ジャポニカアレイ@NEOを開発~より広くさまざまな人々にゲノム解析が適用可能に~

ad

2019-09-17   東北大学東北メディカル・メガバンク機構,日本医療研究開発機構

発表のポイント
  • 日本人集団特有の疾患関連SNP*1を搭載し、健康診断での利用や医療への応用を想定した、これまでにない疾患志向のSNPアレイ*2「ジャポニカアレイ®NEO」を開発しました。
  • ジャポニカアレイ®NEOで解析したSNP情報は、遺伝子型インピュテーション*3により高精度の擬似全ゲノム配列に復元可能です。
  • ジャポニカアレイ®NEOにより安価、高速、高精度にSNP情報、そして擬似全ゲノム配列の取得ができるようになり、格段に多くの人に対してゲノム解析を行うことができます。
概要

ジャポニカアレイ®は、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)により開発された、日本人ゲノム情報を高精度かつ低コストで解析可能とする遺伝子解析ツールであり、国立大学法人東北大学の登録商標です。

このたび、ToMMoでは、日本人集団に特有の疾患関連SNPを搭載したSNPアレイの設計を完了し、サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループより、「ジャポニカアレイ®NEO」として販売開始することとなりました。

ジャポニカアレイ®NEOは、文献などに基づく日本人特有の疾患関連SNPを総計2.8万個以上搭載しており、疾患の発症や原因の究明に迫るような研究に多く使われることが期待されます。また、日本人全ゲノムリファレンスパネル*4 3.5KJPNv2をもとに設計されており、日本人のゲノム解析に最適な仕様となっています。

ジャポニカアレイ®NEOで解析したSNP情報を足場にして、遺伝子型インピュテーションにより全ゲノムにほぼ匹敵する配列に復元することが可能です。また、これまで価格面から大規模集団に対して実施することが難しかった全ゲノムレベルの解析が現実的な選択肢となり、この先の個別化医療実現に向けた研究に貢献できることが期待されます。

詳細

ToMMoは、世界で初めて特定の民族集団の全ゲノム解析を1,000人以上の規模で行い、成果を全ゲノムリファレンスパネルとして発表しています。同パネルを活用し、日本人に最適化したSNPを選択してマイクロアレイを設計することで、高性能なゲノム解析を低価格で実現しようと、2014年にジャポニカアレイ®を、2017年にジャポニカアレイ®v2を開発してきました。

今回、これまでのジャポニカアレイ®の設計方法を根底から刷新し、世界の標準となりつつある連鎖不平衡統計量(r2*5を用いてtagSNP*6を選択し、これまでで最大の3,552人の日本人の全ゲノム配列データを含む3.5KJPNv2をもとに設計を行いました。

搭載SNP数

常染色体及びX染色体上のtagSNPは、3.5KJPNv2の情報に基づき連鎖不平衡統計量(r2)を用いて、日本人の全ゲノムレベルでの遺伝子型インピュテーションに最適化した約65万個を選抜し、搭載しました。一方、疾患関連SNPは、専門家による文献調査等により日本人における研究成果の報告があるSNP、さらに、国外のデータベース(GWAS Catalog)や市販のSNPアレイ(UK Biobank Axiom Array)に搭載された疾患関連SNPのうち、3.5KJPNv2を参照して日本人で多型を示すSNPを選択し、合計約2.8万個を搭載しました。重複するものを含めtagSNPと疾患関連SNPで総計約66万個のSNPが搭載されています。

性能の詳細

286名の日本人由来の検体を用いたジェノタイピング*7により、ジャポニカアレイ®NEOの性能検証を行いました。搭載SNPのうち、286名のデータセットで99.5%が多型を示し、効率よく日本人のゲノム解析が可能な設計となっていることが分かりました。また、3.5KJPNv2を用いた遺伝子型インピュテーションでは、マイナーアレル*8頻度0.1%以上のどの頻度区分においても、推定されたSNPと入力されたSNPの一致度を示す決定係数の平均値が0.96以上と、十分な予測精度を示しました。さらに、同遺伝子型インピュテーション後に得られた一定精度(INFO>0.8)以上のSNP数は、総計約1,300万個となり、日本人の疑似全ゲノム解析に有用な設計となっていることが分かりました。

