植物多糖類を感知して接近する微生物の仕組みの一端を解明~果皮廃棄物の有効活用へ期待~

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2020-03-06   京都大学

 小西 英仁 農学研究科修士課程学生(研究当時)、橋本渉 同教授らの研究グループは、ミカンやリンゴの皮などに多く含まれる植物細胞壁成分である多糖ペクチンを感知し、接近する微生物の仕組みの一端を明らかにしました。

 ペクチンは植物細胞壁の構成成分である酸性多糖であり、ジャムやゼリーなどの食品増粘剤としても利用されています。アルギン酸は、ペクチン同様、植物の一種である褐藻類によって生産される酸性多糖です。本研究グループは、Sphingomonas属細菌A1株が遊泳能力を発揮して、栄養素であるペクチンとアルギン酸に接近することを見出していました。本研究では、このA1株の変異株(A1-M5株)が、ペクチンにのみ接近しないことを発見し、A1-M5株にペクチンに接近する性質を付与する遺伝子sph1118を明らかにしました。

 さらに、sph1118遺伝子の産物であるタンパク質SPH1118の機能を解析したところ、SPH1118がペクチンを感知(認識結合)し、ペクチンに接近するための分子機構を働かせると同時に、ペクチンを栄養素として取り込むというメカニズムを持つことが明らかになりました。

 本研究では、このように微生物が生存のために優れたセンシング機能を持つことを解明しました。ペクチンは果物の果皮などにも多く含まれるものの、その大部分は廃棄されています。本研究成果は、果皮廃棄物の有効活用(バイオ燃料生産など)に繫がることが期待されます。

 本研究成果は、2020年3月4日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報
  • 日刊工業新聞(3月5日 23面)に掲載されました。
詳しい研究内容について
植物多糖類を感知して接近する微生物の仕組みの一端を解明

―果皮廃棄物の有効活用へ期待―

概要

 小西 英仁 京都大学大学院農学研究科修士課程学生(研究当時)、橋本 渉 教授らの研究グループは、ミカンやリンゴの皮などに多く含まれる植物細胞壁成分である多糖ペクチンを感知し、接近する微生物の仕組みの一端を明らかにしました。果皮廃棄物の有効活用に繫がると期待されます。

本研究は、3 月 4 日に英国の学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

1.背景

 ペクチンは植物細胞壁の構成成分である酸性多糖であり、食品増粘剤( 例、ジャムやゼリー)としても利用されています。グルコースのみからなるデンプンとは異なり、ペクチンは複数の異なる糖から構成されています。具体的には、ペクチンは、ポリガラクツロナン( PG)、ラムノガラクツロナン-I( RG-I)、およびラムノガラクツロナン-II(RG-II)の 3 つの領域を含みます(図 1)。PG と RG-II はガラクツロン酸の重合体を主鎖にもち、RG-II にはさらに枝分かれした側鎖が結合しています。RG-I の主鎖はガラクツロン酸とラムノースの二糖の繰り返し配列の重合体であり、さらに種々の側鎖が付加されています。一方、ペクチンは果物の果皮などにも多く含まれており、その大部分は廃棄されているため、その有効活用が求められています。また、アルギン酸はペクチン同様、植物の一種である褐藻類によって生産される酸性多糖であり、近年ブルーカーボンの一つとして注目されています。

図 1. 植物細胞壁多糖ペクチンの構造

 最近、本研究グループは、アルギン酸とペクチンを栄養素として良好に増殖するSphingomonas属細菌 A1 株が、半固体の軟寒天培地で継代培養すると、アルギン酸とペクチンに対して、べん毛を用いる菌体の遊泳能力を発揮し接近する性質( 正の走化性)を見いだしました( 図 2)。これまでに、他の細菌において多糖ペクチンが分解された低分子化物( ペクチンオリゴ糖)に対する走化性に関する研究は進んでいますが、多糖そのものに接近する仕組みは分かっていません。

図 2. 走化性発現

2.研究手法・成果

  今回の研究では、アルギン酸とペクチンの両方に接近する A1 株( A1-MP 株)に対して( 図 3)、A1 株変異株( A1-M5 株)がアルギン酸にのみ接近し、ペクチンには接近しないことを発見し( 図 4)、A1-M5 株にペクチンに接近する性質を付与する遺伝子(sph1118)を明らかにしました。

図 3. ペクチンに接近する A1 株

(A) 走化性評価培地[軟寒天培地の中央(黒丸)にスポットした後、その周辺(白丸)に A1-MP 株をスポットし 5 日間保温した]、(B)

A1 株スポット後 1 日目、(C) 2 日目、(D) 3 日目、(E) 4 日目、(F) 5 日目。A1 株細胞(灰色)が徐々に中央に集まってくる様子が観察される。

