液相セグメント合成法により核酸原薬(オリゴヌクレオチド)1バッチ1㎏の製造を達成

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2022-10-28 株式会社ナティアス,株式会社ワイエムシィ,日本医療研究開発機構

株式会社ナティアス(本社:兵庫県神戸市、代表取締役社長:片岡正典、本事業課題の代表機関、以下「ナティアス」)は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下「AMED」)と2019年4月に委託研究開発契約を締結した医療研究開発革新基盤創成事業(以下「CiCLE」)における課題「液相セグメント合成法※1による核酸大量製造法開発」において、液相セグメント合成法により核酸原薬※2を㎏スケールで製造することに成功しました。

課題の実施内容

核酸医薬の有効成分であるオリゴヌクレオチド※3は現在、固相合成法※4により製造されていますが、この製造法は生産性や純度、環境面での課題を有しています。その中でも核酸医薬発展の最大のボトルネックは、原薬であるオリゴヌクレオチドの価格・スケーラビリティと言われています。従来の固相合成法はコスト/エナジーパフォーマンスが低く、多量の原料消費と大量の廃棄物によりスケールアップ/コストメリットの限界に達しており、モノマー原料を使用する製造では、オリゴヌクレオチドの純度を向上させることが難しく、流通する核酸原薬に含まれる多くの短鎖不純物が副作用のリスクを内包しています。

ナティアスは、これら従来法の問題点を解決する液相セグメント合成法の開発を進めており、従来法である固相合成法の生産性及び純度を大きく改善する製造法であることを実証するため、液相セグメント合成法で核酸原薬を1バッチ1㎏で製造する試験を行い、これを達成しました。本製造法における精製については、高度な医薬品精製用担体・設備を開発/販売し、精製受託実績も豊富な株式会社ワイエムシィ(所在地:京都府京都市、代表取締役社長:山村隆治、本事業課題の分担機関)と協力して進めました。

得られた成果及びその意義

液相セグメント合成法によって㎏スケールの核酸原薬の製造試験に成功しました。本技術の基盤となるセグメント(Blockmer®として商標登録)は多様な保護基や配列を選択することが可能で各種修飾ヌクレオシドにも対応するなど、汎用性の高い合成中間体として開発しました。今回の核酸の製造試験においてはリン酸部の保護基として核酸合成で汎用されるシアノエチル保護基※5に代えて、より安定で安全なアリル保護基※6を採用することで反応溶媒中の安定性と溶解性が向上し、中間体が分解することなく各工程を進めることが可能となりました(図1)。

図1 本課題で使用するアリル型セグメント

セグメントの合成においては、リン酸化/2量化/酸化の3工程についてプロセス開発を行い、縮合反応に使用する活性化剤の触媒化を実現し定量的な合成を確立したことで、セグメントの合成コストの大幅な削減と大量製造を達成しました。鎖長が8量体を越える大セグメントでは反応溶媒に対する溶解性が著しく低下するため、溶解性改善のために3′-末端にフルオラスアルコールを導入して8-12量体のセグメントを高収率/高純度で得るとともに、これを用いて24量体を合成しました。鎖長伸長のスキームは2 → 4 → 8 → 16 →24量体(Aルート)、あるいは3 → 6 → 12 → 24量体(Bルート)のように倍数伸長を実証し、本法の高い汎用性を確認することができました(図2)。


図2 液相セグメント合成法

今回の製造試験ではAルートを採用してkgスケールの製造試験を実施しました。得られた24量体オリゴヌクレオチドは純度、収量及び変換率の目標値を全てクリアし、液相セグメント合成法の高いポテンシャルを実証することができました(表1)。

1kg ODN 合成 収率(%) 純度(%)
2量体 87-99% ~99%
4量体 79-89% 96-98%
8量体 93-97% 89-97%
16量体 ~97% >90%
24量体 ~97% >90%
精製(沈殿法)24量体 ~85% 96.8%
全体 収率 ~55% 純度96.8%、収量1.16 kg

表1 鎖長伸長工程における収率及び純度

核酸のkgスケール製造試験によって液相セグメント合成法が従来の固相合成技術の問題であった生産性及びプロダクト純度を大きく改善することが明らかとなりました。本課題の成果は,核酸の医療利用を研究する製薬企業、創薬ベンチャーに対して高品質な核酸をリーズナブルな価格で供給することが可能となることを意味しています。

今後の展開

CiCLE事業の本研究課題において最適化を行った本液相セグメント合成法は、高純度かつ低コストで核酸原薬を製造できる優れた手法であり、大型リアクター/フロー合成技術の適用により1バッチ100㎏スケールで製造可能となります。今後は本技術を実装した設備化/施設化を進めて高品質な核酸をグローバルに供給し、革新的な新薬の開発・導出に大きく寄与できることを期待しています。

用語解説
※1液相セグメント合成法
ナティアスが開発した独自の核酸合成方法であり、セグメント化したオリゴヌクレオチドを中間体として用い、液相中で鎖長を伸長する手法
※2核酸原薬
核酸医薬品の製造に使用された時に有効成分となるオリゴヌクレオチド
※3オリゴヌクレオチド
複数のヌクレオチドから構成される重合体
※4固相合成法
核酸やペプチド、糖鎖など、繰り返し構造を有するオリゴマーを効率的に合成するための手法で、ポリスチレンビーズなどの担体上で原料や反応剤と処理することによって鎖長の伸長を行い、目的鎖長に達した後に固相担体から切り出して目的のオリゴマーを得る。
※5シアノエチル保護基
鎖長伸長反応において、望まぬ副反応を生じさせないために官能基を保護するため、リン酸エステル部に導入される。有機溶媒中で不安定であり、長時間有機溶媒に晒される液相合成に向かない。
※6アリル保護基
シアノエチル保護基と同様にリン酸エステル部に使用される保護基。有機溶媒中で安定であり、長時間有機溶媒に晒される液相合成に向いている。
本件に関するお問い合わせ先

課題内容に関するお問い合わせ
株式会社ナティアス

AMED事業に関するお問い合わせ
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
革新基盤創成事業部 計画調整課

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