皮膚バリアと感覚神経の関係を可視化~アトピー性皮膚炎などの痒みのメカニズムに新知見~

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2019-06-19 理化学研究所,日本医療研究開発機構

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター組織動態研究チームの岡田峰陽チームリーダー、髙橋苑子リサーチアソシエイトと皮膚恒常性研究チームの天谷雅行チームリーダー、久保亮治客員研究員らの共同研究グループは、皮膚の感覚神経が「皮膚バリア[1]」によって恒常的に保護される仕組みを解明しました。

本研究成果は、皮膚バリアの減弱により引き起こされる痒みのメカニズムの解明に寄与し、アトピー性皮膚炎などの痒みを抑制する新たな治療法の開発に貢献すると期待できます。

アトピー性皮膚炎などで、皮膚バリアの減弱が感覚神経を活性化し、痒みの誘導に至るメカニズムはよく分かっていませんでした。

今回、共同研究グループは、ヒトの正常皮膚の表皮内において、神経線維がタイトジャンクション(TJ)[2]と呼ばれる皮膚バリア構造の内側に、常に保持されていることを明らかにしました。その仕組みを直接観察するために、マウス表皮神経の生体イメージング解析を行った結果、表皮神経終末はダイナミックに伸縮しながら、時折、新しく形成されたTJのところで、“剪定”されることを初めて見いだしました。一方、アトピー性皮膚炎のマウスモデルではその剪定がうまく起こっておらず、神経がTJに貫入して外側へ突出しており、剪定異常の部分を起点として、感覚神経の異常な活性化が起こることが分かりました。さらに、TRPA1と呼ばれるイオンチャネル[3]を阻害することにより、この感覚神経の異常な活性化と、痒みの両方が抑制されることを見いだしました。

本研究は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』(6月13日付け)に掲載されました。

※共同研究グループ
理化学研究所
生命医科学研究センター 組織動態研究チーム

チームリーダー 岡田 峰陽(おかだ たかはる)

(横浜市立大学 大学院生命医科学研究科 大学院客員教授)

リサーチアソシエイト 髙橋 苑子(たかはし そのこ)

(研究当時:横浜市立大学大学院 生命医科学研究科 博士後期課程、生命医科学研究センター 組織動態研究チーム 研修生)

研修生(研究当時) 石田 梓(いしだ あずさ)

基礎科学特別研究員 落合 惣太郎(おちあい そうたろう)

生命医科学研究センター 皮膚恒常性研究チーム

チームリーダー 天谷 雅行(あまがい まさゆき)

(慶應義塾大学 医学部 皮膚科学教室 教授)

客員研究員 久保 亮治(くぼ あきはる)

(慶應義塾大学 医学部 皮膚科学教室 准教授)

生命医科学研究センター 免疫器官形成研究チーム  

チームリーダー 古関 明彦(こせき はるひこ)

(科技ハブ産連本部 医科学イノベーションハブ推進プログラム 疾患機序研究グループ グループディレクター)

科技ハブ産連本部 医科学イノベーションハブ推進プログラム

疾患機序研究グループ

上級研究員 川崎 洋(かわさき ひろし)

(生命医科学研究センター 皮膚恒常性研究チーム 上級研究員、慶應義塾大学 医学部 皮膚科学教室 非常勤講師)

かずさDNA研究所 先端研究開発部

ユニット長 中山 学(なかやま まなぶ)

※研究支援

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業「アトピー性皮膚炎の慢性掻痒を引き起こす末梢神経変化の解明」、科学技術振興機構(JST)イノベーションハブ構築支援事業「高精度の予測に基づく予防医療の実現に向けた疾患ビッグデータ主導型イノベーションハブ」による支援を受けて行われました。

