脳梗塞再発予防抗血小板薬併用療法を行う際の適切な血圧は?: 国内多施設共同 CSPS.com試験サブ解析

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2024-07-12 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の山口武典名誉総長を研究代表者とする国内多施設共同研究グループによる無作為化比較試験Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination (CSPS.com)のサブ解析として、豊田一則副院長、古賀政利脳血管内科部長、大前勝弘臨床統計室前室長らが、国産の抗血小板薬であるシロスタゾールを含めた抗血小板薬長期併用療法中の適切な血圧管理について検討しました。
その結果、脳梗塞再発予防のためには長期的に降圧を続けることが必要であることを示す初見を得ました。
この研究成果は、日本高血圧学会英文機関誌「Hypertension Research」オンライン版に、令和6年7月9日に掲載されました。

■背景(CSPS.comとは)

非心原性脳梗塞(心臓からの塞栓症以外の脳梗塞)の再発予防には抗血小板薬が不可欠ですが、頭蓋内や全身に副作用として生じる出血(出血性合併症)が悩みの種です。国産薬であるシロスタゾールは、その多面的作用で「出血を起こしにくい抗血小板薬」として知られ、国内で行われたCSPS試験(J Stroke Cerebrovasc Dis, 2000年)、CSPS2試験(Lancet Neurology, 2010年)によって、高い脳梗塞再発予防効果と安全性が示されました。

CSPS.com試験は、シロスタゾールを含めた血小板薬併用療法の効果を検討した無作為化非盲検並行群間比較試験*です。発症後8~180 日の非心原性脳梗塞で、頚部または頭蓋内の動脈に50%以上の狭窄を認めるか、2つ以上の動脈硬化危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙など)を有するかの条件を満たす1879例を、アスピリンあるいはクロピドグレルといった従来から脳梗塞患者に用いられてきた抗血小板薬の単剤服用群と、この2剤のどちらかにシロスタゾールを併用する群に無作為に割り振りました。脳梗塞再発は併用群の方が単剤服用群に比べて発現率が約半分に抑えられ、全ての脳卒中なども同様に併用群が有意に発現を抑えました。一方、出血性合併症の発症は、2群間で有意な違いはありませんでした。本試験によって、ハイリスク非心原性脳梗塞患者にアスピリンまたはクロピドグレルに加えてシロスタゾールを長期併用することで、単剤治療に比べて脳梗塞再発予防効果が向上し、かつ安全性についても差がないことが示されました。この主解析結果は、2019年にLancet Neurology誌に掲載されました。

■本サブ研究の概要

今回のサブ研究では、シロスタゾールを含めた併用療法を施行するうえで最も適切な長期の血圧レベルを求めました。CSPS.com登録患者を対象に、有効性主要評価項目**を観察期間中の脳梗塞再発、有効性副次評価項目**を脳卒中、心筋梗塞、血管病死のいずれかの発症(複合エンドポイント)、安全性評価項目**を重症・重篤出血として、観察期間中に測定された血圧値と各イベントとの関連を求めました。

1657例(69.5±9.3 歳、女性29.1%)を中央値で1.5年間観察したところ、脳梗塞が74例、複合エンドポイントが92例、重症・重篤出血が18例(本試験では全例が頭蓋内出血)に起こりました。脳梗塞再発については、収縮期血圧が10%増すごとの脳梗塞再発の調整ハザード比は1.19 (95% 信頼区間 1.03 – 1.36)、10mmHg増すごとの調整ハザード比***は1.14 (1.03 – 1.28)と有意な関係を示しました。複合エンドポイントについては、これらの調整ハザード比は1.18 (1.04 – 1.34) と 1.15 (1.04 – 1.26)と有意な関連を示しましたが、重症・重篤出血は1.11 (0.82 – 1.50)、1.09 (0.87 – 1.37)と、血圧との有意な関連はありませんでした。なお拡張期血圧で検討すると、いずれの場合も有意な関連はありませんでした。

脳梗塞再発および複合エンドポイントに関して、抗血小板薬併用群と単剤群での調整ハザード比を縦軸に収縮期血圧を横軸に置いたグラフでの曲線を求めると、収縮期血圧が約120 mmHgから約165 mmHgの広い範囲で、併用群の方が単剤群よりも脳梗塞再発が有意に少ないことが分かりました。

■本研究の意義

シロスタゾールを含めた抗血小板薬長期併用療法は、わが国の試験で効果が証明された脳梗塞再発予防法です。今回の研究では、このような抗血小板療法への血圧値の関与を、血圧を時間に依存する要因とみなして評価したことが特徴的です。収縮期血圧の増加に伴い、脳梗塞再発や血管病の複合エンドポイントのリスクも有意に高まり、また収縮期血圧値の広い範囲で、シロスタゾールを含めた併用療法がアスピリンないしクロピドグレルの単剤療法よりイベント発現を有意に減らしました。脳梗塞慢性期の適切な血圧管理の必要性を、改めて示すことが出来ました。

今回の研究論文は、「Hypertension Research」が現在力を入れている「Asian Study: Current evidence and perspectives for hypertension management in Asia」の対象論文にも選ばれ、とくにアジアで脳梗塞再発予防に処方されることの多いシロスタゾールの適切な治療法として脳梗塞長期慢性期の厳密な降圧を勧める根拠となりました。

* 「無作為化非盲検並行群間比較試験」
無作為化=臨床試験への参加者をランダムに、二つの治療群に割り振ること。
非盲検=参加者がどちらの群の治療を受けているか、参加者にも医療者側にも分かっていること。
並行群間比較=二つの治療群の効果を、同時に検討すること。

** 「評価項目」
試験の目的に直結した結果。このうち治療薬の効き目に関するものが有効性、副作用などに関するものが安全性。また最も重要な評価項目が主要で、それに準じるものが副次。

*** 「調整ハザード比」
ハザード比とは脳梗塞などのイベントの単位時間あたり発生率の、二つの治療群での比。調整とは、イベントの起こり方が設定された治療と別の因子(例えば年齢など)の影響を強く受けていると考えた場合に、その因子を最小限に抑えるための統計処理。

■発表論文情報

著者: Kazunori Toyoda; Masatoshi Koga; Kenta Tanaka(以上、国立循環器病研究センター:国循); Shinichiro Uchiyama(国際医療福祉大学); Hisato Sunami; Katsuhiro Omae(以上、国循); Kazumi Kimura (日本医科大学); Haruhiko Hoshino(東京都済生会中央病院); Mayumi Fukuda-Doi; Kaori Miwa; Junpei Koge(以上、国循); Yasushi Okada(NHO九州医療センター); Nobuyuki Sakai(神戸市立医療センター中央市民病院); Kazuo Minematsu(医誠会国際総合病院); Takenori Yamaguchi(国循); the CSPS.com Trial Investigators

論文名: Blood pressure during long-term cilostazol-based dual antiplatelet therapy after stroke: a post hoc analysis of the CSPS.com trial

掲載誌: Hypertension Research® (published online on 09 July, 2024)

■謝辞

今回の研究は、公益財団法人循環器病研究振興財団の助成を受けて行われました。

(図1)グラフィックアブストラクトの和訳
脳梗塞再発予防抗血小板薬併用療法を行う際の適切な血圧は?: 国内多施設共同 CSPS.com試験サブ解析

【報道機関からの問い合わせ先】

国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室

医療・健康
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