同種個体のかすかな化学的痕跡はフジツボ幼生の着生を遅らせる~フジツボの生態解明から付着防除技術の開発にも期待~

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2022-09-29 産業技術総合研究所

北出汐里(兵庫県立大学・環境人間学研究科)、遠藤紀之(姫路エコテック株式会社)、野方靖行(電力中央研究所)、松村清隆(北里大学・海洋生命科学部)、安元剛(北里大学・海洋生命科学部)、井口亮(産業技術総合研究所)、頼末武史(兵庫県立大学兼兵庫県立人と自然の博物館)は、フジツボの幼生の着生(注)を誘起することで知られていたフェロモンが、低濃度では着生を誘起せず、着生を抑制する働きを持つことを明らかにしました。

本研究成果は2022年9月29日に、国際科学誌「Frontiers in Marine Science」の電子版に掲載されました。

本研究のポイント

フジツボの幼生が同種の成体個体から分泌されるフェロモンの濃度情報を利用し、生息に適した着生場所を探索していることを明らかにしました。フジツボは海洋生態系における代表的な付着生物で、臨海発電所の冷却水系統や船底などの人工物に付着して、発電所の冷却効率低下や船舶の燃費増加を引き起こします。それらの影響は結果として二酸化炭素排出量の増加などにもつながっており、様々な環境的・経済的な悪影響が引き起こされています。このような生物付着を防ぐため、有機スズ化合物を含む防汚塗料などが広く使用されてきましたが、環境への悪影響により現在では国際的に使用が厳しく制限されています。そのため、新規な付着防除技術の開発が課題となっています。フジツボをはじめとした生物の着生メカニズムの解明は、この課題の解決にも貢献すると期待されます。

研究の背景

フジツボは交尾をして繁殖するため、同種個体が集まることが知られています(図1)。成体は岩盤などに固着して移動できないため、キプリス幼生(図2)が化学物質などを頼りに生息に適した着生場所を探索します。キプリス幼生の着生を誘起する化学物質の一つとして、成体が分泌する海水溶存性着生誘起フェロモン(WSP)が知られています。

WSPに関する既往研究では、容器の中に複数個体のキプリス幼生を入れてフェロモンに対する応答が調べられていました。しかし容器内でキプリス幼生同士が相互作用し、お互いに着生を誘起することが知られているため、実験で添加したWSPの効果をうまく検出できていない可能性がありました。そこで本研究では、容器の中にキプリス幼生を1個体ずつ入れてWSPの働きを調べました。

図1. タテジマフジツボの成体.同種個体が集まって群居を形成する.

図2

図2. タテジマフジツボのキプリス幼生. フェロモンなどを頼りに着生場所を探索する.

※図1、図2:電力中央研究所撮影.

研究の成果

キプリス幼生をWSPが入っていない海水(コントロール海水)およびWSPを低濃度(1 nmol/L), 中程度(10 nmol/L), 高濃度(100 nmol/L)に調整した海水に入れたところ、高濃度では着生率の上昇が認められたのに対し、低濃度ではコントロール海水よりも着生率が低下することを見出しました(図3)。低濃度のWSP刺激はキプリス幼生にとって、同種個体が存在する生息に適した着生場所が比較的離れた場所に確実に存在するという情報となり、着生場所の探索を継続させているのではないかと考えています(図4)。

図3

図3. 各濃度のフェロモン(WSP)刺激に対してタテジマフジツボのキプリス幼生個体が着生に至る確率. 各処理区に対し約300個体のキプリス幼生を試験した.

図4

図4. 本研究で示唆されたフジツボの着生メカニズムの概略.

今後の展望

キプリス幼生がWSPの濃度情報を利用し、生息に適した着生場所を探索していることがわかってきました。しかし、海域でのWSPの濃度や広がりはわかっていないことが多く、その解明は今後の課題として残されています。フジツボなどの付着生物は船舶などの人工物に付着して被害を引き起こす汚損生物としても知られており、着生メカニズムの解明は環境負荷の低い付着防除技術の開発に貢献することが期待されます。

用語解説
着生
幼生が岩盤などに付着し、変態すること。着生した個体は移動することができなくなるため、着生場所がその後の生息場所となる。
論文情報

【タイトル】
Faint chemical traces of conspecifics delay settlement of barnacle larvae
(同種個体のかすかな化学的痕跡はフジツボ幼生の着生を遅らせる)
【著者】
Shiori Kitade, Noriyuki Endo, Yasuyuki Nogata, Kiyotaka Matsumura, Ko Yasumoto, Akira Iguchi, Takefumi Yorisue
(北出汐里、遠藤紀之、野方靖行、松村清隆、安元剛、井口亮、頼末武史)
【雑誌・掲載日・doi】
Frontiers in Marine Science(掲載日:2022年9月29日)
doi: 10.3389/fmars.2022.983389

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産業技術総合研究所

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