新規抗B型肝炎治療薬の開発へ期待
2019-06-13 京都大学
掛谷秀昭 薬学研究科教授、古谷裕 理化学研究所上級研究員、小嶋聡一 同ユニットリーダーらの研究グループは、経口投与が可能でインターフェロン様活性を持つ低分子化合物CDM-3008(RO4948191)が、B型肝炎ウイルス(HBV)のcccDNA(完全閉塞本鎖)抑制効果などにより抗B型肝炎ウイルス活性を示すことを明らかにしました。
インターフェロン製剤は、HBVの鋳型となるcccDNAを分解できるため、B型肝炎の完治に向けて欠かせない注射剤です。しかし、発熱・倦怠などの副作用を伴うなどの問題があります。
本研究では、CDM(cccDNA modulator)-3008の抗HBV活性を解析しました。まず初代培養ヒト肝細胞を用いて、CDM-3008が抗HBV活性を有すること、HBVの複製を阻害する核酸アナログ製剤と相加的に抗HBV効果を示すことを明らかにしました。また、遺伝子解析の結果、CDM-3008がインターフェロンαと同様に抗HBV活性を発揮することが示唆され、CDM-3008特異的にHBVの増殖を抑える遺伝子が発現していることが分かりました。
したがって、CDM-3008は、インターフェロンの副作用を抑えつつ、同様の抗HBV効果を発揮する化合物として、新規治療薬開発への応用が期待されます。
本研究成果は、2019年6月13日に、国際学術誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されました。
図:本研究で明らかになったB型肝炎ウイルス抑制物質の作用機序
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0216139
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/241748
Yutaka Furutani, Mariko Toguchi, Yumi Shiozaki-Sato, Xian-Yang Qin, Etsuko Ebisui, Shoko Higuchi, Masayuki Sudoh, Harukazu Suzuki, Nobuaki Takahashi, Koichi Watashi, Takaji Wakita, Hideaki Kakeya, Soichi Kojima (2019). An interferon-like small chemical compound CDM-3008 suppresses hepatitis B virus through induction of interferon-stimulated genes. PLOS ONE, 14(6):e0216139.
詳しい研究内容について
B 型肝炎ウイルス抑制物質の作用機序解明
―新規抗 B 型肝炎治療薬の開発へ期待―
概要
京都大学大学院薬学研究科 掛谷秀昭 教授、理化学研究所 古谷裕 上級研究員、小嶋聡一 同ユニットリー ダーらの研究グループは、インターフェロン様活性を持つ低分子化合物 CDM-3008(RO4948191)が、B 型 肝炎ウイルス (HBV)の cccDNA (完全閉塞本鎖)抑制効果などにより抗 B 型肝炎ウイルス活性を示すことを明 らかにしました。
インターフェロン製剤は、HBV の鋳型となる cccDNA を分解できるため、B 型肝炎の完治に向けて欠かせ ない注射剤です。しかし、発熱・倦怠などの副作用を伴うなどの問題があります。 本研究では、経口投与が可能でインターフェロン様の活性を持つ低分子化合物 CDM (cccDNA modulator) -3008 の抗 HBV 活性を解析しました。まず初代培養ヒト肝細胞を用いて、CDM-3008 が抗 HBV 活性を有す ること、HBV の複製を阻害する核酸アナログ製剤と相加的に抗 HBV 効果を示すことを明らかにしました。ま た、遺伝子解析の結果、CDM-3008 がインターフェロンαと同様に抗 HBV 活性を発揮することが示唆され、 CDM-3008 特異的に HBV の増殖を抑える遺伝子が発現していることが分かりました。
したがって、CDM-3008 は、インターフェロンの副作用を抑えつつ、同様の抗 HBV 効果を発揮する化合物 として、新規治療薬開発への応用が期待されます。
本研究成果は、2019 年 6 月 13 日に国際学術誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されました。
図:本研究で明らかになった B 型肝炎ウイルス抑制物質の作用機序
1.背景
インターフェロン製剤は注射剤であるため投薬の際には病院に行く必要があり、また発熱 ・倦怠感などの副 作用を伴うなどの問題があります。しかし、インターフェロンは APOBEC3 ファミリーのシチジンデアミナー ゼ活性を介して cccDNA (covalently closed circular DNA 完全閉塞本鎖)を分解することが報告されており、 B 型肝炎の完治に向けてインターフェロンは欠かすことができません。一方で、核酸アナログ製剤 (エンテカ ビルなど)は強力に B 型肝炎ウイルスの複製を阻害しますが、cccDNA を完全には抑制することができず、治 療の中止と共に B 型肝炎ウイルスが再活性化する可能性があります。
