第三の眼:松果体における遺伝子発現と発生を制御する分子

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松果体と網膜の光受容細胞の違いを規定する仕組み

2019-10-11 東京大学

東京大学大学院理学系研究科の小島大輔講師、深田吉孝教授らのグループは、「第三の眼」として知られる松果体の遺伝子発現や発生を制御する鍵分子としてBsxを同定しました。

松果体は、睡眠ホルモンであるメラトニンを分泌する脳器官であり、ニワトリやサカナなど多くの動物では光を感じる、いわゆる「第三の眼」として機能します。松果体の光受容細胞は、網膜の視細胞と多くの類似点をもつ一方、メラトニン分泌(松果体)と視覚(網膜)という互いに大きく異なる生理機能をもつことが知られています。このような「似て非なる」光受容細胞の個性が、いかなる分子メカニズムによってもたらされているのか、これまで謎として残されていました。

今回、小島講師らのグループは、このような松果体の進化的・発生学的な特長に注目してゼブラフィッシュを用いた遺伝子組換え実験や分子生物学的な実験を行い、この脳内器官において特異的な遺伝子発現を制御する転写因子Bsxを同定しました。Bsxは松果体の光センサー分子であるエクソロドプシンの遺伝子プロモータに結合し、さらに別の転写因子Otx5(網膜と松果体に共通の転写因子)が近傍に結合して協同的に作用することにより、遺伝子発現が強力に活性化されることがわかりました。また個体レベルでBsxの機能を解析したところ、Bsxは松果体ニューロンの発生・分化に必須であることが明らかになりました。

本研究において発見された鍵分子Bsxは、ゼブラフィッシュだけでなく、哺乳類の松果体にも強く発現することがわかっています。メラトニン分泌など種を越えて保存された松果体の機能発現において、Bsxは重要な役割をもつと考えられます。

「進化の過程で生物は、器官・組織・細胞などの生体構造を倍加させ、さらに少しずつ異なる個性を付与することにより、機能を多様化させてきました」と小島講師は話します。「このような相同な生体構造に対してそれぞれに特徴的な個性を賦与する分子メカニズムはほとんど明らかにされておらず、松果体と網膜の比較研究はそのモデル系として期待されます」と続けます。

論文情報

Hiroaki Mano, Yoichi Asaoka, Daisuke Kojima, Yoshitaka Fukada, “Brain-specific homeobox Bsx specifies identity of pineal gland between serially homologous photoreceptive organs in zebrafish,” Communications Biology: 2019年10月7日, doi:10.1038/s42003-019-0613-1.

論文へのリンク (https://www.nature.com/articles/s42003-019-0613-1)

細胞遺伝子工学生物化学工学
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