2025-02-26 京都大学
土居秀幸 情報学研究科教授、高原輝彦 島根大学教授、源利文 神戸大学教授らの研究グループは、島根県の汽水湖である宍道湖における沈水植物(水草)の大量繁茂の管理・抑制を目指して、繁茂条件の特定とその事前察知を可能にする環境DNA(eDNA)手法の開発を試みました。この手法は、生物から脱落した組織などに由来する環境中のDNAを指標に、対象種の在不在や生物量(バイオマス)を簡便に推定できる革新的なモニタリング技術です。具体的には、宍道湖で近年大量繁茂している沈水植物2種(ツツイトモとリュウノヒゲモ)を対象に、eDNA濃度を基にバイオマスを推定する定量的手法を開発しました。つぎに、2016年1月から2022年12月までの7年間にわたって、宍道湖沿岸6地点で採取したサンプルを分析しました。その結果、両種のeDNA濃度、すなわちバイオマスの年変動および季節変動などを明らかにすることができました。とくに近年、ツツイトモに対してリュウノヒゲモのeDNA濃度が増加しており、この傾向は野外での両種のバイオマス観察結果とも一致していることがわかりました。また、両種の成長が水面から確認できない冬季においても、両種のeDNAが検出できることもわかりました。さらに、統計解析モデルにより、塩分耐性が低いツツイトモのバイオマスは宍道湖の塩分と負の相関があり、塩分耐性が高いリュウノヒゲモは宍道湖の塩分に影響されていないことが明らかになりました。この結果は、宍道湖における近年の塩分上昇が、ツツイトモからリュウノヒゲモへの優占種交代の要因であることを示唆しています。
本研究成果は、2025年1月30日に、国際学術誌「Estuarine, Coastal and Shelf Science」にオンライン掲載されました。
宍道湖沿岸6地点における調査年ごとにまとめた環境DNA結果(2016年1月から2022年12月に毎月1回実施)。長期的な環境DNA観測によって沈水植物2種のバイオマスの増減の明瞭なトレンドを示すことができた。
研究者のコメント
「私たちの知る限り、長期的なeDNAモニタリング調査によって汽水湖における沈水植物のバイオマスの増減を評価し、その原因を明らかにした初めての研究です。今後は、得られた研究成果をもとに、地域社会や行政と協力し、宍道湖の環境保全や地域貢献の一助にできればと考えています。」
詳しい研究内容について
宍道湖で大量繁茂する水草優占種が塩分の変動に応じて入れ替わっていた!?長期的な環境DNA観測によってバイオマスの明瞭なトレンドが明らかに!
研究者情報
研究者名:土居 秀幸
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1016/j.ecss.2025.109165
【書誌情報】
Teruhiko Takahara, Satoshi Yamagishi, Rina Shimoda, Akihiro Nagata, Masayuki K. Sakata, Hideyuki Doi, Toshifumi Minamoto (2025). Seven-year changes in eDNA concentrations of two dominant submerged macrophytes in Lake Shinji: Effects of salinity. Estuarine, Coastal and Shelf Science, 315, 109165.