幸福の脳活動を解明~大脳右楔前部の安静時活動が低いほど主観的幸福得点が高い~

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2019-08-26 京都大学

佐藤弥 こころの未来研究センター特定准教授、河内山隆紀 ATR脳活動イメージングセンタ研究員らの研究グループは、主観的幸福と対応する脳活動および脳内ネットワークを明らかにしました。
本研究グループは、成人51人を対象として幸福度を質問紙で測定し、脳活動をfMRIで計測しました。その結果、右楔前部の安静時活動が低いほど、主観的幸福得点が高いことが示されました。つまり、より強く幸福を感じる人は、この領域の活動が低いことを意味します。先行研究から、楔前部の活動は否定的な自己意識や心の迷いに関係することが示されており、こうしたはたらきが弱いことが幸福感の基盤となっている可能性が示唆されます。また、右楔前部と感情処理に関わる右扁桃体の機能的結合が強いほど、主観的幸福得点が高いことも示されました。感情を適切に統合することで幸福感が生まれる可能性が示唆されます。
本研究成果は、今後、瞑想が楔前部の活動を低下させるといった知見と併せることで、科学的データに裏打ちされた幸福増進プログラムを作るといった展開が期待されます。
本研究成果は、2019年8月20日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:左・中:脳活動の結果、右:機能統合の結果

詳しい研究内容について

幸福の脳活動を解明
―大脳右楔前部の安静時活動が低いほど主観的幸福得点が高い―

概要
幸福は、人にとって究極の目的となる主観的経験です。心理学研究は、主観的幸福が質問紙で安定して計 測できることを示してきました。主観的幸福の脳内メカニズムを調べた最近の構造的脳画像研究は、右楔前 部の灰白質体積が主観的幸福と関係することを報告しました。
しかし、この領域のどのような活動、および機能結合が幸福と関係するかは不明でした。脳活動のパタン を明らかにすることで、幸福が生み出される心のしくみについて手がかりが得られます。
この問題を調べるため、京都大学こころの未来研究センターの佐藤弥特定准教授、ATR 脳活動イメージン グセンタの河内山隆紀研究員らのグループは、成人 51 人を対象として幸福度を質問紙で測定し、脳活動を fMRI で計測しました。
その結果、右楔前部の安静時活動が低いほど、主観的幸福得点が高いことが示されました。つまり、より 強く幸福を感じる人は、この領域の活動が低いことを意味します。先行研究から、楔前部の活動は否定的な 自己意識や心の迷いに関係することが示されており、こうしたはたらきが弱いことが幸福感の基盤となって いる可能性が示唆されます。また、右楔前部と感情処理に関わる右扁桃体の機能的結合が強いほど、主観的 幸福得点が高いことも示されました。感情を適切に統合することで幸福感が生まれる可能性が示唆されま す。
今回の結果は、主観的幸福と対応する脳活動および脳内ネットワークを、世界で初めて明らかにする知見 です。今後、瞑想が楔前部の活動を低下させるといった知見と併せることで、科学的データに裏打ちされた 幸福増進プログラムを作るといった展開が期待されます。
本研究成果は、2019 年 8 月 20 日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されまし た。


(左・中)脳活動の結果。右楔前部の安静時活動が低いほど、主観的幸福得点が高い。 (右)機能結合の結果。右楔前部と右扁桃体の機能的結合が強いほど、主観的幸福得点が高 い。

1.背景
幸福は、人にとって究極の目的となる主観的経験です。心理学研究は、主観的幸福が質問紙で安定して計測 できることを示してきました。主観的幸福の脳内メカニズムを調べた最近の構造的脳画像研究は、右楔前部 (頭
しかし、この領域のどのような活動 (亢進か低下か)および機能結合が幸福と関係するかは不明でした。脳 活動のパタンを明らかにすることで、幸福が生み出される心のしくみについて手がかりが得られます。

2.研究手法・成果
この問題を調べるため、京都大学こころの未来研究センターの佐藤弥特定准教授、ATR 脳活動イメージン グセンタの河内山隆紀研究員らのグループは、成人 51 人(女性 26 人;平均年齢 22.5 歳)を対象として幸福 度を質問紙で測定し、また安静時(5 分間、特定のことを考えずにじっとしている)の脳活動を fMRI(磁気 共鳴機能画像法)で計測しました。
その結果、右楔前部の安静時活動が低いほど、主観的幸福得点が高いことが示されました。つまり、より強 く幸福を感じる人は、この領域の活動が低いことを意味します。先行研究から、楔前部の活動は、否定的な自 己意識や、心の迷いや、執着する心に関係することが示されており、こうした心のはたらききが弱いことが幸 福感の基盤となっている可能性が示唆されます。また、右楔前部と右扁桃体の機能的結合が強いほど、主観的 幸福得点が高いことも示されました。扁桃体は感情処理に関わることから、感情を適切に統合することで幸福 感が生まれる可能性が示唆されます。

3.波及効果、今後の予定
今回の結果は、主観的幸福と対応する脳活動および脳内ネットワークを、世界で初めて明らかにする知見で す。今後、瞑想が楔前部の活動を低下させるといった知見と併せることで、科学的データに裏打ちされた幸福 増進プログラムを作るといった展開が期待されます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構のリサーチコンプレックスプログラムおよび最先端 ・次世代研 究開発支援プログラムの支援によって行われました。

<用語説明>
楔前部:
頭頂葉の内側面にある領域です。この部位の活動が、否定的な自己意識や、心の迷いや、執着する心 に関係するといった報告がされていました。
扁桃体: 側頭葉の内側部にある神経核複合体です。多くの研究から、感情処理 (刺激の生物学的意義を検出し て行動・生理反応を生み出す)に関わることが示されています。 灰白質: 神経細胞の細胞体が存在している部位です。

<研究者のコメント>
仏陀やアリストテレスが取り組んできた「幸福とは何か」という問題に、自分なりの科学的解答が出せて、 幸福です。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Resting-state neural activity and connectivity associated with subjective happiness(主観的幸福と関係する安静時の脳活動・結合)
著 者:Sato, W., Kochiyama, T., Uono, S., Sawada, R., Kubota, Y., Yoshimura, S., & Toichi, M.
掲 載 誌:Scientific Reports  DOI: 10.1038/s41598-019-48510-9

<参考図表>


図 1.脳活動の結果。右楔前部の安静時活動(Adjudsted fALFF)が低いほど、主観的幸福得点が高い。


図 2.機能結合の結果。黄色が主観的幸福得点と関係する機能結合。右楔前部(Prec)と右扁桃体(Amy)の機能的結 合が強いほど、主観的幸福得点が高い。また右楔前部の自己抑制結合が強いほど主観的幸福得点が高い。

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