新しいタイプのガラクトース血症を発見

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2018/11/08  東北大学東北メディカル・メガバンク機構,東北大学大学院医学系研究科,東北大学病院,日本医療研究開発機構

発表のポイント
  • 国の指定難病の一つであるガラクトース血症注1の発症例から、現在の分類にあてはまらない欠損酵素不明の8症例に対しゲノム解析を行い、新しい病因遺伝子GALMを同定した。
  • 遺伝性ガラクトース血症は従来3つの型に分類されてきたが、本研究により原因不明のガラクトース血症がその3つに当てはまらないGALM酵素欠損症であることを明らかにし、新型として「ガラクトース血症IV型」と命名した。
  • 今回の研究成果は、新生児マススクリーニングで診断されるガラクトース血症患児の原因解明とその健康管理に貢献すると期待される。
概要

東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野の和田 陽一(わだ よういち)医師、菊池 敦生(きくち あつお)助教、市野井 那津子(いちのい なつこ)特任助手、坂本 修(さかもと おさむ)准教授、東北大学東北メディカル・メガバンク機構副機構長呉 繁夫(くれ しげお)教授らの研究グループは、ガラクトース血症の新規原因遺伝子(GALM遺伝子)を同定しました。

遺伝性ガラクトース血症は、乳糖を主なエネルギー源とする乳児期に白内障などの症状を示す疾患で、ガラクトースをブドウ糖へ転換する代謝経路(Leloir経路、図1)上の酵素の遺伝的欠損により生じ、欠損酵素の種類により3つの型(I、II、III型)に分類されていました。ところが、I型、II型、III型のいずれでもないガラクトース血症、いわゆる「説明できないガラクトース血症」の存在が以前から認識されていました。GALM酵素は、Leloir経路注2上に存在しますが、これまでその欠損症は存在しないと考えられてきました。

今回の研究で「説明のできないガラクトース血症」がGALM欠損症であることを明らかにし、GALM欠損症による新型を「ガラクトース血症IV型」と命名しました。今回の研究成果は、新生児マススクリーニングで診断されるガラクトース血症患児の原因解明とその健康管理に貢献すると期待されます。本研究成果は米国科学雑誌Genetics in Medicineのオンライン版に2018年10月19日付で掲載されました。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「未診断疾患に対する診断プログラムの開発に関する研究」、「小児科・産科領域疾患の大規模解析ネットワークとエピゲノム解析拠点整備」などの支援を受けて行われました。

研究内容

ガラクトース血症とはガラクトースを代謝する経路のいずれかの障害で血中のガラクトース濃度が上がった状態を指します。母乳やミルクに含まれる糖の主成分である乳糖は新生児や乳児にとって主要なエネルギー源で、小腸でグルコースとガラクトースに分解されて体内に吸収されます。このガラクトースを体がエネルギーやさまざまな目的に利用するためには肝臓に取り込み、グルコースへ変換する必要があります。このどこかで異常が起こるとガラクトース血症となります。肝臓でのガラクトースの代謝は主にLeloir経路(図1)が担っており、4つの酵素が知られています。このうち3つの酵素(GALT, GALK1, GALE)の欠損ではガラクトース血症(それぞれガラクトース血症I型、II型、III型)を起こすことが知られていました。

ガラクトース血症を早期に診断してその原因を突き止め、原因に応じて早期に治療を開始することは合併症を防ぐために重要です。特に国の指定難病であるガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)欠損症(ガラクトース血症I型)は重症であり、知的障害や肝障害などを起こし無治療では致死的になります。それ以外の病型でも先天性白内障の原因となるため、ガラクトースあるいは乳糖摂取の制限が必要です。日本では1976年よりガラクトース血症は新生児マススクリーニングの対象であり、新生児マススクリーニング陽性例については治療と並行して原因の検索が行われています。しかし、不可解なことにガラクトース血症の患児の中にいずれの原因も見つからない「説明できないガラクトース血症」が存在することは古くから認識されていました。

