2019-05-21 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の山口武典名誉総長を研究代表者とする国内多施設共同研究グループが、慢性期非心原性脳梗塞患者へのシロスタゾールを含めた抗血小板薬2剤併用療法の脳梗塞再発予防効果を検討する無作為化比較試験Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination (CSPS.com)を行い、その主解析論文が英国医学専門誌「Lancet Neurology」に2019年5月21日(日本時間)に掲載されました(筆頭著者:国循 豊田一則副院長、Lancet Neurol 2019;18(6): 539-548)。なおLancet Neurologyのインパクトファクターは現在27.14で神経学領域の雑誌の中で世界トップです。
背景
非心原性脳梗塞患者の再発予防治療として、抗血小板薬の服用は欠かせません。とくに発症後早期から亜急性期にかけては、主にアスピリンとクロピドグレルを用いた2剤併用が勧められています。しかし長期の抗血小板薬2剤併用は抗血小板薬単剤と比べて、有意な脳梗塞再発抑制効果が実証されておらず、むしろ出血性合併症を増加させるために、行わないよう勧められています。
国産薬であるシロスタゾールは、出血性合併症を起こしにくいことが知られています。国内で行われたCSPS2試験(Lancet Neurology, 2000年)によって、非心原性脳梗塞患者へのシロスタゾール服用が、アスピリンと比べて有意に脳卒中再発や出血性合併症の発現を抑止することが示され、この結果に基づいてシロスタゾールは脳梗塞再発予防薬として高く評価されています。しかし、シロスタゾールを用いた抗血小板薬併用の脳梗塞再発予防効果は、これまで十分検討されていませんでした。
研究手法と成果
本試験は、無作為化非盲検並行群間比較試験です。発症後8~180 日の非心原性脳梗塞で、頸部または頭蓋内の動脈に50%以上の狭窄を認めるか、2つ以上の動脈硬化危険因子を有するかの条件を満たす1879例を、2013年12月から 2017年3月にかけて国内292施設から登録しました。1.4年間(中央値)の観察期間の間、アスピリンあるいはクロピドグレルを用いた抗血小板薬単剤服用群と、この2剤のどちらかにシロスタゾール(先発薬であるプレタールを使用)を併用する群に無作為に割り振って、治療を続けました。
主な試験結果を図と表にまとめます。主要評価項目である脳梗塞再発は、併用群で発現率が約半分に有意に抑えられました。副次評価項目としての全ての脳卒中なども、同様に併用群が有意に発現を抑えました。その一方で安全性評価項目の出血性合併症については、2群間で有意差を認めませんでした。
本研究の意義
CSPS.com試験によって、ハイリスク非心原性脳梗塞患者にアスピリンまたはクロピドグレルに加えてシロスタゾールを長期併用することで、単剤治療に比べて脳梗塞再発予防効果が向上し、かつ安全性についても差がないことが示されました。シロスタゾールの早期副作用である頭痛や動悸・頻脈の影響を受けないハイリスク脳梗塞患者の再発予防には、アスピリンまたはクロピドグレルに加えて、シロスタゾール長期間併用投与することを考慮した方が良いと考えられます。
※本試験は、公益財団法人循環器病研究振興財団と大塚製薬株式会社との研究に関する委受託契約のもとに実施されたものです。大塚製薬株式会社は試験計画の立案、データ管理、統計解析に直接関与していません。
<論文情報>
Dual antiplatelet therapy using cilostazol for secondary prevention in high-risk ischaemic stroke: a multicentre randomised controlled trial
Lancet Neurology
<図>脳梗塞再発率
<表> 主要評価項目の発生率と群間比較
評価項目 | 併用群 | 単剤群 | ハザード比 (95%信頼区間) |
有意差 |
---|---|---|---|---|
症例数 (発症率 %) | ||||
主要評価項目 | 932例 | 947例 | ||
脳梗塞再発 | 29 (3.1%) | 64 (6.8%) | 0.49 (0.31-0.76) | あり |
副次評価項目 | 932例 | 947例 | ||
全ての脳卒中 | 34 (3.6%) | 71 (7.5%) | 0.51 (0.34-0.77) | あり |
脳出血、 くも膜下出血 |
5 (0.5%) | 7 (0.7%) | 0.77 (0.24-2.42) | なし |
脳梗塞、一過性 脳虚血発作 |
32 (3.4%) | 69 (7.3%) | 0.50 (0.33-0.76) | あり |
死亡 | 6 (0.6%) | 7 (0.7%) | 0.92 (0.31-2.73) | なし |
脳卒中、心筋梗塞、 血管病死のいずれか |
38 (4.1%) | 78 (8.2%) | 0.52 (0.35-0.77) | あり |
全ての血管イベント | 47 (5.0%) | 90 (9.5%) | 0.56 (0.39-0.80) | あり |
安全性評価項目 | 910例 | 921例 | ||
重篤ないし重症出血 | 8 (0.9%) | 13 (1.4%) | 0.66 (0.27-1.60) | なし |
頭蓋内出血 | 8 (0.9%) | 13 (1.4%) | 0.66 (0.27-1.60) | なし |
出血性有害事象 | 38 (4.1%) | 33 (3.6%) | 1.23 (0.77-1.96) | なし |