼリーが調理できる「ゼリーノ米粉」を開発しました。この米粉は、滑らかなゼリーになるよう製粉方法を工夫し、さらに、高アミロース米品種を複数ブレンドすることで、ガス火と鍋による調理だけでなく、電子レンジやスチームコンベクションオーブンを用いた調理が可能です。

従来の米粉とは異なり、「ゼリーノ米粉」はゲル化剤を加えなくても嚥下食に適する物性の粥ゼリーになるため、嚥下食主食調理の負担を減らすことができると期待されます。今後、主食だけでなく、おかずやデザートなどのレシピも増やし、嚥下食用米粉の普及を進めます。

関連情報

予算等 : 本研究課題は、農林水産省が運営する産学連携研究の仕組みの「知」の集積と活用の場において組織された研究開発プラットフォームから応募された課題です。

「知」の集積と活用の場について

URL : https://www.knowledge.maff.go.jp/

(予算)生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」JPJ007097 米粉を使用した嚥下障害者のための嚥下食の開発

問い合わせ先など

研究推進責任者 :

農研機構食品研究部門 所長亀山 眞由美

株式会社フードケア 代表取締役竹内 豊

株式会社図司穀粉 代表取締役社長図司 一智

研究担当者 :

農研機構食品研究部門 食品健康機能研究領域 上級研究員芦田 かなえ

広報担当者 :

同 研究推進部 研究推進室長中村 敏英

詳細情報

開発の社会的背景

【高齢化と嚥下食のニーズ】

日本では高齢化が進み、総人口に占める65歳以上人口の割合は2021年に28.9%、75歳以上人口の割合は14.9%となっています。加齢に伴い嚥下機能が低下するため、嚥下えんげ障害のある方向けの食事である嚥下調整食(嚥下食)の需要が増えています。嚥下食は、通常の調理に加え、加水量を増やし均一にして固めるといった工程を増やして普通食から展開する形で調理されますが、手間がかかるため病院や介護施設、在宅介護の場面で嚥下食調理の簡便化が望まれています。

【嚥下食の主食調理】

嚥下食においても主食は重要です。通常の米飯は粒状であるため飲み込みにくいことから、嚥下食にするためには、粥を炊いて、ミキサーにかけ、ゲル化剤を加えて固める操作が必要になります。さらに、通常食べられている米飯は粘りがあってミキサーにかけると「でんぷんのり」になってしまうことから、ミキサーにかける際にはでんぷん分解酵素を加える必要があります。このように、米を嚥下食にするためには通常の炊飯よりも手間がかかる他、調理後にミキサーの分解洗浄作業も必要となるため、嚥下食主食の調理の簡便化が望まれています。

研究の経緯

農研機構は、主食用のほか、米粉パン用、米粉麺用など加工用途に応じた幅広い特性をもった水稲品種をこれまで育成してきました。その中で、高アミロース米と呼ばれ、でんぷん中のアミロースという成分が多い品種の米粉から、軟らかくて付着性の低いゼリー状のゲルが得られることを見出しました。この高アミロース米粉ゲルは嚥下食に適する物性を示すことから、嚥下食の主食となる粥ゼリーの原材料として利用することで、嚥下食調理の手間の削減につながると考えられました。

高アミロース米粉を嚥下食用米粉として実用化するために、農研機構だけでなく、病院、医療研究機関、民間企業が参画する「米粉でやさしい嚥下食」研究コンソーシアムが2020年に結成され、医療・介護現場で求められる仕様を満たす嚥下食用米粉の開発が始まりました。

研究の内容・意義

【高アミロース米でんぷんのゲル化特性】

米の主成分であるでんぷんに水を加えて加熱すると糊化します。この時、でんぷん粒は膨潤して直鎖状の成分であるアミロースが溶出します。糊化したでんぷんを冷やすとでんぷん粒は収縮して老化するのですが、溶出したアミロースが十分多い場合は、アミロースが網目構造を形成して膨潤したでんぷん粒を抱え込みゲルになります(図1)。日本で主食として消費されている米はでんぷん中のアミロースが多くないため、糊化したでんぷんを冷やしても糊状のゾルのままですが、高アミロース米のでんぷんはゲル化します。

