原因不明の脳塞栓症患者に対する再発予防効果を検証する

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国際共同臨床試験「RESPECT-ESUS試験」の解析結果

2019-05-16 国立循環器病研究センター

動脈硬化や心房細動などの明らかな原因がわからない脳梗塞である塞栓源不明脳塞栓症(Embolic Stroke of Undetermined Source: ESUS)に対する抗凝固療法の再発予防効果を検証する国際共同臨床試験「RESPECT-ESUS試験(以下「本試験」)」の主要解析論文が、米国医学誌「New England Journal of Medicine」に2019年5月16日に掲載されました(Diener HC, et al: N Engl J Med 2019;380:1906-17)。本試験の国内参加施設の取りまとめは、国立循環器病研究センター(略称:国循)の豊田一則副院長が行いました。

背景

脳梗塞は世界各国で死因の上位を占める重大な疾患で、特に日本を含めた東アジアで患者数が多いことが知られています。脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の総称である脳卒中はわが国の死因の第3位、要介護原因の第1位となる重大な疾患です。日本脳卒中データバンクによると、わが国では新たに発症する脳卒中の約4分の3が脳梗塞です。
脳梗塞の原因として、脳動脈や頚動脈の動脈硬化や心房細動により心臓にできた血栓が脳の大血管を閉塞させること(心原性脳塞栓症)が知られています。しかし、脳梗塞患者の約2割はESUSであると考えられています。ESUSに対する有効な薬物治療法は現在確立しておらず、再発予防にアスピリンなどの抗血小板薬を使用することが一般的です。
近年の多くの研究により、ESUS患者に一定の割合で発作性心房細動が隠れていることがわかりました。心房細動患者の脳梗塞予防にはダビガトランをはじめとする直接作用型経口抗凝固薬が広く用いられていることから、ESUSの再発予防にダビガトランが有効であるかの検証を行う必要がありました。

研究手法と成果

本試験はデュースブルグエッセン大学(ドイツ)のHans-Christoph Diener教授が研究代表を務め、わが国からも国際医療福祉大学の内山真一郎教授が国際執行役員に就いた、ESUS患者の脳卒中再発予防におけるダビガトランの有効性と安全性をアスピリンと比較する無作為化二重盲検試験です。世界中の脳卒中研究者が参加し、42カ国の564施設から5,390例の患者が登録されました。わが国からは594例が登録され、これは全体の11%で(図1)ドイツに次ぐ2位の登録数でした。
主な試験結果を表1にまとめます。主要評価項目である脳卒中再発には2群間で差を認めませんでした。特に登録開始から約450日後までの両群の再発率はほぼ同じで、その後はダビガトラン群の再発率が相対的に低くなる傾向にありました(図2)。頭蓋内出血などの安全性評価項目も両群で差はありませんでした。

今後の課題と展望

本試験からは、ESUS患者の再発予防法としてのダビガトランの有効性を証明できませんでした。一方で、ダビガトランはこれまで広く使用されてきたアスピリンと同程度に安全であることもわかりました。ESUS患者の一部に発作性心房細動がある可能性から、ダビガトランにアスピリンを上回る再発予防効果があると考えられましたが、期待された結果を得なかった理由のひとつに適切な症例を組み入れることの難しさが挙げられます。
わが国の脳卒中治療に携わる医師は、日本脳卒中学会が作成した「植込み型心電図記録計の適応となり得る潜因性脳梗塞患者の診断の手引き」などに基づいてESUSの定義をかなり厳密に考える傾向があります。このため、現在は本試験の日本人集団のみについてサブ解析を行い、日本人への適切な治療法を検討することも試みられています。
※本試験はベーリンガーインゲルハイム社が実施した企業試験です。

<図表>

(図1)登録症例数に占める日本人患者の割合

(図2)脳卒中再発率の群間比較

(表1)主な評価項目の発生率と群間比較

評価項目 ダビガトラン群 
(N=2695)
アスピリン群
(N=2695)
ハザード比 
(95%信頼区間)
症例数 (年間発症率 %)
主要評価項目
:脳卒中再発
177 (4.1) 207 (4.8) 0.85 (0.69-1.03)
副次評価項目
 脳梗塞 172 (4.0) 203 (4.7) 0.84 (0.68-1.03)
 脳梗塞、心筋梗塞、
血管病死の複合
207 (4.8) 232 (5.4) 0.88 (0.73-1.06)
 重症脳卒中 25 (0.6) 42 (0.9) 0.59 (0.36-0.96)
 すべての死亡 56 (1.2) 58 (1.3) 0.96 (0.66-1.38)
おもな安全性評価項目 
 頭蓋内出血 32 (0.7) 32 (0.7) 0.98 (0.60-1.60)
 消化管の大出血 27 (0.6) 22 (0.5) 1.22 (0.70-2.15)
 生命を脅かす
重篤な出血
38 (0.8) 45 (1.0) 0.83 (0.54-1.28)
 致死的出血(致死的
出血性脳卒中を含む)
1 (0.02) 6 (0.1) 0.17 (0.02-1.39)

最終更新日 2019年05月16日

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