対象疾患の種類

多因子疾患を中心に、幅広い疾患を対象として日本人のSNP情報を収集し、疾患との関連を検証することができるような設計としました。具体的には、認知症、抑うつや、自閉スペクトラム症等を含む精神神経系疾患(約5,500個)、高血圧、心疾患や、脳血管疾患等の循環器疾患(約1,100個)、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患等の呼吸器系疾患(約2,000個)、糖尿病や脂質異常症等の代謝系疾患(約2,900個)、悪性新生物(約900個)、遺伝性疾患(約900個)等です。特定の疾患を対象としたSNP以外にも、種々の免疫制御に関わるHLA(ヒト白血球抗原)及びKIR(キラー免疫グロブリン受容体)(計約7,200個)、ファーマコゲノミクス(約1,800個)、その他形質や遺伝子発現等に関連するSNPも搭載しています。

今後の展望

全ゲノム解析は低コスト化しているとはいえ、研究以外の領域では簡便に実施することはできませんでした。今回ジャポニカアレイ®NEOが発売されたことにより、全ゲノム解析の価格面でのハードルが下がり、これまで全ゲノム解析をしていなかったために明らかにできなかった、より広いゲノム領域と疾患との関連性などが明らかになる可能性があります。

また、ジャポニカアレイ®NEOにより、大勢の方のゲノム解析が低コストで実施可能となるため、これまでゲノム解析の対象ではなかった健康診断などの新たな領域への拡大が期待されます。

これまで民族集団によってゲノムに違いがあることは明らかになっており、従来より一層日本人に最適化されたジャポニカアレイ®NEOは、日本の医療・健康に大きく貢献すると考えます。

参考
東北メディカル・メガバンク計画について

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。東北大学東北メディカル・メガバンク機構と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、平成25年より合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査等を実施して、試料・情報を収集したバイオバンクを整備しています。本計画については、平成27年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が研究支援担当機関の役割を果たしています。

用語解説
*1.SNP:
一塩基多型。ゲノム配列において、ある領域でDNAの塩基配列が個人間で一塩基のみ異なる多型のなかで一定以上のアレル(同じ座位上で対立して存在する塩基)頻度で存在するもの。
*2.SNPアレイ:
SNP(一塩基多型)を解析可能なDNAマイクロアレイ。
*3.遺伝子型インピュテーション:
SNPアレイの解析結果とハプロタイプリファレンスパネル(個々人の全ゲノム解析データから両親由来をそれぞれ区別した染色体配列の集まり)とを組み合わせることでSNPアレイによる判定をしていない数百万のSNV(一塩基バリアント)の遺伝子型を推定する統計学的手法。
*4.日本人全ゲノムリファレンスパネル:
東北メディカル・メガバンク計画で実施した、日本人の一般成人数千人の全ゲノム次世代シークエンシング解読により検出された、ゲノムDNAのバリアントから構築された日本人ゲノムのパネル。
*5.連鎖不平衡統計量(r2):
連鎖不平衡の程度を表す指標の一つ。ゲノム上の連鎖している(座位)の各2種類の塩基(アレル)について、無作為に期待される以上の偏った組合せ(ハプロタイプ)の存在を連鎖不平衡と呼び、その程度を両座位でのアレルを成分とした決定係数(相関係数rの二乗、r2)で表す。係数のr2は0から1の値を取り、1に近いほど2座位の間で連鎖不平衡の破壊が起きておらず、連鎖不平衡の程度が強いことを示す。これまで、サンプルサイズとの明確な関係を示すことなどから、tagSNPの選抜に世界的に利用されてきた。
*6.tagSNP:
1本のゲノム上の特定領域において、連鎖している位置(座位)に存在するアレルの非無作為の組み合わせ(ハプロタイプ)を効率的に識別するために選ばれたSNPのこと。
*7.ジェノタイピング:
父母由来の2つの塩基の種類(アレル)の組み合わせ(遺伝子型)を判定すること。ジャポニカアレイ®のようなSNPアレイを用いることにより、1回の解析でゲノム上の多数の位置の遺伝子型判定が可能になっている。
*8.マイナーアレル:
ゲノム上のある位置を占める通常2種類の塩基(アレル)のうち、頻度が50%未満の方。
お問い合わせ先
研究に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構

生命情報システム科学分野

教授 木下 賢吾(きのした けんご)

報道に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構

長神 風二(ながみ ふうじ)

AMED事業に関すること

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

基盤研究事業部 バイオバンク課

ad

医療・健康細胞遺伝子工学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました