2024-03-05 京都大学
小川治夫 薬学研究科准教授、児玉昌美 静岡県立大学助教は高輝度放射光施設SPring-8を利用したX線結晶解析により、「心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の受容体NPR-Aのホルモン認識機構」を明らかにしました。心房から分泌されるANPは血圧や体液量の調節など生命の維持に不可欠な働きを担うホルモンで、NPR-AがANPを認識する機構の解明は医科学的に大きな意味を持ちます。
これまで「点対称」に向き合った2分子のNPR-Aが1分子のANPを結合することは明らかでしたが、ANPのアミノ酸配列には特に規則性は見出せず、「点対称」に配置した2分子のNPR-Aが対称的ではないANPをどのように認識するかは未解明でした。研究グループは、NPR-AとANPの複合体構造を高分解能で決定し、結合したANPが「擬似的に点対称」の形をとることで「点対称」に配置した2分子のNPR-Aへ認識されることを世界で初めて明らかにし、この疑問を解決しました。心不全のための新規創薬も期待され大変大きな成果です。
本研究成果は、2024年3月4日に、国際学術誌「The FEBS Journal」にオンライン掲載されました。
図 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)がその受容体NPR-Aにより認識される機構
研究者のコメント
「本研究プロジェクトの開始は約14年前になります。さらりと記述した立体構造構築での工夫ですが、本手法を編み出すまでには血の出るような苦しみがありました。それが解析に時間がかかった所以です。解析には何度も挫折しましたが、対称を持たないANPが「点対称」に変身してNPR-Aに認識されるという大変シンプルな結論を得られたのは、研究者冥利に尽きます。本研究成果が急性心不全等に対する新たな治療薬の開発へ繋がることを確信しています。」(小川 治夫)
詳しい研究内容について
点対称への変身が受容体によるホルモン認識の鍵! ―新規心不全治療薬へ向けた手がかりを提示―
研究者情報
研究者名:小川 治夫