炎症反応を強力に抑える活性イオウ誘導体の開発に成功

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2019-03-08  熊本大学,東北大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • 活性イオウ※1はわれわれの細胞で作られる生体成分で、抗酸化作用やエネルギー代謝への働きなどが知られている。
  • 細胞内の活性イオウ含量を増やすことができる新しい活性イオウ誘導体※2の開発に成功した。
  • 活性イオウ誘導体が極めて高い抗炎症作用を持つことを明らかにした。
  • 致死性のエンドトキシンショック※3に対して活性イオウ誘導体が優れた治療効果を示すことを発見した。
概要説明

熊本大学大学院生命科学研究部の澤 智裕(さわ ともひろ)教授らのグループは、東北大学大学院医学系研究科 赤池 孝章(あかいけ たかあき)教授らとの共同研究により、細胞や組織に含まれる活性イオウと呼ばれる生体成分を人工的に増やすことができる新しい活性イオウ誘導体の開発に成功しました。この活性イオウ誘導体は保存安定性に優れ、また細胞に作用させると速やかに細胞内に浸透して細胞内の活性イオウ含量を大きく増加させます。マクロファージと呼ばれる免疫細胞を使った実験から、今回開発した活性イオウ誘導体が極めて高い抗炎症作用を持つことが明らかとなりました。さらに、過剰な免疫反応の活性化によって致死的な病態となるエンドトキシンショックを起こしたマウスに活性イオウ誘導体を投与すると、マウスの生存率の著しい改善が認められました。今回の結果は、活性イオウが免疫機能の調節に密接に関わることを明らかにし、さらにこの活性イオウを人工的に増やすことで炎症病態を改善できることを示した画期的な成果です。今後、活性イオウを基軸とした新しい抗炎症療法への展開が期待されます。

本研究成果は、2019年3月7日米国東部(EST)時間11時30分(日本時間3月8日(金)1時30分)に、Cell Pressの「Cell Chemical Biology」に掲載されます。

本研究は、文部科学省新学術領域研究「酸素生物学」、AMED感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)「細菌の酸化ストレス耐性を標的とした新規治療戦略の開発」(研究開発代表者 澤智裕)、および科学研究費補助金などの支援を受けて行われました。

説明

我々の細胞の中ではアミノ酸の一つであるシステインから、システインパースルフィドと呼ばれる代謝物が常に作られ、細胞を活性酸素から守ったり、またある条件ではミトコンドリアでの呼吸を維持する大事な働きがあることがわかってきました。システインパースルフィドはこのような特徴的な働きから「活性イオウ」と呼ばれ、その生理作用が注目されています。細胞内の活性イオウ含量を人為的に増やすことができる、いわゆる活性イオウ誘導体(活性イオウドナー)は、活性イオウの働きを調べる重要なツールと期待され、世界中でその開発が進められています。一方、活性イオウドナーの病気に対する治療効果はほとんど知られていません。

今回、新しい活性イオウドナーとして、人工アミノ酸の一種であるアセチルシステインにイオウ原子を複数連結した新規誘導体の合成に成功しました。この誘導体を細胞に作用させると、速やかに細胞に浸透し、さらに細胞内の活性イオウ含量が著しく増加することを明らかにしました。この活性イオウ誘導体を作用させたマクロファージでは、炎症を誘導するような様々な物質(例えばグラム陰性菌に由来するリポ多糖など)による刺激に対して、ほとんど応答しなくなっている、つまり炎症を起こさないことを発見しました。そこで、炎症が過剰に起こることが原因で致死的となるエンドトキシンショックになっているマウスに、活性イオウ誘導体を投与したところ、生存率が著しく改善することを発見しました(図1)。今回の成果は、活性イオウ誘導体が炎症性疾患に対して治療効果を持つことを示したはじめての結果です。

図1.エンドトキシンショックに対する活性イオウ誘導体の治療効果 マウスの腹腔内に大腸菌由来のリポ多糖を投与すると、治療をしない群では96時間後に生存率が20%にまで低下しました。リポ多糖を投与した30分後に活性イオウ誘導体で治療をすると、その生存率が90%まで大きく改善しました。この治療群では、炎症の指標となるサイトカイン量が大きく減少していることもわかりました(データは論文にて発表)。

過剰な炎症反応は、エンドトキシンショックの他にも、アレルギー性疾患や自己免疫疾患などの発症にも大きく関わっています。その治療にはステロイドホルモンや免疫抑制剤が使われますが、副作用などの問題もあります。今後、細胞内の活性イオウ調節を標的とした新しい抗炎症療法への展開が期待されます。

用語解説
※1 活性イオウ:
アミノ酸のひとつであるシステイン(CysSH)に過剰なイオウ原子が1つ付加したシステインパースルフィド(CysSSH)や、複数付加したシステインポリスルフィド(CysS[S]nH; n > 2)を含む生体成分。過剰なイオウ原子を持つことで、もとのシステインよりも抗酸化力が高まっている。生体内では酸化ストレスに対する保護作用など多彩な機能があると考えられている。
※2 活性イオウ誘導体:
細胞に作用させたり、動物に投与することによって細胞内の活性イオウ量を増やすことができる化合物。今回の研究で開発した活性イオウ誘導体は、それ自身が活性イオウのもととなる過剰なイオウ原子を含む誘導体(ドナー)であり、細胞に作用させると細胞内のシステインやグルタチオンにイオウ原子を渡すことによって細胞内の活性イオウ量を増やしている。
※3 エンドトキシンショック:
エンドトキシン(内毒素)はグラム陰性菌の外膜に含まれるリポ多糖。敗血症などによって多量のエンドトキシンが体内に放出されると、過剰な炎症反応が引き起こされ、その結果、血管拡張による急激な血圧低下や血管内血液凝固による多臓器不全などのショック症状(エンドトキシンショック)をきたす。
論文情報
論文名:
Enhanced Cellular Polysulfides Negatively Regulate TLR4 Signaling and Mitigate Lethal Endotoxin Shock
著者:
Tianli Zhang, Katsuhiko Ono, Hiroyasu Tsutsuki, Hideshi Ihara, Waliul Islam, Takaaki Akaike, Tomohiro Sawa
掲載誌:
Cell Chemical Biology
doi:
10.1016/j.chembiol.2019.02.003
お問い合わせ先
研究に関すること

熊本大学大学院生命科学研究部 微生物学分野
担当:教授 澤智裕(さわ ともひろ)

東北大学大学院医学系研究科環境保健医学分野
担当:教授 赤池 孝章(あかいけ たかあき)

報道に関すること

熊本大学総務部総務課広報戦略室

東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部 感染症研究課

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