生体チオール検出ツールの最小化に成功~生命活動に必須な分子の新しい検出手法を提供~

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2023-12-14 東北大学

大学院薬学研究科 合成制御化学分野
助教 山越博幸

【発表のポイント】

  • 分子量の大きい蛍光色素に替わり分子量の小さなニトリル(注1)を目印として用いることで、生体恒常性に重要なシステインなどの生体チオール(注2)の検出プローブの最小化に成功しました。
  • 生体チオールと結合するとラマン散乱光(注3)の波数が変化する分子のラマンイメージング(注4)を行うことで、生体チオールの濃度を測定できました。
  • 本研究成果は、生体チオールの検出において新たな展望を開く可能性があり、生体チオールの動態を理解し、関連する生化学的プロセスを研究するための重要なツールとなることが期待されます。

【概要】

生体チオール量の変化は種々の疾患に関連しており、細胞内の特定の位置における生体チオール量を調べることは重要です。細胞内の分子を観察するためには目印が必要であり、一般的には蛍光色素を目印として連結させた蛍光プローブ(注5)が利用されます。生体チオール検出用の蛍光プローブは、観察対象や可視化の手法に合わせて選択する必要があり、これまでに80種類以上の蛍光プローブが開発されています。ただし蛍光色素は比較的大きな構造(分子量200以上)を持つため、蛍光プローブの小型化には制約がありました。

東北大学大学院薬学研究科の山越博幸助教らの研究グループは、蛍光色素を用いない、世界最小の生体チオール検出プローブThioRas(チオラス:分子量167)を開発しました。ThioRasは生体チオールと結合すると、ラマン散乱光の波数が変化する性質を持ち、これをラマンイメージングすることで、チオール濃度を測定できました。小さくて水溶性に優れるThioRasは、細胞実験において均一な分布特性を示します。この特性から、今後、複数部位の生体チオール濃度を同時に測定するためのツールとして利用されることが期待されます。

本研究の成果は、2023年11月21日に科学誌Chemical Communicationsにオンライン掲載されました。

なお本成果は、東北大学大学院薬学研究科柴田大輝大学院生、梶本真司准教授、髙山亜紀助教、岩渕好治教授、中林孝和教授、大阪大学大学院工学研究科の畔堂一樹特任研究員、藤田克昌教授、理化学研究所開拓研究本部および環境資源科学研究センターの江越脩祐研究員、闐闐孝介専任研究員、袖岡幹子主任研究員との共同研究によるものです。

図1. αCNAとチオール付加体のラマン散乱光は波数が異なる

【用語解説】

注1. ニトリル
ニトリルは有機化合物の官能基の一種で、炭素と窒素が三重結合で結ばれた構造(シアノ基とも呼ばれる)を持ちます。強く特徴的な波数のラマン散乱を与える官能基であることから、しばしばラマンイメージングの目印として使用されます。

注2. 生体チオール
チオールは、アルコールの硫黄版で、アルコールのOH基がSH基に置き換わった化合物全般を指します。生体チオールは、チオールの中で生体内に存在するものを指しますが、具体的な定義はありません。生体チオールの代表的な例には、システインやグルタチオンがあります。

注3. ラマン散乱光
分子に光を入射した際、波数(単位長あたりの波の数)の変化した光が散乱されます。この変化した光をラマン散乱光と呼びます。入射光とラマン散乱光の波数変化には分子の振動に関する情報が含まれています。つまり、ラマン散乱光を分析すると、分子がどのような振動をする構造を持っているのかに関する情報が得られます。

注4. ラマンイメージング
ラマンイメージングは、ラマン顕微鏡を使用して、観察対象サンプルの各地点から発生するラマン散乱光の強度分布を画像として取得する技術です。この手法を用いることで、特定の分子から生じるラマン散乱光の強度分布を解析し、観察対象分子がサンプル内(例えば細胞)のどの領域にどれくらい存在するかを調べることができます。

注5. 蛍光プローブ
蛍光プローブとは、蛍光色素をその構造中に含む分子のことを指し、特定の光を当てると蛍光を発生する特性を持ちます。細胞に取り込まれた蛍光プローブの蛍光を分析することで、そのプローブやそれに反応する分子が細胞内のどの領域にどれくらい存在するかを調べることができます。

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
助教 山越博幸

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部 総務係

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