オートファジーは活性酸素の蓄積を抑え気孔開口を可能にする!

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植物の光合成を支える新しいメカニズムを発見

2019-09-03   山口大学, 基礎生物学研究所

【発表のポイント】
○ オートファジーが植物の気孔の開口を制御し、光合成を支える役割をもつことを発見した。
○ オートファジーが活性酸素を蓄積したペルオキシソームを分解することで、孔辺細胞における活性酸素の恒常性を維持していることを発見した。
○ ペルオキシソームの選択的オートファジー(ペキソファジー)の生理的意義を解明した。
オートファジーは活性酸素の蓄積を抑え気孔開口を可能にする!
山口大学大学院創成科学研究科の武宮淳史准教授、山内翔太研究員の研究グループは、基礎生物学研究所の真野昌二准教授らの研究グループとの共同研究により、オートファジー1が細胞内の活性酸素2の蓄積を抑制し、気孔開口を可能にすることを、世界に先駆けて発見しました。
植物の表皮に存在する気孔は、太陽光に応答して開口し、光合成に必要な二酸化炭素の取り込みを促進します。一方、植物は乾燥などのストレスを感知すると、シグナル伝達物質として働く活性酸素を生成し、気孔を素早く閉鎖させます。このように環境に応答した気孔の開閉制御には、気孔を構成する孔辺細胞内の活性酸素量を厳密に制御することが重要です。しかし、活性酸素の恒常性がどのように制御されているのか、その仕組みについては謎でした。今回研究グループは、光に応答して気孔を開口できないシロイヌナズナ突然変異体の解析から、オートファジーが活性酸素を蓄積したペルオキシソーム3という細胞小器官を速やかに分解することで、活性酸素の恒常性を維持し、気孔開口を可能にすることを発見しました。
オートファジーによるペルオキシソームの選択的分解はペキソファジーと呼ばれ、真核生物に保存されたメカニズムです。しかし、これまで植物におけるペキソファジーの生理的意義は不明でした。本研究により、植物のペキソファジーは気孔開口の制御を通じて、光合成を支える役割をもつことが明らかになりました。本研究成果は、2019年9月2日の週に米国科学アカデミー紀要[Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)]の電子版に掲載されます。
【発表論文の情報】

タイトル:
Autophagy controls reactive oxygen species homeostasis in guard cells that is essential for stomatal opening
(オートファジーは孔辺細胞における活性酸素の恒常性を制御し気孔開口を可能にする)

著者:
山内 翔太(山口大学)、真野 昌二(基礎生物学研究所)、及川 和聡(基礎生物学研究所)、曳野 和美(基礎生物学研究所)、手島 康介(九州大学)、木森 義隆(基礎生物学研究所)、西村 幹夫(甲南大学)、島崎 研一郎(九州大学)、武宮 淳史(山口大学)

掲載誌:
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS) (2019)

DOI:
10.1073/pnas.1910886116

掲載日:
2019年9月2日の週内 (報道解禁日時の設定はありません)