【米ゲルと米粉ゲル】

高アミロース米でんぷんのゲル化特性は、米ゲルあるいは米粉ゲルの形で利用することができます。米ゲルは米粒を炊飯して糊化させてからミキサー等によって均一化することにより、米粉ゲルは、生米を製粉して均一化してから糊化することにより作られます。米粉ゲルは、米粉から必要量だけ作ることができ、炊飯が必要な米ゲルよりも加熱時間が少なくて済み、濃度の調整が容易であるというメリットがあります。

【「ゼリーノ米粉の特徴」】

「ゼリーノ米粉」は、契約農家で栽培された国産の高アミロース米100%の米粉です。高アミロースでんぷんにゲル化特性があるため、ゼリーにする際のゲル化剤は不要で、滑らかでべたつきの少ないゼリーになります。

【様々な調理方法に対応】

日本での栽培に適した高アミロース米品種は複数ありますが、その中でも、でんぷんの特性が異なる品種をブレンドすることで、水に溶いてから熱湯を加えることにより弱いとろみを持たせることが可能になりました。とろみをつけることで、電子レンジやスチームコンベクションオーブンなど、加熱中に撹拌できない熱源でも調理を行うことが可能になりました(図2)。また、ブレンドにより冷蔵~温かい状態のいずれでも、嚥下食に適する物性を示す米粉になりました。

【再加熱、温冷配膳車に対応】

電子レンジや温蔵庫で再加熱しても、「ゼリーノ米粉」から調理した粥ゼリーは溶けることがなく、嚥下食に適する物性を維持します。

今後の予定・期待

病院や在宅介護で嚥下食を試作して頂いたところ、「ゼリーノ米粉」は簡単に作れて美味しいという声を頂いており、「ゼリーノ米粉」の普及により、嚥下食主食調理の負担を減らすことができると期待されます。また、「ゼリーノ米粉」はアレルギーの原因物質として問題となるゼラチンやグルテンを含まないため、これらのアレルギー対応の病院食としても使用できます。

「ゼリーノ米粉」は株式会社フードケアから1 kg入りのパッケージで病院や介護施設向けに販売します(図3)。今後、利用者の皆様の声を反映し、調理レシピなどを充実させて情報提供を行っていきます。要望があれば、一食単位の分包パッケージの販売も検討していきます。

用語の解説
1)でんぷん分解酵素
でんぷんに作用して糖に分解する酵素。粥ゼリーを作る際にはα-アミラーゼが用いられる。
2)ゲル化剤
液体状の食品を固める目的で使用する食品添加物で、ジェランガム、寒天などの増粘多糖類やゼラチンなどが用いられる。
3)アミロース
グルコースが重合した巨大な分子がでんぷんである。でんぷんのうち、グルコースが直鎖状に結合した成分をアミロースと呼び、枝分かれ構造を持つ成分をアミロペクチンと呼ぶ。
4)高アミロース米
含まれるでんぷん中のアミロース含有率が25%以上の米を高アミロース米という。日本で主食として消費されている米は、その多くがアミロース含有率が15~20%程度の中アミロース米である。
5)ゲル、ゾル
でんぷん、寒天、蛋白質などの微細なコロイド粒子が液体に分散し、流動性のある状態のものをゾルという(例:牛乳、マヨネーズ)。分散しているものがネットワークを形成して流動性を失い、固体状になったものをゲルという(例:寒天ゼリー、豆腐、プリン)。
発表論文

芦田かなえら(2019)高アミロース米の米粉から調製したゲルの物性.日本食品科学工学会誌, vol.66(8), 290-298.

参考図

嚥下食用米粉「ゼリーノ米粉」の発売~ ミキサー・ゲル化剤不要でお手軽に 米粉100%の粥ゼリーが作れます~

図1 高アミロース米でんぷんの糊化とゲル化

図2 調理方法の例

様々な調理方法に対応しています。

図3 パッケージの写真

株式会社フードケアから販売予定の商品パッケージ

有機化学・薬学
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