2024-11-25 京都大学
急性腎障害(AKI)は慢性腎臓病や末期腎不全へ移行するリスクがあり、近年発症数が増加していることから、その病態解明と治療法の確立が急務になっています。
柳田素子 医学研究科教授(兼:高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)主任研究者)、高橋昌宏 医学部附属病院医員らの研究グループは、これまで細胞内のアデノシン三リン酸(ATP)濃度を可視化するFRETバイオセンサーを全身発現させたマウスを用いて腎臓内のエネルギー動態を解析してきました。
本研究グループはこの度、腎臓が尿を濾過生成する「糸球体」のバリアを構成する細胞「ポドサイト」に着目し、虚血性AKIモデルにおけるポドサイトのATP濃度の低下とそれに伴うミトコンドリア障害がポドサイトのバリア機能を担う「足突起」の構造異常に関与している可能性を見出しました。また、同モデルにおけるミトコンドリアの過剰な分裂を抑えることでポドサイトの障害が緩和される可能性も見出しました。これまでは、AKIの病態は尿細管障害を中心に解析されてきましたが、本研究の結果は、従来注目されてこなかった糸球体の細胞におけるAKIの病態解明を前進させ、多角的な観点からAKIの治療法の確立に寄与するものと考えられます。
本研究成果は、2024年11月22日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
研究結果の概要:ATP低下によるポドサイト構造異常はミトコンドリア断片化の抑制により緩和される。
研究者のコメント
「かつては『治る病気』とされてきたAKIが長期的な腎臓の予後に影響を与えうることが明らかになり、AKI研究が大きく拡大しました。これまで尿細管障害を中心に解析されてきたAKIですが、我々の研究により、糸球体やポドサイトにもATP低下やミトコンドリア障害を介して障害が生じるのだということが示唆されたことで、今後AKI研究が別の方向にも拡がっていくことを期待しております。」(高橋昌宏)
詳しい研究内容について
ATP動態から見る虚血後糸球体障害の病態解明―ミトコンドリア分裂抑制によるポドサイト保護―
研究者情報
研究者名:柳田 素子
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1038/s41467-024-54222-0
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/290514
【書誌情報】
Masahiro Takahashi, Synya Yamamoto, Shigenori Yamamoto, Akihiro Okubo, Yasuaki Nakagawa, Koichiro Kuwahara, Taiji Matsusaka, Shingo Fukuma, Masamichi Yamamoto, Michiyuki Matsuda, Motoko Yanagita (2024). ATP dynamics as a predictor of future podocyte structure and function after acute ischemic kidney injury in female mice. Nature Communications, 15, 9977.