背景

皮膚バリアは水分などの体内物質を保持し、外来物の侵入を阻止するという、体の恒常性になくてはならない役割を果たしています。皮膚構造は外側の表皮と内側の真皮、および皮下組織に分けられますが、皮膚バリア機能を持つ構造は二つあり、どちらも表皮に存在します。一つは、一番外側にある死んだ角化細胞[4]からなる角質層であり、もう一つは、そのすぐ内側で死ぬ少し前の角化細胞が形成する「タイトジャンクション(TJ)」です。

表皮は常に再生を繰り返しています。表皮の一番内側の基底層にある角化細胞の幹細胞が分裂し、徐々に外側に向かって移動しながら皮膚バリア形成の準備をします(図1)。有棘層を過ぎて顆粒層に達すると、角化細胞は平べったい多面体状の形になり、横隣の角化細胞間でジッパーのようにTJバリア構造を形成します(図1)。顆粒層の細胞は同時に、天然保湿成分などが詰まった細胞内顆粒の放出と細胞死の準備、つまり角質形成の準備を行います。

図1 表皮断面の模式図とマウス表皮顆粒層のレーザー顕微鏡画像

左模式図は、表皮断面を水平方向に見たもの。角化細胞が、図の下方から上方に向かって、次々に分化しながら移動することで、表皮は常に新しいものに入れ替わっている。これを表皮ターンオーバーという。それに伴い、顆粒層TJバリアも新しいものに入れ替わっていく。古いTJの下に新しいTJが形成され、一過的にTJが二重になってから、古いTJが消失する注1)。右画像は、皮膚外側(左の模式図の上方)から垂直方向に顆粒層をレーザー顕微鏡により観察した画像。緑色の二重になった多角形様のTJのうち、内側の多角形が新しく形成されたTJ。青色は角化細胞の核、赤色は神経。

皮膚バリア機能は、さまざまな原因で減弱しますが、遺伝的要因や環境の影響による天然保湿成分の減少も、代表的な原因の一つです。皮膚バリアの減弱が続くと、異常な痒みが誘導されます。乾燥皮膚では、皮膚バリアが減弱して痒みを引き起こします。それに引っ掻きも加わることで、さらに皮膚バリアが減弱すると、さまざまな外来物の侵入が継続的に起こり、それがアトピー性皮膚炎の原因になると考えられています。このような発症メカニズムにおいて、これまで角質層のバリア機能の減弱が寄与することが、多くの研究から分かっていました。一方、もう一つのバリア構造であるTJについても、その減弱がアトピー性皮膚炎発症に寄与すると提唱されていました。しかし、TJバリア減弱から発症に至るメカニズムは、十分に分かっていませんでした。

痒みとして認識される刺激を、皮膚から中枢神経系へ伝えるのは感覚神経です。近年、進行したアトピー性皮膚炎において、炎症細胞が産生するインターロイキン-4(IL-4)やIL-31といったサイトカイン[5]が、感覚神経を直接活性化することで痒みを引き起こすことが明らかになってきており、治療標的として実用化されています。しかし、発症前後の時期の皮膚バリアの減弱自体が、どのように痒みを引き起こすのかは不明でした。

神経を保護する皮膚バリアの減弱によって、外からの刺激が入りやすくなり、皮膚感覚が過敏になるのだろうという仮説は立てられていましたが、実際に何が起こっているのかは明らかになっていませんでした。そのような仮説があるにもかかわらず、皮膚バリア構造と表皮内の感覚神経の位置関係についてさえ、詳細な報告はほとんどありませんでした。

そこで、共同研究グループは、表皮のTJバリア構造と神経の3次元イメージング解析を試みました。

研究手法と成果

共同研究グループは、ヒトの皮膚検体を、切片を切らずにそのまま蛍光ラベルした抗体で染色し、表皮TJと神経の位置関係をレーザー蛍光顕微鏡[6]により3次元的に解析しました。ヒト正常皮膚検体では、神経線維は表皮TJのすぐ内側まで伸びていることが明らかになりました。TJに内側から接触しているように見える神経線維が数多くありましたが、TJに貫入して外側に突き出ている神経線維はほとんど見つかりませんでした。

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