2024-04-08 国立遺伝学研究所
細胞が増殖する際には遺伝情報物質であるゲノムDNAが複製されます。その際、DNAだけではなく、細胞の生存に必須なDNAの修飾情報であるDNAメチル化も親細胞から娘細胞に維持されていきます。このDNAメチル化を維持するには、DNAメチル化酵素であるDNMT1とその活性化因子であるUHRF1が重要であることが知られていました。しかし、UHRF1自体にはDNAメチル化酵素としての機能はなく、UHRF1はあくまでDNAメチル化酵素であるDNMT1の機能を補助する役割であると認識されていました。一方で、UHRF1はDNMT1と異なり癌原遺伝子としても認識されており、多くの癌細胞において過剰発現をしていることが知られていたため、DNMT1の制御以外の役割があることが示唆されていました。
本論文では、UHRF1とDNMT1の詳細な機能比較を行うため、鐘巻研究室が開発した標的タンパク質分解技術であるオーキシンデグロン(AID)法およびAID2法により、大腸癌におけるUHRF1およびDNMT1の即時分解を行いました。興味深いことにDNMT1を分解した時に比べ、UHRF1を分解した際により顕著なDNAメチル化の減少が確認され、UHRF1がDNMT1を制御する以外の役割を持つことが示唆されました。また、UHRF1およびDNMT1分解後の細胞の全ゲノムDNAメチル化解析および遺伝子ノックアウト・ノックダウン解析により、UHRF1がDNMT1だけでなくDNAメチル化酵素であるDNMT3A/ DNMT3Bと脱メチル化酵素であるTET2も制御することが明らかになりました。
鐘巻研究室の山口助教(当時、パリ・シテ大学、博士研究員)が筆頭著者・共責任著者として、Pierre-Antoine Defossez博士の研究室において本研究をおこないました。また、鐘巻将人教授も共同研究者として本研究に参画しました。
図:DNAメチル化維持機構におけるUHRF1の役割の新モデル。
Non-canonical functions of UHRF1 maintain DNA methylation homeostasis in cancer cells
Kosuke Yamaguchi, Xiaoying Chen, Brianna Rodgers, Fumihito Miura, Pavel Bashtrykov, Frédéric Bonhomme, Catalina Salinas-Luypaert, Deis Haxholli, Nicole Gutekunst, Bihter Özdemir Aygenli, Laure Ferry, Olivier Kirsh, Marthe Laisné, Andrea Scelfo, Enes Ugur, Paola B. Arimondo, Heinrich Leonhardt, Masato T. Kanemaki, Till Bartke, Daniele Fachinetti, Albert Jeltsch, Takashi Ito & Pierre-Antoine Defossez
Nature Communications (2024) 15, 2960 DOI:10.1038/s41467-024-47314-4