働く女性の健康管理を目的としたIoTおよびアプリの利用実態が明らかに~日本人女性1万人にアンケート調査を実施~

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2024-08-01 東京大学,聖路加国際大学,日本医療研究開発機構

発表のポイント

◆健康管理のためのIoT/アプリの利用実態について、働く日本人女性1万人を対象としたインターネット調査を実施しました。
◆本研究から、働く女性の健康問題を改善するためのIoT/アプリなどのデジタルヘルス機器の普及が進んでいないことが示されました。
◆今後、働く女性の健康ニーズに対応したデジタルヘルス機器の開発と利用が推進されることで、様々な世代の女性にとって働きやすい環境整備が進むことが期待されます。

働く女性の健康管理を目的としたIoTおよびアプリの利用実態が明らかに~日本人女性1万人にアンケート調査を実施~

健康管理の新時代:IoT/アプリを活用して、女性の健康支援に取り組む
AI生成にて作成( Adobe Firefly Image2、2024年6月18日作成)

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の齋藤英子准教授と、聖路加国際大学大学院看護学研究科の大田えりか教授らによる研究グループは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のヘルスケア社会実装基盤整備事業の支援により、働く女性の健康問題を特定し、健康管理を目的としたIoT(注1)/アプリの利用実態を明らかにしました。
本研究では、日本全国の20歳から64歳までの女性1万人を対象に、健康管理のためのIoT/アプリの利用状況についてのインターネット調査を実施しました。その結果、健康管理のためにIoT/アプリを利用している女性は14.6%、過去に利用していた女性は7.0%、利用経験がない女性は78.5%でした

また、現在IoT/アプリを利用している女性のうち、27.6%が月経関連の症状や疾患を抱える一方、それを下回る17.1%の女性が月経関連の症状や疾患の改善のためにIoT/アプリを利用していることが分かりました。一方で、実際にやせ・肥満・むくみ・ダイエットや栄養障害の問題を抱える女性は17.1%でしたが、これらの問題を改善する目的でIoT/アプリを利用する女性は実際に問題を抱える女性を上回る27.8%でした。このことから、実際のIoT/アプリの利用目的と健康状態の実態には乖離があることが分かりました。
今後、働く女性の健康ニーズに対応したデジタルヘルス機器の開発と利用が推進されることで、様々な世代の女性にとって働きやすい環境整備が進むことが期待されます。

発表内容

これまで、IoT/アプリの利用が人々の健康行動を促し、メタボリックシンドロームなどを改善する効果があることはわかっていましたが、現役世代の働く女性によるIoT/アプリの利用と女性特有の健康問題との関連を検証した研究はありませんでした。また、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決することを試みるフェムテック(注2)について、国内でも徐々に関心や期待が高まっていますが、その利用実態は分かっていませんでした。

そこで本研究グループは、働く日本人女性による健康づくりを目的としたIoT/アプリの利用状況と女性特有の健康問題の実態に関する包括的な調査を行いました。その結果、1万人の働く女性のうち、健康管理のためにIoT/アプリを利用している人は1万人中1455人(14.6%)、過去に利用していた人は695人(7.0%)、利用経験がない人は7850人(78.5%)で、健康管理のためにIoT/アプリを利用している女性が少ないことが分かりました。1万人の働く女性のうち、働き盛り世代の女性は定期的な運動習慣がなく、一部の妊婦や運動習慣のある女性はIoT/アプリを積極的に利用していましたが、多くの女性はIoT/アプリを利用していないことも分かりました。また、健康目的で利用されるIoT/アプリに関して、最も人気のあるデバイスはスマートフォン、スマートウォッチ、PCの3つでした。

1万人の働く女性のうち、認識された女性の健康問題では、頭痛や片頭痛が2461人(24.6%)と最も多く、次いで月経関連の症状や疾患2130人(21.3%)が続きました。1455人の現在のIoT/アプリ利用者の中で、こういった健康問題に対するIoT/アプリの利用目的を調べると、やせ・肥満・むくみ・ダイエットや栄養障害を改善するためにIoT/アプリを利用する女性は405名(27.8%)と最も多く、実際にやせ・肥満・むくみ・ダイエットや栄養障害を抱える女性は249人(17.1%)でした。それとは逆に、現在IoT/アプリを利用している女性のうち、月経関連の症状や疾患を抱えている人は401人(27.6%)、PMS(注3)は356人(24.5%)がいる一方で、月経関連の症状や疾病改善のためにIoT/アプリを利用している人は249名(17.1%)、PMSは173名(11.9%)でした。このように、本研究から、女性特有の健康問題の認識とIoT/アプリの利用目的との間に乖離が存在することが分かりました(図1)。

図1健康関連アプリの集計結果.jpg
図1:日本人の働く女性(n=1455)を対象に、現在利用している健康関連IoT/アプリの利用理由を健康上の問題意識別に集計

IoT/アプリの利用が進んでいない理由として、日本の女性向けに特化した適切なIoT/アプリが開発されていないこと、またあったとしても広く知られていないという点があります。加えて、女性の健康をサポートするフェムテック機器が開発されたとしても、その機能を表示するためには、医療機器として「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」の承認を受ける必要があるという点も挙げられます。また一方でIoT/アプリの利用においては、疾病や妊娠などの個人情報を職場でどこまで開示するかというデータプライバシーの問題も指摘されており、IoT/アプリにおけるプライバシー保護の枠組みを整備していくことが求められます。

<研究助成>
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のヘルスケア社会実装基盤整備事業「働く女性の健康づくりに資するヘルスケアサービスと社会実装~多面的価値評価に関する研究~」(課題番号:JP22rea522103h0001)という研究開発課題として採択され、多面的な価値付け尺度を開発することを目的とした支援により本調査を実施しました。
本成果は、AMEDが進める科学的なエビデンスに基づくヘルスケアサービスの社会実装ならびに様々な世代の女性にとって働きやすい環境整備へ今後活用されます。
事業概要 https://www.amed.go.jp/program/list/12/02/004.html
事業紹介サイト https://healthcare-service.amed.go.jp/

発表者・研究者等情報

東京大学大学院新領域創成科学研究科 サステイナブル社会デザインセンター
笹山 桐子 特任研究員
齋藤 英子 准教授

聖路加国際大学大学院看護学研究科 国際看護学
大田 えりか 教授

論文情報

雑誌名:JMIR Public Health & Surveillance
題 名:Current Usage and Discrepancies in the Adoption of Health-related IoT/Apps among Working Women in Japan: A Large-scale Internet Cross-sectional Survey
著者名:Kiriko Sasayama, Etsuko Nishimura, Noyuri Yamaji, Erika Ota, Hisateru Tachimori, Ataru Igarashi, Naoko Arata, Daisuke Yoneoka, Eiko Saito* (*は責任著者)
DOI: 10.2196/51537
URL: https://publichealth.jmir.org/2024/1/e51537/

用語解説

(注1)IoT
Internet of Thingsの略で「モノのインターネット」を意味する。情報通信技術の概念を指す言葉。

(注2)フェムテック
Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語。女性特有の健康課題をテクノロジーで解決することを試みる商品(製品)やサービスのこと。

(注3)PMS
Premenstrual Syndromeの略で、「月経前症候群」を意味する。月経がはじまる3~10日ほど前に始まる、さまざまな精神的・身体的な不調。症状は軽いものから、日常・社会生活に支障をきたす重いものまで人によってさまざまである。

お問い合わせ

新領域創成科学研究科 広報室

医療・健康
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