本研究では、東北大学病院で診察しているこの未診断のガラクトース血症患者に注目し、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)研究の一環として患者の全エクソーム解析を行いました。その結果、GALMという新規病因遺伝子が同定され、患者ではLeloir経路のGALM酵素が欠損していることを突き止めました。さらに指定難病のGALT欠損症やその他の原因を検索して未診断の症例を国内から集めてゲノム解析を行いました。その結果、合計8症例のGALM欠損症を同定し、臨床症状や経過を比較しました。どの症例でもガラクトース摂取を制限した治療が行われていましたが2例では白内障を合併しており、他のガラクトース血症同様に早期の適切な治療が必要なことを示しています。今回の研究で「説明のできないガラクトース血症」がGALM欠損症であることを明らかにし、GALM欠損症による新型を「ガラクトース血症IV型」と命名しました。本研究の成果により、新生児マススクリーニングで診断されるガラクトース血症患児の原因解明とその健康管理に貢献すると期待されます。

用語説明
注1.ガラクトース血症:
ガラクトースを代謝する経路のいずれかの障害で血中のガラクトース濃度が上がった状態。ガラクトースは母乳やミルクの糖分のほとんどを占める乳糖を分解すると生じるため、生後哺乳が始まると新生児は大量のガラクトースを処理する必要がある。国の指定難病であるガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症(ガラクトース血症I型)は重症であり、知的障害や肝障害などを起こす。他の病型では、先天性白内障の原因となるため、ガラクトース摂取の制限が必要となる。日本では1976年より早期診断・早期治療のためガラクトース血症は新生児マススクリーニングの対象疾患となっている。
注2.Leloir経路:
アルゼンチンのルイ・ルロワールによって発見されたガラクトースをブドウ糖へ変換する経路。これまでに4つの酵素が知られており、うち3つの酵素欠損によってガラクトース血症を起こすことが報告されていた(ガラクトース血症I、 II、III型)。図1参照。
参考図


図1.Leloir経路

灰色部分がLeloir経路。食事で摂取したLactose (乳糖)が小腸上皮で分解されGlucoseとβ-D-galactoseとなり体内に吸収される。今回、GALM欠損症を新規ガラクトース血症の原因として同定した。(Genetics in Medicine(2018)論文 Supplementary Figure S1より引用)

論文題目
English Title:Biallelic GALM pathogenic variants cause a novel type of galactosemia
Authors:Yoichi Wada*, Atsuo Kikuchi*,†, Natsuko Arai-Ichinoi*, Osamu Sakamoto*, Yusuke Takezawa, Shinya Iwasawa, Tetsuya Niihori, Hiromi Nyuzuki, Yoko Nakajima, Erika Ogawa, Mika Ishige, Hiroki Hirai, Hideo Sasai, Ryoji Fujiki, Matsuyuki Shirota, Ryo Funayama, Masayuki Yamamoto, Tetsuya Ito, Osamu Ohara, Keiko Nakayama, Yoko Aoki, Seizo Koshiba, Toshiyuki Fukao, and Shigeo Kure
*:co-first authors
†:corresponding author
日本語タイトル:「両アレル性GALM病的バリアントは新しいタイプのガラクトース血症を起こす」
著者:和田 陽一*、菊池 敦生*,†、市野井 那津子*、坂本 修*、竹澤 祐介、岩澤 伸哉、新堀 哲也、入月 浩美、中島 葉子、小川 えりか、石毛 美夏、平井 洋生、笹井 英雄、藤木 亮次、城田 松之、舟山 亮、山本 雅之、伊藤 哲哉、小原 收、中山 啓子、青木 洋子、小柴 生造、深尾 敏幸、呉 繁夫
*:筆頭著者
†:責任著者
掲載誌:Genetics in Medicine (2018)
DOI:10.1038/s41436-018-0340-x
お問い合わせ先
研究に関すること

東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野
助教 菊池 敦生(きくち あつお)

報道に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
長神 風二(ながみ ふうじ)

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構 戦略推進部 難病研究課

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