細胞壁成分の変化がイネ花粉母細胞の細胞間連絡に与える影響

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2024-08-20 国立遺伝学研究所

陸上植物では、隣接する細胞の細胞質は直径40〜50nmのチューブ状構造を介してつながっています。これは原形質連絡(PD)と呼ばれ、細胞間の物質輸送やシグナル伝達に重要な役割を果たします。カロース(用語説明1)はPD膜の外側に沈着し、PDの直径や形成頻度の調節を介して細胞間輸送効率を制御します。

葯では、花粉形成および受精に向けて減数分裂(用語説明2)が行われます。減数分裂細胞同士、および減数分裂細胞と周辺体細胞はPDで相互に連結していますが、減数分裂移行後、それらのPDは徐々に消失します。それと並行して、減数分裂細胞の細胞壁主要成分がセルロースからカロースに大規模転換します。減数分裂進行におけるカロースの重要性が先行研究から示されましたが、カロースとPD消失の関係は不明でした。

総合研究大学院大学の大学院生 Somashekar Harshaと植物細胞遺伝研究室の野々村賢一准教授らの研究グループは、透過型電子顕微鏡を用いて葯のカロース蓄積が欠損するイネ変異体の葯構造を観察し、減数分裂細胞のPD頻度の維持におけるカロース機能を明らかにしました(図)。すなわちカロースは、減数分裂細胞をつなぐPDの拙速な消失を抑制することで、正常な減数分裂進行を維持していたのです。さらに、PDは減数分裂細胞間の物理的な距離の維持に機能することも明らかにしました。細胞間の距離は、PD以外の経路による細胞間輸送効率に影響する可能性が考えられます。

今回の成果から、カロース依存的なPD頻度の調節を介した細胞間輸送の制御が、植物の減数分裂進行に重要な役割を果たす可能性が推察されました。

本研究は、学術振興会科研費(21H04729)、二国間交流事業共同研究(JPJSBP120213510)、文科省国費留学生制度の支援を受けて実施しました。

(用語説明1)カロース (β-1,3-グルカン):
細胞壁の主成分であるセルロース(β-1,4-グルカン)と同しく、膜上の合成酵素によりUDP-グルコースから合成されて細胞間隙に蓄積する。細胞板形成や花粉管伸長、篩管の篩板形成など、植物の細胞分裂や器官発生で重要な役割を果たすほか、病原体感染や各種ストレスによる細胞障害により誘導されて植物防御機構の一端を担う。また、特定の大きさ以上の分子を通さない分子篩(ふるい)としての機能、あるいは隣り合った細胞の間をつなぐ輸送経路(原形質連絡)の輸送効率の調整など、細胞間のシグナル伝達制御にも重要な役割が知られる。

(用語説明2)減数分裂:
受精に向けて染色体数を半減させる特殊な細胞分裂。有性生殖を行う全ての生物は、受精と減数分裂を交互に繰り返すことで染色体数を子々孫々一定に保っている。減数第一分裂で、両親から受け継がれた同じ構造をもつ染色体(相同染色体)が整列し、染色体腕の一部を交換することで、両親とは異なる新たな遺伝子組合せをもつ染色体が創出され、次世代へと伝達される。相同染色体間の整列と減数分裂組換えを伴う第一分裂の前中期では、減数分裂特有の染色体凝縮パターンがみられる。

細胞壁成分の変化がイネ花粉母細胞の細胞間連絡に与える影響
図:カロース蓄積がイネの花粉母細胞間の原形質連絡(PD)頻度に与える影響
(A) 減数分裂直前の葯における花粉母細胞間PD(黄矢印)の観察。Osgsl5-3は、カロース合成酵素 OsGSL5が機能欠損し、葯室の細胞間隙にカロースが蓄積しない変異体。
(B) 隣接する花粉母細胞の細胞間隙の中央線に沿って計測したPD頻度の平均値。正常イネ (WT) の葯では、減数分裂直前から減数分裂初期にかけてPD頻度が徐々に低下するが(緑)、Osgsl5-3ではWTと比較してPD頻度が有意に減少する(黄)。


Callose Deficiency Modulates Plasmodesmata Frequency and Extracellular Distance in Rice Pollen Mother and Tapetal cells.

Harsha Somashekar, Keiko Takanami, Yoselin Benitez-Alfonso, Akane Oishi, Rie Hiratsuka, Ken-Ichi Nonomura

Annals of Botany (2024) mcae137. DOI:10.1093/aob/mcae137

生物化学工学
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