自然リンパ球が肥満を誘導することを発見

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肥満症治療に向けた新しいターゲットとなる可能性

2019-07-03  理化学研究所

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの佐々木崇晴研究員、免疫細胞システム研究チームの小安重夫チームリーダー、自然免疫システム研究チームの茂呂和世チームリーダーらの研究グループは、食事による肥満の誘導に自然リンパ球[1]という免疫細胞が関与することを発見しました。

本研究成果は、今後さらに研究が進むことにより、肥満の改善を目的とした新しい治療法開発のきっかけになると期待できます。

肥満の誘導や悪化にはさまざまな要因が複合的に関与しており、食事や生活習慣のみならず、免疫系や腸内細菌なども関与することが知られています。リンパ球[1]は免疫系の中でも中心的な役割を果たす免疫細胞ですが、肥満の誘導における役割については分かっていませんでした。

今回、研究グループは、食餌誘導性肥満におけるリンパ球の関与について調べた結果、自然リンパ球が肥満の誘導に関与することを突き止めました。自然リンパ球は近年新しく発見されたリンパ球であり、これまでによく知られていたT細胞やB細胞のように外界から侵入した抗原を特異的に認識して活性化するのではなく、周囲の環境から産生されるサイトカイン[2]によって活性化されます。自然リンパ球の中でも、小腸の2型自然リンパ球という細胞が肥満の誘導に働くことが明らかになりました。

本研究は、米国のオンライン科学雑誌『Cell Reports』(7月2日付け:日本時間7月3日)に掲載されます。

※研究グループ

理化学研究所 生命医科学研究センター
免疫細胞システム研究チーム
チームリーダー 小安 重夫(こやす しげお)
自然免疫システム研究チーム
チームリーダー 茂呂 和世(もろ かずよ)
粘膜システム研究チーム
チームリーダー 大野 博司(おおの ひろし)
上級研究員 窪田 哲也(くぼた てつや)
研究員 加藤 完(かとう たもつ)
研究員 佐々木 崇晴(ささき たかはる)
代謝恒常性研究チーム
チームリーダー(研究当時) 窪田 直人(くぼた なおと)
(東京大学医学部准教授)

背景

肥満は糖尿病や高血圧、脂質異常症などの疾病の発症リスクを増加させることから、世界的な健康上の問題となっています。肥満の誘導にはさまざまな複合的要因が関与しており、食事や生活習慣のみならず、免疫系や腸内細菌も関与することが知られています。

リンパ球は獲得免疫[3]系のリンパ球と、自然免疫[3]系のリンパ球「自然リンパ球」の2種類に分類されています。獲得免疫系のリンパ球は、T細胞やB細胞のように古くから知られている細胞であり、外界から侵入した異物(抗原)の構造を特異的に認識して活性化します。一方、自然リンパ球は近年新しく発見された細胞であり、抗原特異的な受容体を持たず、周囲の細胞から産生されるサイトカインなどの情報伝達物質によって活性化します。しかし、自然リンパ球が肥満の誘導に関与するのかについては、よく分かっていませんでした。

研究手法と成果

研究グループはまず、リンパ球が肥満の誘導に関与するかを明らかにするために、獲得免疫系のリンパ球(T細胞、B細胞、NKT細胞)を欠損したRag2 -/-マウス[4]と、自然リンパ球(ILCs)を含め、全てのリンパ球を欠損したIl2rg -/-Rag2 -/-マウス[5]に高脂肪食を与えました。その結果、Rag2 -/-マウスでは野生型マウスと同様に肥満が誘導されたのに対し、Il2rg -/-Rag2 -/-マウスは肥満になりにくいことが分かりました(図1a,b)。このことは、獲得免疫系のリンパ球ではなく、自然免疫系のリンパ球が肥満の誘導に関与していることを意味しています。

そこで、どの自然リンパ球が肥満の誘導に関与しているのかを調べるために、1型自然リンパ球(ILC1)、2型自然リンパ球(ILC2)、3型自然リンパ球(ILC3)をそれぞれ欠損したマウスに肥満を誘導したところ、ILC2を欠損したマウスとILC3を欠損したマウスが肥満になりにくいことが分かりました。特に、ILC2欠損マウスの方が肥満になりにくかったことから、ILC2が肥満の誘導に重要な役割を持つことが分かりました。

これまでの研究で、脂肪組織のILC2が脂肪細胞などから産生されるインターロイキン33(IL-33)と呼ばれるサイトカインによって活性化すると、肥満を抑制することが報告されていました注1 ,2)。そこで、野生型マウスから脂肪組織のILC2を採取し、Il2rg-/-Rag2 -/-マウスに移植して高脂肪食を摂食させたところ、たしかに肥満は誘導されませんでした(図1c)。ところが、栄養を吸収する臓器である小腸に存在するILC2を野生型マウスから採取し、Il2rg-/-Rag2-/-マウスに移植して高脂肪食を与えた結果、肥満が誘導されるようになりました(図1d)。この結果は、脂肪組織のILC2ではなく、小腸のILC2が肥満の誘導に関与することを意味しています。

注1)Brestoff, J.R., Kim, B.S., Saenz, S.A., Stine, R.R., Monticelli, L.A., Sonnenberg, G.F., Thome, J.J., Farber, D.L., Lutfy, K., Seale, P., and Artis, D., Group 2 innate lymphoid cells promote beiging of white adipose tissue and limit obesity. Nature 2015, 519, 242-246.
注2)Lee, M.W., Odegaard, J.I., Mukundan, L., Qiu, Y., Molofsky, A.B., Nussbaum, J.C., Yun, K., Locksley, R.M., and Chawla, A., Activated type 2 innate lymphoid cells regulate beige fat biogenesis. Cell 2015, 160, 74-87.

今後の期待

自然リンパ球はヒトにも存在し、マウスと類似した機能を持つことが知られています。今後、研究が進んで自然リンパ球がどのように肥満の誘導に関与するのかが明らかになれば、新しい肥満改善法やメタボリックシンドロームの予防・治療法の開発につながると期待できます。

原論文情報

Takaharu Sasaki, Kazuyo Moro, Tetsuya Kubota, Naoto Kubota, Tamotsu Kato, Hiroshi Ohno, Susumu Nakae, Hirohisa Saito, and Shigeo Koyasu, “Innate lymphoid cells in the induction of obesity”, Cell Reports, 10.1016/j.celrep.2019.06.016

発表者

理化学研究所
生命医科学研究センター 粘膜システム研究チーム
研究員 佐々木 崇晴(ささき たかはる)

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