”胆汁酸”がB型肝炎ウイルスの感染を制御~B型肝炎ウイルスの排除や感染予防に期待~

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2021-02-19 愛知医科大学,日本医療研究開発機構

愛知医科大学医学部の伊藤清顕特任教授、奥村彰規特別研究助教らの研究グループは、広島国際大学薬学部および国立感染症研究所との共同研究で、B型肝炎ウイルス(HBV)に結合して肝臓への感染を防御する新たな抗ウイルス作用を持つ特定の胆汁酸誘導体を発見しました。胆汁酸は経口投与すると小腸で吸収され大部分が肝臓に運ばれるため、HBVに対してこれまでにないタイプの飲み薬になる可能性があります。

HBVの持続感染者は、世界で2億6千万人とも言われ、現在も拡大し続けています。国内では人口の1%程度(110~140万人)が持続感染していると推定されており、肝硬変や肝臓がんの原因になります。現在B型肝炎の治療に使用されている薬剤は、副作用の問題があることや、肝臓からHBVを完全に排除することができないという点から、新しい作用を持つ抗HBV剤の開発が期待されています。今回、本研究グループはこの胆汁酸誘導体の経口投与によりHBVの感染が阻害されることを動物実験で明らかにしました。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)・肝炎等克服実用化研究事業・B型肝炎創薬実用化等研究事業「胆汁酸代謝調節機構を標的としたB型肝炎ウイルス制御」(研究開発代表者伊藤清顕)の支援を受けています。

本研究成果は、2021年1月12日(米国東部時間)に「Hepatology」誌に掲載されました。

研究の背景、概要と成果

愛知医科大学医学部の伊藤清顕特任教授、奥村彰規特別研究助教らの研究グループは、広島国際大学薬学部や国立感染症研究所との共同研究で、胆汁酸誘導体の一部に、HBVのエンベロープ蛋白質(外殻)に結合して肝細胞への侵入を阻害する作用があることを明らかにしました。

C型肝炎ウイルスに対しては、2種類や3種類の内服薬を8週間から24週間内服することで95%以上の患者さんでウイルスを完全に排除することができるようになり、C型肝炎に関しては将来の撲滅が見えてきています。一方で、HBVの治療に関してはインターフェロンという注射薬や核酸アナログ製剤という内服薬がありますが、副作用の問題があることやウイルスを肝臓から完全に排除することが難しいため、新しい抗HBV剤の開発が求められています。

本研究では、特定の胆汁酸誘導体がHBVの外殻に結合することで肝細胞上のHBVの受容体であるナトリウム依存性胆汁酸輸送担体(NTCP)への結合を阻害し、HBVが肝細胞へ侵入できなくなることを発見しました(図)。


図 特殊な物質(胆汁酸誘導体の一種)がB型肝炎ウイルスに結合して肝細胞への侵入を妨げる。

胆汁酸は肝臓で産生され、胆のうに胆汁の主成分として蓄えられます。胆汁は物を食べると消化管へ分泌され、食物中の脂質を胆汁酸がミセル化して小腸での吸収を助けます。この消化吸収に加えて便の流れを助ける働きから胆汁酸には「腸管の石けん」といった別名もあります。本研究グループは、胆汁酸がNTCPを利用して肝細胞内に取り込まれるため、一部の胆汁酸がNTCPに作用してHBVとの結合を阻害するものと予想していたのですが、研究を進めていくうちに主にHBVに結合して感染を阻害することをつきとめました。また、胆汁酸は内服した成分のおよそ95%が小腸で吸収されて肝臓に運ばれますので、肝臓に感染するHBVに対して胆汁酸を使用した薬剤は有利に働きます。この内服薬の開発が進みますと、HBVの感染予防や持続感染者からHBVを排除することが可能になるかもしれません。

今後の展開

HBVが肝細胞へ侵入するのを阻害することができれば、新たに感染が成立するのを防ぐことができます。現在HBVに感染している多くの方は母子感染により感染したと考えられています。現在、母子感染は出生後すぐに赤ちゃんにHBVに対するワクチンと免疫グロブリンを打つことで多くの場合感染を防ぐことができます。しかし、母子感染を防ぐことができなかったケースが9%程度あったというデータもあり、これは子宮内で既に赤ちゃんに感染していたケースや生後すぐにワクチンや免疫グロブリンを打てなかったことが原因と考えられています。このような母子感染を防ぐためにも安全性が高くウイルスの肝細胞侵入を阻害する薬剤が有効であると考えられます。また、現在HBVに感染して肝硬変や肝臓がんになってしまった患者さんの肝臓を切除して健康な肝臓を移植しても、その健康な肝臓に再びHBVが感染してしまうことや過去にHBVに感染したことがある方からの肝臓以外の臓器を移植した時に新たにHBVに感染してしまうことが問題になっています。このような場合にも、ウイルスに結合して感染を阻害する薬剤が役に立つと考えられます。

研究成果の公表

本研究成果は、2021年1月12日(米国時間)のHepatology誌に掲載されました。

論文タイトル
Dual Agonist of Farnesoid X Receptor and G Protein‐coupled Receptor TGR5 Inhibits Hepatitis B Virus Infection in Vitro and in Vivo
(FXRとTGR5のデュアルアゴニストはin vitroおよびin vivoでB型肝炎ウイルス感染を抑制した)
著者
❋伊藤清顕(愛知医大・医学部)、奥村彰規(愛知医大・医学部)、竹内潤子(感染研・ウイルス第二部)、渡士幸一(感染研・ウイルス第二部)、井上利恵子(愛知医大・医学部)、山内妙子(愛知医大・医学部)、坂本和賢(愛知医大・医学部)、山下ユキコ(広島国際大学・薬学部)、井口裕介(広島国際大学・薬学部)、宇根瑞穂(広島国際大学・薬学部)、脇田隆字(感染研・ウイルス第二部)、梅澤一夫(愛知医大・医学部)、米田政志(愛知医大・医学部)
本研究成果のポイント
  • 胆汁酸誘導体を内服することにより動物を使用した感染モデルでB型肝炎ウイルスの感染を阻害しました。
  • 特定の胆汁酸誘導体はB型肝炎ウイルスに結合して肝細胞への侵入を阻害することを明らかにしました。また、それだけでなく肝細胞内の核内受容体を介してB型肝炎ウイルスの感染を阻害していました。
  • 胆汁酸誘導体は内服可能であり小腸で吸収されて肝臓に運ばれるため、効率的にB型肝炎ウイルスの感染を阻害します。したがって特定の胆汁酸誘導体はB型肝炎ウイルスの慢性肝炎や肝硬変といった持続感染者に有効であると考えられます。また、感染予防薬としての効果も期待できます。
本件に関するお問い合わせ先

研究内容に関すること
愛知医科大学医学部 内科学講座(肝胆膵内科)
伊藤清顕・特任教授

報道に関すること
愛知医科大学 庶務課

AMED事業に関すること
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課

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