平滑筋肉腫の免疫逃避に関わる分子を発見~免疫療法が不応とされてきた転移性平滑筋肉腫の新たな治療法開発に期待~

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2024-02-15 九州大学

ポイント

  • 平滑筋肉腫には手術以外の有効な治療方法がなく、遠隔転移例や切除不能例に対する治療には限界がある。また、悪性腫瘍に対する新たな治療薬として近年注目されている免疫チェックポイント阻害薬も、平滑筋肉腫にはほとんど効果がないことが知られている。
  • 平滑筋肉腫の遠隔転移で最も頻度の多い肺転移では、細胞傷害性T細胞の浸潤が著しく減少しており、この免疫逃避にはEPCAMという分子が関わっていることを明らかにした。
  • これまで有効な治療方法のなかった転移性平滑筋肉腫に対して、EPCAMを標的とした新たな治療方法の開発が期待される。

概要

平滑筋肉腫は四肢や体幹、頭頸部や後腹膜など全身のあらゆる場所に生じ得る悪性軟部腫瘍であり、切除可能であれば手術による外科的切除が有効です。しかし、切除不能なものに対しては有効な治療方法がなく、特に遠隔転移がある場合は5年生存率が20%を下回り、極めて予後不良です。そのため、転移性平滑筋肉腫に対する新たな治療方法の開発が望まれていました。
九州大学大学院医学研究院整形外科学教室の金堀将也大学院生(医学系学府博士課程4年)、中島康晴教授、松本嘉寛准教授(現在は福島医科大学教授)、廣瀬毅助教(研究当時)、島田英二郎大学院生(現在はDuke大学へ留学中)、大山龍之介大学院生(医学系学府博士課程3年)、形態機能病理学教室の小田義直教授、川口健悟大学院生(医学系学府博士課程4年)、九州大学病院整形外科の遠藤誠講師、藤原稔史助教、鍋島央助教らの研究グループは、平滑筋肉腫の遠隔転移で最も頻度の多い肺転移では、抗腫瘍効果をもたらす細胞傷害性T細胞(※1)の浸潤が著しく減少しており、この免疫逃避(※2)にはEPCAM(※3)という分子が関わっていることを明らかにしました。また、EPCAMを阻害することで細胞傷害性T細胞の遊走(※4)が回復することを示しました。
本研究は転移性平滑筋肉腫に対する新たな治療標的を明らかにしたものであり、新たな治療方法の開発が期待されます。また、EPCAMは多くの悪性腫瘍に発現している分子であり、今回の発見が他の悪性腫瘍へ応用されることも期待されます。
本研究結果は英国の科学雑誌「British Journal of Cancer」に2024年1月30日(現地時間)に公開されました。


図1 肺転移で発現上昇したEPCAMの阻害により細胞傷害性T細胞の遊走が回復する

研究者からひとこと

本研究により、転移性平滑筋肉腫に対する新たな治療標的が明らかとなりました。新たな治療方法の開発が期待されます。また、今回の知見は他の悪性腫瘍に応用されることも期待されます。

用語解説

(※1) 細胞傷害性T細胞・・・T細胞の一種で、宿主にとって異物になる細胞(がん細胞など)を認識し、破壊する機能をもつ。細胞表面にCD8という分子をもつT細胞(=CD8+ T細胞)がリンパ節で活性化され、細胞傷害性T細胞となる。腫瘍免疫においては、広義的にCD8+ T細胞と細胞傷害性T細胞は同じ意味で扱われる。

(※2) 免疫逃避・・・本来がん細胞は免疫細胞によって監視されており、細胞傷害性T細胞をはじめとした免疫細胞によって破壊される。しかし、がん細胞は様々なメカニズムにより、この免疫監視機構から逃れる術を獲得する。これを免疫逃避という。

(※3) EPCAM・・・epithelial cell adhesion moleculeを略してEPCAMと呼ばれる(和名:上皮細胞接着分子)。正常組織においても消化管などの正常上皮細胞に発現しているが、大腸がんや乳がんなどの上皮系の悪性腫瘍で高発現している。腫瘍の増殖や転移、がん幹細胞性に関わることが知られている。

(※4) 遊走・・・細胞などが生体内のある位置から別の位置に移動することを指す。細胞傷害性T細胞が腫瘍に浸潤するためには、細胞傷害性T細胞が血管などから腫瘍内へ遊走する必要がある。

  • 本研究成果の詳細についてはこちら
論文情報

掲載誌: British Journal of Cancer
タイトル:Immune evasion in lung metastasis of leiomyosarcoma: upregulation of EPCAM inhibits CD8+ T cell infiltration
著者名:Masaya Kanahori, Eijiro Shimada, Yoshihiro Matsumoto, Makoto Endo, Toshifumi Fujiwara, Akira Nabeshima, Takeshi Hirose, Kengo Kawaguchi, Ryunosuke Oyama, Yoshinao Oda, and Yasuharu Nakashima
DOI:10.1038/s41416-024-02576-z

研究に関するお問い合わせ先

九州大学病院 整形外科 遠藤 誠 講師

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