造血幹細胞ニッチを形成する新たな血管起源の解明

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2023-01-24 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の中嶋洋行室長、石川博之連携大学院生(大阪大学)、望月直樹研究所長らの研究グループは、ドイツのマックスプランク研究所、京都大学との共同研究により、造血幹細胞の維持や増殖に必要な微小環境(ニッチ)を構成する新たな血管内皮細胞の起源を同定し、それが従来の血管の起源として知られている中胚葉ではなく内胚葉由来であることを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は米国科学誌「Developmental Cell(2月号)」に令和5年1月23日付でonline掲載されました。

■背景

血管が、血液を通す管であり、酸素化や栄養素の運搬(動脈)や老廃物の回収(静脈)を果たすことはよく知られています。さらに、近年の研究から、血管が単なる管として働くだけではなく、血管最内層に存在して血球の流動性を保つ血管内皮細胞が、組織特異的な因子(アンジオクライン因子)を発現することで、各臓器・組織での実質細胞や幹細胞の維持などの多彩な役割を担うことがわかってきました。例えば、骨髄などの造血組織では、血管が造血幹細胞の維持や増殖に必要な微小環境(ニッチ)を作ることが知られています。中胚葉由来の同一の血管内皮細胞でありながら、このような臓器や組織毎の血管内皮細胞の多様性がどのように生み出されているのかは、ほとんどわかっていませんでした。

■研究内容と成果

本研究では、ゼブラフィッシュを用いた最先端の生体イメージング手法と、単一細胞シークエンス解析により、発生期の造血幹細胞のニッチを形成する血管内皮細胞が、周囲の中胚葉由来の血管内皮細胞とは全く異なる内胚葉由来の細胞から分化することを発見しました。さらに本研究によって、造血組織特異的な血管機能に、血管内皮細胞の起源の違いが重要であることを初めて明らかにしました。
本研究では血管内皮細胞の分化状態を生きたまま可視化できる独自の遺伝子組み換え魚(トランスジェニックレポーターフィッシュ)を樹立することで、転写因子islet1を発現する新規の内皮前駆細胞(islet1陽性内皮前駆細胞)を同定し、これらの細胞が造血幹細胞ニッチを形成する血管内皮細胞へと分化することを明らかにしました(参考図)。さらに光変換(photoconversion)技術を用いた解析手法により、このislet1陽性内皮前駆細胞は、通常の血管の起源となる中胚葉ではなく、本来は腸や肺などを作る内胚葉に由来することを明らかにしました。本研究は、血管内皮細胞が内胚葉から生み出されることを示した初めての例であり、それにより、血管の起源の違いが機能の違いを生み出すことを明らかにしました。

■今後の展望

本研究ではゼブラフィッシュを用いて、造血を司る血管内皮細胞の起源の同定とその分化メカニズムの解明を行いました(参考図)。今後は、哺乳類モデルでの解析を行うことで、造血に関わる病態理解や、造血幹細胞の人工培養に向けた取り組みのシーズとなる研究となることが期待されます。

参考図

A. ゼブラフィッシュ胚の生体蛍光イメージング像。islet1+由来血管内皮細胞(緑)のほとんどは発生期の造血幹細胞ニッチであるCaudal hematopoietic tissue (CHT)に局在した。
B. 遺伝子改変技術により islet1+由来血管内皮細胞を特異的に除去すると、造血幹細胞の数が顕著に減少した。
C. 本研究では、内胚葉に由来するislet1+由来血管内皮細胞を同定し、これらが最終的に造血幹細胞ニッチとして特別な役割を持つことを明らかにした。

発表論文情報

著者:Hiroyuki Nakajima,* Hiroyuki Ishikawa,* Takuya Yamamoto, Ayano Chiba, Hajime Fukui, Keisuke Sako, Moe Fukumoto, Kenny Mattonet, Hyouk-Bum Kwon, Subhra P. Hui, Gergana D. Dobreva, Kazu Kikuchi, Christian S. M. Helker, Didier Y. R. Stainier, and Naoki Mochizuki
題名:Endoderm-derived islet1-expressing cells differentiate into endothelial cells to function as the vascular HSPC niche in zebrafish
掲載誌:Developmental Cell

謝辞

本研究は、文部科学省科研費(19H01022, 17K08560)、AMED-CREST、武田科学振興財団、日本応用酵素協会、国立循環器病研究センター循環器病研究開発費、他の研究プロジェクトの一環として実施されました。

報道関係の方からのお問い合わせ
国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

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