2019-06-27 国立遺伝学研究所
新型次世代DNAシーケンサーを使って全ゲノム重複と進化の謎解明に道筋
De Novo assembly of the goldfish (Carassius auratus) genome and the evolution of genes after whole genome duplication
Zelin Chen*, Yoshihiro Omori*, Sergey Koren, Takuya Shirokiya, Takuo Kuroda, Atsushi Miyamoto, Hironori Wada, Asao Fujiyama, Atsushi Toyoda, Suiyuan Zhang, Tyra G. Wolfsberg, Koichi Kawakami, Adam M. Phillippy, NISC Comparative Sequencing Program, James C. Mullikin, and Shawn M. Burgess *(equally contribution)
Science Advances 26 Jun 2019:Vol. 5, no. 6, eaav0547 DOI:10.1126/sciadv.aav0547
大阪大学蛋白質研究所の大森義裕招へい教授(当時准教授。現 長浜バイオ大学教授)らの研究グループは、国立遺伝学研究所・川上浩一教授、藤山秋佐夫特任教授、愛知県水産試験場内水面漁業研究所弥富指導所、および米国国立衛生研究所(NIH)Shawn Bargess上席研究員らと共同でキンギョの全ゲノム配列を世界で初めて解読し、キンギョの祖先種(フナの仲間)のゲノムが約1400万年前に倍加したことや(全ゲノム重複)、倍加した遺伝子群の一部が進化の過程で淘汰されたり、新たな発現パターンを獲得したりする様子を明らかにしました。今回の研究では、新型のロングリード次世代DNAシーケンサーを使ったことと、通常の交配から得たキンギョではなく、ゲノム構造がシンプルな雌性発生キンギョを用いたことがブレイクスルーに繋がりました。キンギョは約千年前にフナから選別・育種され、現在、デメキンやランチュウ、リュウキンなど数十種類の多様な品種が飼育されています。キンギョは、その形態的な多様性から、私たち、人間を含む脊椎動物の体の形を決めるメカニズムの解明に役立つと考えられていますが、全ゲノムが解読されていないため遺伝子レベルでの研究が困難でした。今回のゲノム解読により、体の形を決めるメカニズムや全ゲノム重複と進化の研究を進めるための新たな扉が開かれました。また、キンギョの品種にはヒトの病気と似た症状をもつものがあり、キンギョがヒトの病気の原因解明や診断・治療法の確立に役立つ可能性も期待されることから、アメリカなど海外でもそのゲノム情報の研究に注目が集まっています。
この成果は2019年6月26日(米国東部標準時夏時間)に米国科学雑誌「Science Advances」に掲載されました。
国立遺伝学研究所の貢献
国立遺伝学研究所は、NIHのゲノム解析チームと国内のキンギョ研究者らを結びつける役割を果たし、また、第Ⅲ世代シーケンサでのゲノム解読に適した高分子高品質なキンギョ体細胞DNAの抽出精製と組織摘出実験を実施しました。
図: キンギョとフナの祖先種での全ゲノム重複と進化 キンギョやフナの祖先種では、約1400万年前に全遺伝子が倍加する現象(全ゲノム重複)が起こり、遺伝子が一般の魚類の2倍となった。その後、倍加した遺伝子の一部は進化・淘汰されている。その変遷の様子が今回のゲノム解読により明らかとなった。
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