2023-11-14 東京大学
発表のポイント
◆霊長類コモンマーモセットの聴覚野イメージングによって、逸脱音を検出する脳活動(ミスマッチ陰性電位)の発生部位が高次聴覚野前方部にあることを発見しました。
◆AI の根幹学習アルゴリズムである誤差逆伝播法は生物の脳では不可能と考えられてきましたが、予測誤差信号のフィードバック自体は霊長類大脳皮質で起こることを示しました。
◆統合失調症患者ではミスマッチ陰性電位が減弱することが知られており、本結果は、統合失調症での大脳皮質回路動作異常の理解につながることが期待されます。
概要
理化学研究所脳神経科学研究センター脳機能動態学連携研究チームの小原慶太郎基礎科学特別研究員(研究当時)、東京大学大学院医学系研究科細胞分子生理学分野の松崎政紀教授(理化学研究所脳神経科学研究センター脳機能動態学連携研究チーム チームリーダー)、山梨大学医学部の宇賀貴紀教授、理化学研究所脳神経科学研究センター高次脳機能分子解析チームの山森哲雄チームリーダー(研究当時、現 触知覚生理学研究チーム 客員主管研究員)、自然科学研究機構生理学研究所の小林憲太准教授、自治医科大学の水上浩明教授、東京大学医学部附属病院精神神経科の笠井清登教授らの研究チームは、霊長類コモンマーモセット(注 1)の大脳皮質聴覚野の神経活動を高い空間解像度でイメージングすることで、同一の音がある時間間隔で繰り返して鳴っているときに、予測できない音(逸脱音)が入り込むとその直後に、高次聴 覚野前方部から一次聴覚野へ予測誤差信号がフィードバックすること、これが一次聴覚野の逸脱音に特異的な反応成分(ミスマッチ陰性電位)の正体であることを明らかにしました。
今回の成果は、統合失調症患者で減弱するミスマッチ陰性電位のメカニズム解明へつながり、統合失調症をもたらす精神疾患に対する新たな治療方法の開発が期待できます。誤差信号のフィードバックの発見は、私たちの大脳皮質の学習原理の解明にも大きく貢献するものです。