植物の多様な精子の形成の進化的起源を解明~7億年前のDUO1遺伝子獲得が植物の精子形成に関わる~

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2018-12-13 京都大学

荒木崇 生命科学研究科教授、肥後あすか 同博士課程学生(現・横浜市立大学特任助教)、Frederic Berger グレゴールメンデル研究所グループリーダー、河島友和 生命科学研究科博士研究員(現・ケンタッキー大学助教)、河内孝之 同教授らの研究グループは、英国レスター大学、スペイン国立バイオテクノロジーセンター、神戸大学、日本女子大学、広島大学、金沢大学、立教大学、近畿大学、東京大学と共同で、植物における精子の形成が、約7億年前に陸上植物の祖先にあたる藻類でおこった新しい遺伝子(DUO1)の獲得により始まったことを明らかにしました。

動植物は精子と卵という2種類の生殖細胞による有性生殖を行いますが、この生殖様式がどのような進化的な起源を持つのかはほとんどわかっていません。本研究グループは、本学発のモデル植物であるゼニゴケや、シロイヌナズナ、コマチゴケ、3種のシャジクモ、ヒメミカヅキモなどを用いた比較研究により、植物では、DUO1という遺伝子が、藻類やコケ植物の鞭毛を持つ精子と花を咲かせる植物(被子植物)の動かない精子の形成に関わる共通の遺伝子であることを明らかにしました。本研究成果は、作物を含む植物における生殖と雄の稔性の理解に寄与することが期待されます。

本研究成果は、2018年12月11日に、国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

書誌情報

京都新聞(12月12日 27面)に掲載されました。

詳しい研究内容について

植物の多様な精子の形成の進化的起源を解明
―7億年前の DUO1 遺伝子獲得が植物の精子形成に関わる―概要京都大学大学院生命科学研究科 荒木崇 教授、肥後あすか 同博士課程学生(研究当時、現:横浜市立大学 木原生物学研究所特任助教)、Frederic Berger グレゴールメンデル研究所グループリーダー、京都大学大学院 生命科学研究科 河島友和 博士研究員 (研究当時、現 :ケンタッキー大学助教)、河内孝之 同教授らの研究グ ループは、英国レスター大学、スペイン国立バイオテクノロジーセンター、神戸大学、日本女子大学、広島大 学、金沢大学、立教大学、近畿大学、東京大学の研究グループと共同で、植物における精子の形成が、約7億 年前に陸上植物の祖先にあたる藻類でおこった新しい遺伝子 (DUO1)の獲得により始まったことを明らかに しました。
動植物は精子と卵という2種類の生殖細胞による有性生殖を行いますが、この生殖様式がどのような進化的 な起源を持つのかはほとんどわかっていません。本研究チームは、京都大学発のモデル植物であるゼニゴケ、 シロイヌナズナ、コマチゴケ、3種のシャジクモ、ヒメミカヅキモなどを用いた比較研究により、植物では、 DUO1 という遺伝子が、藻類やコケ植物の鞭毛を持つ精子と花を咲かせる植物 (被子植物)の動かない精子の 形成に関わる共通の遺伝子であることを明らかにしました。この研究は、作物を含む植物における生殖と雄の 稔性の理解に寄与することが期待されます。
本成果は、2018 年 12 月 11 日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。1.背景
動植物は精子と卵という2種類の生殖細胞による有性生殖をおこないます。植物と動物は独立に精子と卵に よる有性生殖を進化させましたが、この生殖様式が動植物のそれぞれでどのような進化起源を持つのかについ てはほとんどわかっていません。植物においては、精子は進化の過程で大きく変化しており、コケ植物などで は動物と同様に鞭毛で運動し卵にたどり着く細胞ですが、花を咲かせる植物 (被子植物)では鞭毛を失い花粉 管によって受動的に卵に運ばれる、動かない 「細胞内細胞」となっています。このように極端に異なる精子の 形成過程が共通のしくみでおこなわれるのかについても不明でした。

