種子の油を合成する新しい代謝経路を発見~バイオ燃料を創成する代謝改変技術への応用に期待~

ad

2022-04-04 理化学研究所

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター植物脂質研究チームの中村友輝チームリーダーらの国際共同研究チームは、種子の油の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG)[1]を合成する新しい代謝経路を発見しました。

本研究成果は、バイオディーゼル[2]などの原料を植物内で大量生産するための代謝エンジニアリング[3]に貢献すると期待できます。

TAGは、細胞膜を構成する最も主要なリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)から合成されますが、2番目に主要なリン脂質のホスファチジルエタノールアミン(PE)がどのようにTAGに変換されるかは不明でした。

今回、国際共同研究チームは、酵母やヒトの肝臓にPEを直接PCに変換する酵素が存在することに着目し、モデル植物のシロイヌナズナ[4]を用いて、同様の働きをする酵素PLMT[5]を見いだしました。PLMTを植物体で過剰に生産させたところ、種子のTAG含量が乾燥重量あたり最大20%程度まで増大しました。一方で、PLMTの過剰生産は葉などの成長を阻害することも分かり、この代謝経路は種子のTAG合成に特化している可能性が示されました。これらの結果から、PLMTはPEをPCに変換することで、種子のTAG合成に関与していることが明らかになりました。

本研究は、科学雑誌『Journal of Experimental Botany』オンライン版(4月1日付)に掲載されました。

背景

種子の油の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG)は植物の成長や発生に重要なだけでなく、バイオディーゼルなどバイオ燃料[2]の原料としてさまざまな産業で活用されています。

TAGは種子の成長に伴い、細胞の膜を構成するリン脂質から合成されます。これまで、最も主要なリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)がTAGに変換される代謝の仕組みはよく研究されてきましたが、2番目に主要なリン脂質のホスファチジルエタノールアミン(PE)がどのようにTAGに変換されるかは不明でした。

研究手法と成果

国際共同研究チームはまず、酵母やヒトの肝臓などにPEをPCに変換する酵素があることに着目し、モデル植物のシロイヌナズナを用いて、同様の反応が植物でも起こることを明らかにしました。

次に、この反応を触媒する酵素PLMTを過剰に産生する植物体を作製したところ、種子のTAG含量が乾燥重量あたり最大で20%程度まで増大しました。一方で、PLMTの過剰生産は葉などの成長を阻害することが分かり、この代謝経路は種子のTAG合成に特化した仕組みである可能性が示されました。

これらの結果から、種子はPLMTを用いてPEをPCに変換することで、効率的にTAGを合成している可能性が明らかになりました(下図)。

これまでに知られていたTAG合成経路(左)と今回新たに発見された経路の図

図 これまでに知られていたTAG合成経路(左)と今回新たに発見された経路

最も主要なリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)は、一段階または中間産物のジアシルグリセロール(DAG)を経る2段階の反応でTAGに変換される。一方で、2番目に主要なリン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)がどのようにTAGに変換されるかは不明であった(左)。今回発見された、酵素PLMTが触媒する新経路により、PEはいったんPCに変換された後、TAG合成に供給されることが明らかになった(右)。

今後の期待

今回、PEをTAGに変換する代謝経路が明らかになりました。これにより、リン脂質をより効率的にTAGに変換するための代謝エンジニアリングに新しい方法が構築され、バイオ燃料などの生産技術の開発に役立つことが期待できます。

本研究成果は、国際連合が2016年に定めた17項目の「持続可能な開発目標(SDGs)[6]」のうち、「2.飢餓をゼロに」「3.すべての人に健康と福祉を」「13.気候変動に具体的な対策を」「15.陸の豊かさも守ろう」に貢献するものです。

補足説明

1.トリアシルグリセロール(TAG)
トリグリセリドとも呼ばれる。グリセロール骨格に三つの長鎖脂肪酸がエステル結合した脂質化合物であり、種子の油の主成分であるほか、動物細胞の油滴などにも豊富に存在する。極性がないため生体膜の構成成分にはならないが、エネルギー貯蔵物質などの役割を持つことからバイオ燃料の原料としても注目されている。

2.バイオディーゼル、バイオ燃料
動植物などに由来する生物資源からつくる燃料をバイオ燃料と呼び、そのうちディーゼルエンジン用の燃料に適したものをバイオディーゼルと呼ぶ。TAGは、バイオディーゼルの原料である脂肪酸メチルエステルを豊富に含む。

3.代謝エンジニアリング
遺伝子組換え技術を用いて生物の代謝の流れを任意に改変することにより、有用な化合物を作り出す技術。生き物の持つ能力を存分に活用した究極の「ものづくり」の一つといえる。

4.シロイヌナズナ
アブラナ科の一年生植物。ゲノムサイズが小さいこと、世代が短いこと、栽培が容易であること、遺伝子導入が容易であることなどから、種子植物のモデル生物として研究に用いられる。

5.酵素PLMT
正式名称はPhospholipid N-methyltransferase。リン脂質のホスファチジルエタノールアミン(PE)やそのメチル化誘導体に、メチル基を付加する活性を持つ酵素の総称。PEが3回メチル化を受けると、ホスファチジルコリン(PC)が生成する。

6.持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。

国際共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物脂質研究チーム
チームリーダー 中村 友輝(なかむら ゆうき)
(アカデミアシニカ 植物及微生物学研究所 研究員/教授、国立中興大学 バイオテクノロジーセンター 教授)

国立中興大学大学院生物工学系(台湾)
台湾国際大学院プログラム博士候補生 陳 樂融(たん ゆえろん)
(アカデミアシニカ 植物及微生物学研究所(台湾))

研究支援

本研究は、科学技術部(台湾)「ライジングスターアワード(受領者:中村友輝)」による支援を受けて行われました。

原論文情報

Yue-Rong Tan and Yuki Nakamura, “The importance of Arabidopsis PHOSPHOLIPID N-METHYLTRANSFERASE(PLMT) in glycerolipid metabolism and plant growth”, Journal of Experimental Botany, 10.1093/jxb/erac049

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 植物脂質研究チーム
チームリーダー 中村 友輝(なかむら ゆうき)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

ad
生物化学工学
ad
ad


Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました