準絶滅危惧種オオミズナギドリの頭部のない死骸はネコの捕食によるものだった~DNA分析による科学的エビデンス~

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2022-09-27 森林総合研究所

ポイント

  • 準絶滅危惧種オオミズナギドリの大規模繁殖地である御蔵島では、オオミズナギドリの頭部のない死骸が頻繁に目撃されています。
  • オオミズナギドリの死骸の傷口に残るDNAを調べたところ、複数の死骸からネコのDNAが検出されました。
  • この結果は、海鳥繁殖地におけるネコによる海鳥への捕食の実態を示す科学的エビデンスです。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、東京大学、御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会の研究グループは、伊豆諸島御蔵島において、準絶滅危惧種オオミズナギドリの繁殖期に頻繁に観察される頭部のない死骸の傷⼝からネコのDNAを検出し、ネコがオオミズナギドリを捕食していることを明らかにしました。
世界中の島々で海鳥の繁殖期に、頭部のない海鳥の死骸が頻繁に観察されることが報告されています。しかし、これまで捕食者を特定する決定的な証拠はありませんでした。オオミズナギドリの大規模繁殖地がある御蔵島では、屋外に定着したネコによって近年個体数が減少していると⾔われています。本研究では、御蔵島において日の出前後の時間帯から調査を開始し、8個体のオオミズナギドリの死骸を発見しました。そして、その傷口に残るDNAの分析を行い、捕食者の特定を試みました。その結果、8個体中6個体のオオミズナギドリの死骸の傷口からネコのDNAが検出され、ネコによる捕食が確認されました。これらの死骸は調査前日には存在しなかったことを確認しており、直前の夜間にネコに捕食されたものと推定されました。
本研究の結果は、御蔵島に生息するオオミズナギドリを守るためにはネコ対策の推進が不可欠であることを示しています。また、本研究は海鳥の捕食者を世界で初めての遺伝学的に検出した事例であり、御蔵島のみならず、ネコが定着する島々において世界中で確認される大型海鳥類の頭部のない死骸もまたネコによる捕食の可能性があることを示しています。本研究の科学的エビデンスにより、ネコが屋外にいることで生じる海鳥への捕食リスクを、より多くの方に知ってもらえることを望みます。
本研究成果は、2022年7月31日に、国際学術誌「Mammal Study」に掲載されました。

背景

オオミズナギドリ(写真a)は、東アジア地域の主に日本の島々で繁殖する海鳥で、IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧種(NT)に指定されています。森林の地面に横穴を掘って集団繁殖するという特徴を持つ鳥で、かつては⽇本の多くの島で繁殖していましたが、警戒心が極めて低く、人が持ち込み野生化したイタチやネコなどがいる島を中心に、繁殖地が次々と消失してしまったと言われています。
本種の大規模繁殖地のひとつとなっているのが、伊豆諸島の御蔵島です。御蔵島は、東京都心から南へ約200kmに位置する海洋島で、島を覆う照葉樹林にはスダジイの巨木が数多くみられ、島のほぼ全域が富士箱根伊豆国立公園に指定されています。オオミズナギドリは毎年3⽉から11⽉中旬までの約9か月間、繁殖のため島に滞在します。御蔵島のオオミズナギドリの繁殖個体数は、1970年代後半には本種全体の繁殖個体数の約7割から8割に相当する175万~350万羽と推定されていましたが、近年では10万羽程度と急激に減少してしまいました。御蔵島にはイタチは生息しておらず、⼀因として考えられているのが、島に多数生息する野生化したネコによる捕食です。
森林総研では、すでに同島に定着するネコの食性分析によって、ネコ1頭あたり年間313⽻のオオミズナギドリを食べていることを明らかにし、ネコによる大きなインパクトが及んでいる可能性を発表しました(2020年12月8日付プレスリリース)。しかし、これだけではネコが他の要因で死んだ個体を食べていた可能性を排除できませんでした。
オオミズナギドリの繁殖期には、住民や観光客によって頭部のないオオミズナギドリの死骸が頻繁に目撃されています(写真b)。死体の出血状況や患部の状況などの剖検から、「オオミズナギドリの死因は何物かに首を食べられたこと」が分かりました。しかしながら、どの動物がオオミズナギドリを直接襲って捕食しているのかについて特定する決定的な証拠はありませんでした。それを特定できれば、オオミズナギドリの状況について、より認識が広がることが期待されます。

