2025-01-22 京都大学
ブラシノステロイド(BR)は、植物の葉・茎・根の器官伸長など、植物形態形成を促進的に調節する植物ステロイドホルモンです。BRは受容体やその下流の転写因子は知られていましたが、BRによる植物成長の制御機構においては未だ知られていない因子の存在が予測され、その分子実態が探されていました。
山上あゆみ 生命科学研究科助教、中野雄司 同教授、宮川拓也 同准教授、仲村友介修士課程学生(研究当時)、西田快世 同博士課程学生、宮地朋子 理化学研究所研修生(兼:東京大学博士課程学生)(研究当時)、浅見忠男 東京大学教授らの共同研究グループは、植物成長の特に草丈を野生型の約150%に増大させる新規因子BIL7を、BR生合成阻害剤Brzを用いたケミカルバイオロジー研究によって発見しました。BIL7は、通常は細胞膜に局在しながら、BRシグナル伝達の活性化により核に移行し、その際にBRシグナル伝達のマスター転写因子BIL1/BZR1 と結合して、その核移行およびタンパク質の安定化を促進化する機能を持ち、そのダイナミックな分子機能によって植物草丈を大きく増大させる能力を持つ新規な因子であることが明らかとなりました。
本研究によるBIL7の発見は、植物成長促進における分子機構の解明、その機能を活用した植物バイオマスや穀物生産が増大化した新植物の創製を目指す新技術開発などに繋がると期待されます。
本研究成果は、2024年12月20日に、国際学術誌「The Plant Journal」にオンライン掲載されました。
BIL7の機能発現モデルとBIL7高発現植物の示す成長促進形態:(左)通常状態ではBIL7は細胞膜にアンカーされている。(中)BIL7はBRシグナルの活性化に伴い核へ移行し、BRシグナルのマスター転写因子BIL1/BZR1の核内移行と安定化を促進させる。(右)その結果、植物成長の促進が引き起こされる。
研究者のコメント
「地球温暖化とそれに伴う異常気象や食糧不足が深刻化する現代において、大気中の二酸化炭素を吸収し植物体に固定するシンク能力を高める植物成長促進機構、食糧生産に向けて植物バイオマスの向上化を進め得る植物成長促進機構の研究は一層重要になると考えられます。本研究によって得られたBIL7は、BRシグナル伝達の中流域で中心的な働きを示す因子を発見したという基礎研究の観点から重要な基点になると考えていますが、同時に植物成長制御技術の開発においても役立つ可能性が期待出来る遺伝子と考えられるため、地球環境改善・食糧増産などに貢献する応用研究へも発展させて行きたいと考えています。」(中野雄司)
詳しい研究内容について
植物の草丈を150%増大させる新しいブラシノステロイド因子を発見
研究者情報
研究者名:山上 あゆみ
研究者名:中野 雄司
研究者名:宮川 拓也
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1111/tpj.17212
【書誌情報】
Tomoko Miyaji, Ayumi Yamagami, Yusuke Nakamura, Kaisei Nishida, Ryo Tachibana, Surina Surina, Shozo Fujioka, Mariano Garcia-Hourque, Santiago Mora-García, Shohei Nosaki, Takuya Miyakawa, Masaru Tanokura, Minami Matsui, Hiroyuki Osada, Kazuo Shinozaki, Tadao Asami, Takeshi Nakano (2024). BIL7 enhances plant growth by regulating the transcription factor BIL1/BZR1 during brassinosteroid signaling. The Plant Journal.