2.研究手法・成果
われわれの研究チームは、本研究の先行研究において、京都大学が中心となってモデル生物として確立した 苔類ゼニゴケ(コケ植物)を用いて、植物における鞭毛を持つ精子の形成に関わる遺伝子を探索するために、 ゼニゴケの約 19000 個の遺伝子の中から精子形成の過程で特異的に発現する遺伝子を約 1700 個見出してい ました(Higo et al. 2016)。本研究では、そのうちの転写因子をコードする遺伝子の中に精子形成において中 心的な役割を果たすものがあると予想して研究を進めた結果、DUO1 と呼ばれる転写因子タンパク質をコード する遺伝子が、ゼニゴケの精子形成において中心的な役割を果たすことが明らかになりました。
DUO1 遺伝子は、精子とその母細胞である精母細胞でのみ発現しますが、相同組換え法により遺伝子破壊を おこなうと、精母細胞は正常に分裂して精子の元となる細胞 (精細胞)を生じますが、精細胞の精子への変化 (鞭毛や運動装置の形成、核の凝縮、細胞質の除去など)が起こりませんでした。DUO1 遺伝子は、シロイヌ ナズナやイネといった花を咲かせる植物 (被子植物)の、鞭毛を持たず花粉管の中に収納された精子の形成に 中心的な役割を果たすことが既に知られていました。そこで、ゼニゴケとシロイヌナズナの DUO1 遺伝子が、 それぞれ他方の植物の中で働くことができるかを検証したところ、不完全ではあるものの、ゼニゴケの DUO1 遺伝子がシロイヌナズナの中で、シロイヌナズナの DUO1 遺伝子がゼニゴケの中で働き得ることが確認され ました。さらに、両方の植物でともに、DAZ1 と呼ばれる遺伝子が DUO1 遺伝子の制御の下に働くことも確認 されました。これらの知見から、コケ植物から被子植物にいたる陸上植物において、同じ DUO1 遺伝子とその 下流で働く DAZ1 遺伝子が多様な精子の形成に中心的な役割を果たしていることがわかりました (概要の図)。
われわれの研究チームは、次に、DUO1 遺伝子の進化的な起源を探る目的で、ゼニゴケよりも前に分岐した コケ植物 (コマチゴケ)、陸上植物と共通の祖先をもつ姉妹系統のシャジクモ植物や他の藻類に DUO1 遺伝子 やそれに近い遺伝子が存在するかを探索しました。その結果、現生のシャジクモ植物の最基部で分岐した Mesostigma や Klebsormidium といった精子を持たない藻類には DUO1 遺伝子がなく、シャジクモ植物の中 でも陸上植物に近く精子を持つシャジクモ (Chara)が、コマチゴケとともに DUO1 遺伝子を持つことを見出 しました。さらに、調べた3種のシャジクモで DUO1 遺伝子は精子形成がおこなわれる器官で発現すること、 そのうちの1種 Chara braunii の DUO1 遺伝子は、部分的にではあるものの、ゼニゴケの中で働き得ることが 確認されました。
一方、DUO1 遺伝子を持たない Klebsormidium にも S18 MYB と呼ばれる DUO1 タンパク質とよく似たタ ンパク質をコードする遺伝子が存在します。Klebsormidium やコケ植物、被子植物の S18 MYB タンパク質と 様々な植物の DUO1 タンパク質のアミノ酸配列を比較したところ、DNA に結合するドメインを形成する部分 のいくつかのアミノ酸に重要な違いが見つかり、この違いによって DUO1 タンパク質に特有の結合標的 DNA 配列の特異性がもたらされたことが示唆されました。このアミノ酸の変化はシャジクモの祖先にあたる植物で 約7億年前に生じたと考えられます。
興味深いことに、シャジクモ植物の中で最も陸上植物に近いと考えられる接合藻類と呼ばれる藻類 (ヒメミ カヅキモやアオミドロが含まれます)では、有性生殖がおこなわれますが、精子と卵を形成せず、見かけ上区 別がつかない2種類の細胞 (「―」と 「」」と呼ばれます)の接着 融合 (接合)による有性生殖をおこないま す。そこで、接合藻類のヒメミカヅキモなど4種で DUO1 遺伝子を調べたところ、前述の DUO1 タンパク質 に特徴的なアミノ酸配列の特徴がいずれにおいても失われていることがわかりました。さらに、ヒメミカヅキ モの DUO1 タンパク質は、ゼニゴケ、シロイヌナズナ、シャジクモの DUO1 タンパク質が結合する DNA の塩 基配列には結合できず、ゼニゴケの中で働くことができないこともわかりました。また、ヒメミカヅキモの DUO1 遺伝子は有性生殖とは関係なく発現していることもわかりました。これらの知見から、接合藻類では DUO1 タンパク質としての働きを失わせる遺伝子の変化が、精子と卵の形成をやめて同型 同大の2種類の細 胞の接合という別の有性生殖様式への変化と結びついていることが明らかになりました。
陸上植物やシャジクモ植物に近い緑藻類のボルボックス目の藻類では MID と呼ばれる遺伝子が雄 (「―」と と呼ばれます)の分化と精子形成に中心的な役割を果たすことが既に報告されていました。そこで、ゼニゴケ に存在する MID 遺伝子の発現と機能を調べたところ、ゼニゴケの MID 遺伝子は精子形成の過程で発現するも のの、遺伝子を破壊しても稔性 (有性生殖によって種子を生じる性質)がある正常な精子が形成されることが わかりました。また、シロイヌナズナやシャジクモでは MID 遺伝子が失われていました。これらの知見は、 陸上植物やシャジクモ植物では MID 遺伝子は精子形成における中心的な制御遺伝子ではないことを示してい ます。

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