2.研究手法・成果
インターフェロンの問題点の解決を目指して、経口投与が可能でインターフェロン様の活性を持つ低分子化 合物 CDM (cccDNA modulator)-3008 の抗 HBV 活性を解析しました。CDM-3008 (RO-4948191) は、イミ ダゾ[1,2-a][1,8]ナフチリジン骨格を有する分子量 373 の化合物で (図 A)、C 型肝炎ウイルス抑制効果が報告 されていた化合物ですが(文献 1)、HBV に関する薬効は不明でした。そこで当研究グループは、初代培養ヒ ト肝細胞を用いて CDM-3008 の HBV に対する効果を検討した結果、CDM-3008 は HBV DNA、cccDNA、 HBsAg(B 型肝炎ウイルス表面抗原)、HBeAg(B 型肝炎ウイルス e 抗原)の量を抑制することを明らかにし ました (図 B)。一方、CDM-3008 は核酸アナログ製剤エンテカビルと相加的に抗 HBV 効果を示しました (図 C)。そこで、CDM-3008 によって影響を受ける遺伝子群の発現解析を行った結果、CDM-3008 はインターフ ェロンαと同様な細胞内シグナルを活性化することで抗 B 型肝炎ウイルス活性を発揮していることが示唆さ れました。一方、CDM-3008 特異的に発現増強される遺伝子を解析した結果、STAT(Signal transducer and activator of transcription シグナル伝達兼転写活性化因子)シグナルを阻害する SOCS(Suppressor of Cytokine Signaling サイトカインシグナル伝達制御分子)ファミリーを同定しました(図 D)。したがって、 CDM-3008 はフィードバック阻害によりインターフェロン受容体からのシグナルをより強く抑制し、インタ ーフェロンαの副作用軽減効果も期待されます。
3.波及効果、今後の予定
本成果は、これまで注射剤として処方されているインターフェロン製剤を安価で経口投与が可能な低分子化 合物に置き換え、核酸アナログ製剤との併用によって、より効果的に B 型肝炎ウイルスを抑制できる可能性を 示しています。現在、同研究グループでは、CDM-3008 をリード化合物として精力的な構造活性相関研究を 展開しており (文献 2)、今後、活性の向上、副作用を軽減した新規抗 B 型肝炎治療薬の開発が期待されます。
文献 1. Konishi, H. et al. Sci. Rep. 2, 259 (2012).
文献 2. Takahashi, N. et al. Bioorg. Med. Chem. 27, 470-478 (2019).
4.研究プロジェクトについて
本研究は、理化学研究所生命医科学研究センター、京都大学、国立感染症研究所の共同研究であり、日本医 療研究開発機構(AMED)の支援のもとに行なわれました。
<研究者のコメント>
インターフェロン様の活性を持つ低分子化合物 CDM-3008 に着目し抗 B 型肝炎ウイルス活性を解析した結 果、B 型肝炎ウイルス DNA と cccDNA を抑制できることを明らかにしました。本成果は、これまで注射剤と して処方されているインターフェロン製剤を安価で経口投与が可能な薬剤に置き換え、核酸アナログ製剤との 併用によって、より効果的に B 型肝炎ウイルスを抑制できる可能性を示しています。
<論文タイトルと著者>
タイトル: An interferon-like small chemical compound CDM-3008 suppresses hepatitis B virus through induction of interferon-stimulated genes(インターフェロン(IFN)様低分子化合物 CDM-3008 は IFN 誘導性遺伝子群(ISGs)の誘導により B 型肝炎ウイルスを抑制する)
著 者 :Yutaka Furutani, Mariko Toguchi, Yumi Shiozaki-Sato, Xian-Yang Qin, Etsuko Ebisui, Shoko Higuchi, Masayuki Sudoh, Harukazu Suzuki, Nobuaki Takahashi, Koichi Watashi, Takaji Wakita, Hideaki Kakeya, Soichi Kojima
掲 載 誌 :PLOS ONE DOI 10.1371/journal.pone.0216139
U R L: http://journals.plos.org/plosone/10.1371/journal.pone.0216139
<参考図表>
(A) CDM-3008 の化学構造、(B)初代培養ヒト肝細胞における CDM-3008 の B 型肝炎ウイルス (HBV) DNA 抑制効果 (7 日間, n=3, **, p<0.01,)、(C)核酸アナログ製剤エンテカビルとの相加的併用効果(7 日間, n=3, *, p<0.05)、(D)HBV の 複製機構と CDM-3008 の作用点。