【研究の背景】
大地に根を張り生活する植物は、周囲の環境を感知しそれに適切に応答することで、生存を可能にしています。陸上植物の表皮に存在する気孔は、一対の孔辺細胞により形成される孔であり、様々な環境変化に応じて開閉することで、植物内部と外界とのガス交換を調節しています(図1)。
気孔は太陽光に応答して開口し、光合成に必要な二酸化炭素の取り込みを促進させます。一方、植物は乾燥や病原菌などの環境・生物ストレスに曝されると、孔辺細胞内でシグナル伝達物質として機能する活性酸素を生成し速やかに気孔を閉鎖させ、植物体からの水分の損失や病原菌の侵入を防いでいます。このように、孔辺細胞における活性酸素量の制御は、環境に応じた気孔の開閉制御に必須のメカニズムです。
これまでの研究により、ストレスに応答して活性酸素を生成するメカニズムや、生成した活性酸素を消去するメカニズムについては理解が進んでいます。しかし、非ストレス条件下において、活性酸素の恒常性を維持し、気孔開口を可能にするメカニズムについては全く分かっていませんでした。
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【研究の成果】
今回研究グループは、光に応答して気孔を開口できないシロイヌナズナ突然変異体の解析から、オートファジーが活性酸素の恒常性を制御し、気孔の開口を可能にすることを発見しました。
気孔が開口すると蒸散による気化熱により葉の温度(葉温)が低下します。この現象に着目し、赤外線サーモグラフィ4を用いて気孔開口を視覚的に捉えるシステムを開発し、光を照射しても気孔を開くことができないシロイヌナズナ変異体(atg2変異体)を単離しました(図2)。
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変異体のDNA塩基配列を解析した結果、原因遺伝子がオートファジーの必須因子のひとつATG2(AUTOPHAGY-RELATED2)であることを突き止めました。さらに、他のオートファジーの必須因子を欠損する変異体の解析から、オートファジーの不全が気孔開口の阻害を引き起こすことを明らかにしました。
次に研究グループはオートファジー変異体で気孔開口が阻害される原因について研究を進めました。乾燥ストレスに応答して合成される植物ホルモン・アブシシン酸は、活性酸素の生成を誘導し気孔を閉鎖させます。オートファジー変異体における活性酸素を調べたところ、アブシシン酸の有無に関わらず、活性酸素が常に高蓄積していることが分かりました(図3)。
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この活性酸素の蓄積が気孔開口阻害の直接的な原因ではないかと考え、活性酸素を取り除くアスコルビン酸やグルタチオンなどの抗酸化物質を与えたところ、気孔開口が回復することが分かりました。 では、なぜオートファジー変異体の孔辺細胞では活性酸素の蓄積が高いのでしょうか?オートファジーは細胞内の不要なタンパク質や細胞小器官などを分解するメカニズムであるため、変異体では活性酸素の生成に関わる何らかのものが分解されずに蓄積していると考えられます。
ペルオキシソームは真核生物に普遍的に存在する細胞小器官で、様々な物質の代謝に関わります。植物の葉の細胞では、ペルオキシソームは光呼吸5で生じたグリコール酸の代謝を行います。この反応では、副産物として活性酸素のひとつである過酸化水素が生じるため、ペルオキシソームは植物細胞における活性酸素の主要な発生源として知られています。
そこで孔辺細胞におけるペルオキシソームを観察したところ、オートファジー変異体では野生株に比べてペルオキシソームの数が約3倍に増加し凝集を起こしていること、この凝集体では過酸化水素の蓄積が高いことを見出しました(図4)。さらに阻害剤によりペルオキシソームにおけるグリコール酸の代謝を阻害すると、オートファジー変異体で見られた活性酸素の蓄積が解消され、気孔開口も回復することが分かりました。
以上の結果から、オートファジーは活性酸素が蓄積したペルオキシソームを絶えず監視し、それを速やかに分解することで、孔辺細胞内の活性酸素の恒常性を維持し、気孔開口を可能にすることが明らかになりました。
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【本研究の意義と今後の展開】
本研究では、孔辺細胞における活性酸素の恒常性を維持するメカニズムを初めて示すとともに、オートファジーが気孔開口を可能とし、光合成を支える役割をもつことを、世界に先駆けて発見しました。ペルオキシソームの選択的オートファジー(ペキソファジー)は真核生物に保存されたメカニズムですが、植物における役割はこれまで明らかになっていませんでした。本研究は、植物におけるペキソファジーの生理的意義を示した初めての例となりました。
今後の課題は、オートファジーがどのようにして活性酸素が蓄積したペルオキシソームを認識しているかを解明することです。この仕組みを解明し植物細胞内の活性酸素量をより厳密に制御できるようになれば、光合成能力やストレス耐性能力を向上させた実用植物の開発に繋がり、地球規模で進行している食料問題や環境問題の解決に貢献することが期待されます。
【謝辞】
本研究は、科学研究費助成事業(18H02468, 26711019, 15K14552, 19K16171, 17K07457)、日本応用酵素協会および基礎生物学研究所共同利用実験 No. 17-518などの支援を受けて行われました。
【用語解説】
※1 オートファジー
タンパク質や細胞小器官などの細胞質成分を分解するシステム。
※2 活性酸素
高い反応性をもつ酸素分子の総称。過酸化水素やスーパーオキシドなどが含まれる。高濃度の活性酸素は細胞毒性を示すが、一方で生物はシグナル伝達物質として活性酸素を生成し利用している。
※3 ペルオキシソーム
核やミトコンドリアと同様に、真核生物に普遍的に存在する細胞小器官のひとつ。植物細胞では脂肪酸代謝のβ酸化や光呼吸におけるグリコール酸の酸化などを担う。
※4 赤外線サーモグラフィ
物体から放射される赤外線放射エネルギーを検出し、熱画像として表示する装置。
※5 光呼吸
光合成の二酸化炭素固定を行うRuBisCOが酸素と反応することで生じたホスホグリコール酸をホスホグリセリン酸に変換する代謝経路。葉緑体、ペルオキシソーム、ミトコンドリアの3つの細胞小器官にまがたる代謝反応により構成される。
【お問い合わせ】
武宮 淳史(タケミヤ アツシ)
山口大学大学院創成科学研究科 准教授

真野 昌二(マノ ショウジ)
基礎生物学研究所オルガネラ制御研究室 准教授

【配信者】
国立大学法人山口大学総務企画部総務課広報室

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

生物化学工学
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