オオミズナギドリの写真
写真a)御蔵島のオオミズナギドリ

頭部のないオオミズナギドリの写真
写真b)本研究でDNA分析を行ったオオミズナギドリの頭部のない死骸

内容

本研究では、御蔵島においてオオミズナギドリの死骸に残る捕食者DNAの検出を試みました。2020年11月14日から18日の期間に、日の出前の時間からオオミズナギドリの死骸の探索を行い、前日までの探索で確認されなかった新しい死骸のみを調査対象としました。探索の結果、オオミズナギドリ8⽻分の死骸を発見しました。死骸の傷口とその周辺部分を綿棒でぬぐい、エタノールで保存後、研究室に持ち帰り、採取されたサンプルからDNAを抽出し分析を行いました。その結果、8⽻中6⽻からネコのDNAが検出されました。
今回見つけたオオミズナギドリの死骸は、頭部が完全に消失しているか、頭部が食道や気管でかろうじてつながっている状態で、いくつかは内臓も消失している状態でした(写真b)。このような頭部がないという死骸の状態は、ネコによる大型海鳥類の捕食を示唆する主な特徴として挙げられることを示しました。ネコのDNAが検出されなかった残りの2つについては、現地でのサンプリング時に採取されたDNA量がわずかであったため検出できなかったことがデータから示唆されていますが、他の6⽻と同様に頭部のない状態であったこと、他の捕食者として考えられるネズミやカラスなどの捕食の痕跡が見られなかったことから、ネコによる捕食の可能性が高いと考えられました。

今後の展開

御蔵島のオオミズナギドリに対するネコの捕食は、これまでもネコの糞分析などによって示されてきました。これを受けて、これまで地元行政や有志によって、ネコの捕獲・島外搬出が実施されてきましたが、十分にネコを減らすには至っていません。一方で、御蔵島のオオミズナギドリの繁殖個体数は、前述のとおり急激に減少しています。オオミズナギドリを守るためにも様々な機関の参画によるより本格的なネコ対策の推進が求められます。そのような中、本研究の、頭部のない死体の捕食者を特定した科学的エビデンスは、屋外にいるネコによる捕食の実態を、より多くの方に認識してもらえることにつながると期待され、合意形成に大きく貢献すると考えられます。
また、本研究はネコと海鳥の死の関連を決定づける最後の証拠を世界で初めて遺伝学的⼿法によって明らかにした事例です。世界中で、ネコの定着した海鳥繁殖地の縮小が進んでいます。本研究は御蔵島のみならず、それらの地域で頻繁に確認される大型海鳥類の頭部のない死骸もまたネコの捕食による可能性が高いことを示唆し、さらなる調査や対策の必要性を訴えるものです。
本研究によって、海鳥繁殖地におけるネコによる海鳥への捕食リスクを、より多くの方に知ってもらえることを望んでいます。

論文

論⽂名:Cats were responsible for the headless carcasses of shearwaters: evidence from genetic predator identification (オオミズナギドリの首なし死骸はネコの捕食によるものだった:遺伝学的捕食者検出によるエビデンス)
著者名:Junco Nagata, Atsushi Haga, Yuki Kusachi, Mikuni Tokuyoshi, Hideki Endo, Yuya Watari
掲載誌:Mammal Study. Vol.47 No.3、2022年7月31日出版
DOI:https://doi.org/10.3106/ms2021-0047 【オープンアクセス、日本語要旨付き】

研究費:(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20204006)、国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所の「家族責任がある研究者のための支援制度」

共同研究機関

東京大学大学院農学生命科学研究科、御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室 主任研究員 亘 悠哉

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係

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