ロイコトリエンB4受容体の構造~GPCRに対する逆作動薬探索の効率化に向けて~

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2019-01-09 理化学研究所,日本医療研究開発機構,順天堂大学,青山学院大学

要旨

理化学研究所(理研)横山構造生物学研究室の堀哲哉専任研究員、横山茂之上席研究員、順天堂大学の横溝岳彦教授、奥野利明准教授、青山学院大学の宮野雅司教授らの共同研究グループ※は、ベンズアミジン基[1]を含む化合物が、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)[2]の一つであるロイコトリエンB4(LTB4[3]受容体(BLT1)の不活性状態[4]の立体構造を安定化していることをX線結晶構造解析[5]と機能解析により明らかにし、多くのGPCRの逆作動薬[6]になり得ることを提唱しました。
多くのGPCRは創薬ターゲット[7]です。薬剤設計の迅速化には、創薬研究の初期段階で、GPCRに対する作動薬[8]、逆作動薬、拮抗薬[9]を効率的に探索・設計することが必要です。多くのGPCRの7回膜貫通ヘリックス束[10]の内部にはナトリウムイオン-水分子クラスター(Na-H2Oクラスター)が結合し、不活性状態のGPCRの立体構造を安定化[11]しています。また、同クラスター結合部位のアミノ酸配列は多くのGPCR間で保存されていますが、隣接する作動薬[8]結合部位のアミノ酸配列は各GPCR間で固有です。そこで、同クラスター結合部位に結合してGPCRの活性抑制能を持つ官能基と、作動薬結合部位に結合して各GPCRへの特異的結合を担う部分を持つ化合物は、不活性状態GPCRの立体構造を安定化する逆作動薬になると考えられてきました。しかし、同クラスターへの結合を模倣する官能基はこれまで同定されていません。
共同研究グループは、BLT1とその拮抗薬との複合体の結晶構造を解明しました。本拮抗薬に含まれるベンズアミジン基は、BLT1のNa-H2Oクラスターと同じ様式でBLT1に結合していました。また結晶構造から、ベンズアミジン基はBLT1の活性状態への構造変化を阻害して、不活性状態の立体構造を安定化していると考えられました。この仮説を実証するために、作動薬であるLTB4によるBLT1のGタンパク質[2]活性化能がベンズアミジン分子そのものにより抑制されることを実験的に示しました。これらの結果から、ベンズアミジン基と作動薬結合部位に結合する部分を組み合わせた低分子化合物が、各GPCRに特異的に結合する逆作動薬になり得ると考えられます。今後、逆作動薬の探索・設計の効率化への貢献が期待できます。
本研究成果は、国際科学雑誌『Nature Chemical Biology』掲載に先立ち、オンライン版(1月8日付け:日本時間1月9日)に掲載されます。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム)、日本学術振興会 科学研究費助成事業、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、武田科学振興財団の支援により行われました。

※共同研究グループ

理化学研究所
横山構造生物学研究室
  • 上席研究員 横山 茂之 (よこやま しげゆき)
  • 専任研究員 堀 哲哉 (ほり てつや)
ライフサイエンス技術基盤研究センター 構造・合成生物学部門
構造生物学グループ タンパク質機能・構造研究チーム
  • 嘱託職員 羽藤 正勝 (はとう まさかつ)
放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門
ビームライン基盤研究部 生命系放射光利用システム開発ユニット
  • ユニットリーダー 山本 雅貴 (やまもと まさき)
  • 専任技師 平田 邦生 (ひらた くにお)
  • 基礎科学特別研究員 山下 恵太郎(やました けいたろう)
  • 専任技師 河野 能顕 (かわの よしあき)
順天堂大学 医学部
  • 教授 横溝 岳彦 (よこみぞ たけひこ)
  • 准教授 奥野 利明 (おくの としあき)
青山学院大学 理工学部
  • 教授 宮野 雅司 (みやの まさし)
国立国際医療研究センター 脂質シグナリングプロジェクト
  • プロジェクト長 清水 孝雄 (しみず たかお)
岡山理科大学 理学部
  • 教授 中村 元直 (なかむら もとなお)

背景

Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、ヒトでは約800種存在します。これは、タンパク質ファミリーの中で最大規模です。ヒトGPCRはアミノ酸配列や機能の類似性に基づいて、五つに分類されます。719種存在するクラスAが最大で、創薬ターゲットとなりにくい視覚受容体や嗅覚受容体を除くと284種が残ります。この284種のうち、オーファンGPCRと呼ばれる内因性作動薬[8]が同定されていない87種は、創薬ターゲットとして最近特に注目されています。
薬剤設計の迅速化には、研究の初期段階で、GPCRに対する作動薬、逆作動薬、拮抗薬を効率的に探索・設計することが必要です。逆作動薬は、作動薬によるGPCR活性を抑制し、かつ作動薬非結合状態のGPCRの内在性活性[6]も抑制します。
多くのクラスA GPCRの活性は、ナトリウムイオン(Na)によって抑制されます(図1)。不活性状態のGPCRの7回膜貫通ヘリックス束内部にはナトリウムイオン-水分子クラスター(Na-H2Oクラスター)構造が形成され、不活性状態のGPCRの立体構造を安定化します。Na-H2Oクラスター結合部位のアミノ酸配列はクラスA GPCR間で高度に保存されており、Na-H2Oクラスター結合部位にそれと同様な結合様式で結合する官能基は、不活性状態のクラスA GPCRの立体構造を安定化すると考えられてきました。他方で、Na-H2Oクラスター結合部位は作動薬結合部位に隣接しており、作動薬結合部位のアミノ酸配列は各GPCRで固有です。
したがって、Na-H2Oクラスター結合部位に結合してその作用を模倣する官能基がGPCRの活性を抑制し、かつ作動薬結合部位に結合して各GPCRへ特異的結合する部位を持つ化合物は、それぞれのGPCRに特異的に作用する逆作動薬になると考えられてきました。しかし、これまでNa-H2Oクラスターの作用を模倣する官能基は同定されていませんでした。


図1 Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の構造変化
  1. 逆作動薬結合型(不活性状態、緑)と作動薬結合型(活性状態、オレンジ)のA2Aアデノシン受容体(GPCRの一種)の構造。作動薬と逆作動薬を球体モデル(灰色)で示した。両型の構造間で、矢印で示した膜貫通ヘリックス領域に大きく違いが生じる。
  2. 逆作動薬結合型(緑)と作動薬結合型(オレンジ)のA2Aアデノシン受容体における、ナトリウムイオン(Na)結合部位付近の構造の違い。両構造を重ね合わせ、図Aの黒で囲んだ部分について、上側(細胞質側)から見た図として示した。Naを紫色、周辺のアミノ酸側鎖をスティックモデルで示した。Na結合部位付近も、両型の構造間で構造の違いが観察できるので、活性状態(作動薬結合型)と不活性状態(逆作動薬結合型)の平衡において、膜貫通ヘリックス3(TM3)と7(TM7)の矢印のような構造変化を伴うと考えられる。
  3. 不活性状態と活性状態の平衡におけるTM3とTM7の構造変化の模式図。不活性状態ではNaはTM3とTM7の間に結合し、不活性状態の立体構造を安定化する。活性状態では、構造変化によりNaは追い出されると考えられている。ただし、追い出された後にどこに存在するのかは解明されていない。

研究手法と成果

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