早産児の言語発達を予測する指標を発見~早期からの発達支援に向けて~

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2018-12-12 京都大学

明和政子 教育学研究科教授、河井昌彦 医学部附属病院准教授、今福理博 武蔵野大学講師、丹羽房子 医学部附属病院助教、新屋裕太 東京大学特任研究員らの研究グループは、早産児と満期産児を対象に、乳幼児期の言語発達の基盤となる「口形・音声が一致する発話を選好する」特性(視聴覚情報の統合処理)を継続的に調査しました。その結果、早産児の視聴覚統合処理の発達には大きな個人差がみられ、修正齢6ヶ月の時点でその処理能力が高い場合、修正齢1年および1年半の時点で語彙発達が良好であるという事実を見出しました。

本研究成果により、生後半年時点での他者から語りかけられる際の視聴覚統合処理機能の評価が、言語発達リスクを早期に特定しうること、早産児に対する早期からの発達支援に活かせる有効な指標となる可能性が示唆されました。

本研究成果は、2018年12月10日に、国際学術誌「Early Human Development」のオンライン版に掲載されました。

図:生後半年の時点で視聴覚情報が時空間的に「一致」する刺激を選好する乳児はその後の言語発達が良好である

詳しい研究内容について

早産児の言語発達を予測する指標を発見
―早期からの発達支援に向けて―
概要日本は先進国で唯一、早期産児(以下:早産児)・低出生体重児の出生率が増加の一途をたどっています。 科学的根拠にもとづく新生児集中治療室(NICU)での発育支援と、退院後の長期的な発達支援の整備が喫緊 の課題です。
京都大学大学院教育学研究科 明和政子 教授、同医学部附属病院 河井昌彦 准教授、武蔵野大学教育学部こ ども発達学科 今福理博 講師、京都大学医学部附属病院 丹羽房子 助教、東京大学大学院教育学研究科 新屋 裕太 特任研究員らの研究グループは、早産児と満期産児を対象に、乳幼児期の言語発達の基盤となる 口形 ・ 音声が一致する発話を選好する」特性 (視聴覚情報の統合処理)を継続的に調査しました。その結果、早産児 の視聴覚統合処理の発達には大きな個人差がみられ、修正齢 6 ヶ月の時点でその処理能力が高い場合、修正齢 1 年および 1 年半の時点で語彙発達が良好であるという事実を見出しました(図1)。この結果から、生後半 年時点での他者から語りかけられる際の視聴覚情報統合が、言語発達リスクを早期に特定しうること、早産児 に対する早期からの発達支援に生かせる有効な指標となる可能性が示唆されました。
本研究成果は、2018 年 12 月 10 日に国際科学誌 Early Human Development」のオンライン版に掲載され ました。
図1 生後半年の時点で視聴覚情報が時空間的に 一致」する刺激を選好する乳児はその後の 言語発達が良好である

1.背景
これまでの研究により、早産児は脳に重篤な疾患のない場合でも、言語 ・認知発達に問題を抱えるケースが 多く、とくに乳児期後半から児童期にかけての語彙獲得が遅いことが知られています。その発達支援において は、早産児が抱えるリスクをできるだけ早期に検出 ・評価することが重要です。これに関して、満期産児にお いては、乳児期に口の形状と音声が一致した発話 (一致発話)を好む傾向が高いほど、言語発達が良好である という報告があります。
これらをふまえ、私たちは以下の2つの仮説をたて、満期産児と早産児を対象とした縦断調査を行いました。

(1)早産児では,満期産児に比べて、発達早期に一致発話を選好する傾向が低い児が多い
(2)その傾向には個人差があり、発達早期に一致発話を選好する乳児ほど言語発達が良好である

2.研究手法・成果
対象は、出生予定日からの月齢が 6、12、18 ヶ月(修正齢)の早産児 20 名(在胎 23~35 週で出生)と満 期産児 20 名でした。口の形状と音声が 一致」または 不一致」となる発話映像(図1参照)をモニターの 左右に並べて提示し、対象児の視線反応を、視線自動計測装置 (アイトラッカー)を用いて計測しました。そ の後、それぞれの児が 1 歳、1 歳半の時点 (早産児の場合は修正齢)で語彙獲得の評価を行い、一致発話を選 好した割合との関連を検討しました。その結果、以下の4点が明らかとなりました。