図 4. ペクチンに接近しない A1-M5 株

(A) アルギン酸を軟寒天培地の中央にスポットした後、その周辺に A1-M5 株をスポットし 5 日間保温した。(B) アルギン酸の代わりにペクチンをスポットし、その周辺に A1―M5 株をスポットし 5 日間保温した。A1-M5 株細胞( 灰色)が徐々にアルギン酸 (A) にのみ集まってくる様子が観察される。

 sph1118の遺伝子産物 SPH1118 の機能を解析したところ、SPH1118 はアルギン酸やグルコースとは結合せず、RG-I を含むペクチンと特異的に結合するタンパク質であることがわかりました( 図 5)。また、A1-M5 株とsph1118遺伝子破壊株は、A1-MP 株と比較すると、ペクチンを栄養素として増殖する能力( 資化性)を低下させていることも判明しました。A1 株ゲノムにおける sph1118の遺伝子構成から、SPH1118 は輸送体 ABC トランスポーターと連携する基質結合タンパク質として機能する可能性が示されました。以上のことから、SPH1118 がペクチンを感知( 認識結合)し、ペクチンに接近するための分子機構( MCP 受容体)を働かせると同時に、ペクチンを栄養素として取り込むのに機能するモデルが考えられます(図 6)。

図 5. 特異的にペクチンと結合する SPH1118

(A) SPH1118 とペクチン有無での紫外吸収差スペクトル(ペクチン有無でスペクトルが異なる)、(B) SPH1118 とグルコース有無でのスペクトル、(C) SPH1118 とアルギン酸有無でのスペクトル。(D) ペクチン濃度依存的に紫外吸収スペクトルが変化する。

図 6. SPH1118 によるペクチン資化性・走化性発現機構

SPH1118 がペクチンの存在を感知すると、ペクチンと結合した SPH1118 が走化性受容体と結合し、ペクチンに接近するようになり、また同時に、ABC トランスポーターにペクチンを渡し、ペクチンを栄養素として取り込むようになる。

3.学術的意義と波及効果

 本研究から、約 2 µm の小さな生き物が 2 cm 程度離れた高分子の栄養素に向かってどのように接近するかを明らかにしました。これは、身長約 2 m のヒトが 20 km 離れた食品のありかを感知し、泳いでいくことに相当します。つまり、小さな生き物でも生存のための優れたセンシングメカニズムをもっており、その一端を解明することができました。

本研究成果の応用的ならびに社会的波及効果として、走化性(接近能)を活用した A1 株によるバイオ燃料生産があげられます。本研究グループは、村田幸作 本学名誉教授とともに、合成生物学的手法により改変された A1 株を用いて、ペクチンからバイオ燃料(エタノール)を生産することを達成しています。さらなる実用化に向けて、ペクチンを多く含む果皮そのものからのバイオ燃料生産系の確立が必要です。そのために、不均一で複雑な素材(廃棄物など)に含まれるペクチンをいち早く認識し、速やかに到達できる A1 株は、果皮から効率よくバイオ燃料を生産できると期待されます。

4.今後の予定

 A1 株はペクチンのみならず、アルギン酸にも接近し、増殖の栄養素とします。今回明らかにしたペクチンを感知する分子に相当するアルギン酸センシング機構が A1 株に存在すると考えらます。今後は、A1 株のアルギン酸に接近する仕組みを明らかにし、アルギン酸を多量に含む褐藻類そのものからのバイオ燃料生産に着手します。海洋で固定された炭素(ブルーカーボン)からなる褐藻類から直接バイオ燃料生産が実現できれば、低炭素社会と循環型社会の構築を大いに推進することになります。

5. 研究プロジェクトについて

本研究は下記の機関より支援を受けました。

日本学術振興会(挑戦的萌芽研究)日本学術振興会(基盤研究(B))

公益財団法人長瀬科学技術振興財団

<用語解説>

ペクチン 植物の細胞壁を構成する主要な水溶性多糖であり、食品増粘多糖類として利用される半面、廃棄処理される果皮などにも多く含まれます。

アルギン酸 褐藻類が藻体から分泌生産する水溶性多糖であり、マンヌロン酸とグルロン酸から構成されます。例としてコンブやワカメなどのネバネバの成分として存在します。乾燥藻体に多く含まれることから、非食用褐藻類の利活用が広く求められています。

ブルーカーボン: 海藻などを中心に、その光合成により大気中の二酸化炭素が吸収固定された炭素のことであり、海洋従属栄養生物が利用しています。

Sphingomonas 属細菌 植物の葉面などに常在する細菌群であり、病原菌から植物を守る働きを示すものもいます。

走化性 細菌が環境中の化学物質の濃度変化を感知し、富栄養環境や宿主細胞へ誘引される、または有害物質から忌避を行う性質のことです。

<論文タイトルと著者>

タイトル: Bacterial chemotaxis towards polysaccharide pectin by pectin-binding protein

著者: Hidenori Konishi, Mamoru Hio, Masahiro Kobayashi, Ryuichi Takase, and Wataru Hashimoto.

掲載誌: Scientific Reports  DOI: 10.1038/s41598-020-60274-1

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