(1) 全般的に、早産児グループでは一致発話への選好がみられなかった(修正齢 6、12、18 ヶ月)
(2) ただし、(1)には大きな個人差がみられた(図2)
(3) 1 歳、1 歳半時点 (早産児は修正齢)で、 理解できる語彙数」 表出できる語彙数」が、早産児では 満期産児よりも少ない傾向にあった
(4) 6 ヶ月の時点で一致発話を選好した児ほど、1 歳 ・1 歳半の時点で 理解できる語彙数」が多かった (図3:早産児はすべて修正齢)

以上より、早産児が抱える言語発達リスク要因のひとつとして、生後早期からの視聴覚統合処理機能が関連 していることが明らかとなりました。周産期の環境経験の違いが、発話に含まれる視聴覚情報の統合処理の発 達に影響する可能性がみえてきました。


図2 一致発話への選好割合


図3 一致発話への選好割合(6 ヶ月)と理解語彙数(1 歳・1 歳半)の関連(早産児は修正齢)

3.波及効果、今後の予定
本研究は、早産児と満期産児の言語発達に影響を与える知覚認知的側面の要因を、長期縦断的に調査したも のです。その結果、6 ヶ月児時点での口形と音声の一致した発話への選好傾向が、1 歳半までの言語発達を予 測することが示されました。この成果により、他者から語りかけられる際にみられる視聴覚統合処理機能の評 価が、早産児の言語発達リスクを早期に特定、支援に生かせる有効な指標となる可能性が見えてきました。
今後の課題として、発達早期の視聴覚統合処理発達に影響を与える要因、たとえば、周産期の環境経験 (早 産児が育つ NICU 内で生じている日常的なノイズ音経験や、他者と触れ合う経験の少なさなど)との関連を明 らかにする必要があります。また、発達早期の発達早期の視聴覚統合処理特性が、学齢期以降の言語 ・認知発 達、発達障害の発症リスクとどのように関連するかについても、慎重かつ継続的に検証を重ねることも重要で す。日本では、早産児の出生割合が増加の一途をたどっています。臨床現場と連携しながら基礎研究を進める ことで、科学的根拠に基づく早期からの発達評価、妥当な発達支援法の開発を目指すことが必要です。

4.研究プロジェクトについて
本研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって行われました。
① 文部科学省科学研究費補助金 基盤(A)(No. 17H01016、代表:明和政子)
② 文部科学省研究費補助金 新学術領域研究 構成論的発達科学」(No. 24119005、代表:明和政子)
③ 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業 センター オブ イノベーション(COI) プログラム」
④ 平成 27-29 年度 公益財団法人 前川財団奨励費(代表:明和政子)
⑤ 文部科学省科学研究費補助金 特別研究員奨励費 (No. 13J04767、No. 17J07474、代表:今福理博)

<論文タイトルと著者>
タイトル:Audiovisual Speech Perception and Language Acquisition in Preterm Infants: A Longitudinal Study(乳児期の早産児における発話の視聴覚情報処理と言語発達:縦断的検証)
著 者:Masahiro Imafuku, Masahiko Kawai, Fusako Niwa, Yuta Shinya, and Masako Myowa
掲 載 誌:Early Human Development

<研究者のコメント>
本研究に快くご協力くださった赤ちゃん、親御さん、医療看 護スタッフの皆さまにあらためて感謝申し上げます。現代日 本では、総出生数が減少傾向にあるにもかかわらず、早産児 ・ 低出生体重児の出生割合は増加の一途をたどっています。科 学的根拠にもとづく早期からの発達評価、診断、支援法の開 発が今こそ必要です。基礎研究による検証を積み重ねること で、子どもたちのよりよい環境づくりを支えていきたいと思 います。

<用語解説>
早産児:在胎週数(妊娠前の最終月経から出生までの期間)が 37 週未満の児
視聴覚情報の統合処理:発話の視覚情報(口唇部の形状)と聴覚情報(音声)を統合して知覚処理する能力
視線自動計測装置(アイトラッカー):人体に安全で微弱な近赤外線を照射することにより、両眼の瞳孔(角 膜)をとらえ、観察者が画面のどこを、どのくらい長い時間見ているのかを正確に計測できます。身体を 拘束する必要がないため、乳児の瞳孔の動きを非侵襲的にとらえることができます。

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