ヒゲは水流センサー ~深海での餌採りに利用、キタゾウアザラシで初確認~

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2022-06-14 国立極地研究所,東京大学

図1:立派なヒゲを持つキタゾウアザラシの子供。(撮影場所:アメリカ・カリフォルニア州Año Nuevo州立公園、NMFS#23188)(安達大輝撮影)

国立極地研究所の安達大輝特任研究員(現 米国カリフォルニア大学研究員)、高橋晃周准教授、東京大学の岩崎渉教授らの国際共同研究グループは、キタゾウアザラシ(図1)が深海での餌採りにヒゲを使っていることを明らかにしました。

研究グループは、キタゾウアザラシの雌の左頬に小型ビデオカメラを取り付け、深海でのヒゲの動きと餌採りを録画、解析しました。そして、キタゾウアザラシがヒゲを広げて深海魚を探索・追跡・捕獲することを明らかにしました。視覚が制限される暗い深海で効率的に餌を採るために、魚が作る水流をヒゲで感知する方法を発達させたと考えられます。

これまで、自然界で動物たちがヒゲをどのように動かし、利用しているかは謎でした。本研究は、深海のような暗闇での餌採りにおいて哺乳類のヒゲが重要な役割を果たしていることを初めて示しました。

この成果は、6月13日(米国東部夏時間)に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。

研究の背景

深海は暗く、視覚による餌探しは困難です。そのため、深海に適応するために動物たちは目の代わりとなる感覚器を進化させてきました。例えば、マッコウクジラは超音波(反響定位)を使って深海で大きなイカを見つけ出します。一方、マッコウクジラと同様に深海で餌を採るのがアザラシです。とくにキタゾウアザラシは500m近い深さまで潜って小さな深海魚を頻繁に食べることが知られています(文献1)。しかし、クジラのように超音波で餌探しできないキタゾウアザラシが暗闇でどのようにして餌を採っているかは長年の謎でした。

これまで、飼育下での実験から、アザラシのヒゲが水流を感知するセンサーとして重要であることが示唆されてきました(文献2)。実験では、目隠ししたアザラシが人工的に作った水流をヒゲで感知・追跡する様子が報告されています。このことから「野生のアザラシはヒゲを水流センサーとして利用し餌を探しているのではないか」と仮説が立てられましたが、今日に至るまで野外での検証は行われていませんでした。

野生のアザラシは本当にヒゲを餌採りに使っているのでしょうか。

研究の内容

深海での動物の行動研究には、直接観察ができないという厳しい制約があります。この制約を打破し、深海でのヒゲの動きを観察するために、本研究グループは小型のビデオカメラ(赤色光または赤外光LEDフラッシュ付き)を新たに開発し、キタゾウアザラシの左頬に装着しました(注1)。調査は2015から2018年にかけて10頭のキタゾウアザラシの雌(注2)を対象に実施し、合計で9.4時間のビデオデータを得ることができました。

ビデオデータから、キタゾウアザラシは深海でヒゲを頻繁に広げており(図2)、また、一定の時間間隔(中央値:9.2秒間隔)でヒゲを広げたり、閉じたりしていることが分かりました(動画1)。リズミカルにヒゲを動かすこの行動は、陸上のネズミでも観察される周囲を探索する行動と類似しています。さらにビデオデータには、キタゾウアザラシがヒゲを広げて深海魚を追いかけ、捕食する様子が記録されていました(図3、動画2)。詳しく解析すると、一部の餌は捕食される前に青い光(生物発光)を発していることが分かりました(図3右、動画3)。キタゾウアザラシは青い光を目で感知し餌採りに役立てていると考えられますが、全餌採り回数に対する生物発光の割合はたったの20%程でした。

図2:キタゾウアザラシの潜水深度とビデオ取得期間の例。餌がいる深海200m以深に達すると、ヒゲを頻繁に広げ始める。

図3:(左)ヒゲを閉じている様子。(右2点)ヒゲを広げて餌を追いかける様子。矢印は餌が出す青い光(生物発光)。

動画1:ヒゲを広げたり、閉じたりしている様子

動画2:餌を追いかけ、捕食する様子

動画3:青い光を発する餌を追いかけ、捕食する様子

これらの結果から、キタゾウアザラシは主にヒゲを水流センサーとして使い、魚の動きによる水流を感知することで、深海で餌を探索・追跡・捕獲していると結論付けました。

考察と今後の展望

私達ヒトを含む一部の哺乳類を除き、ほとんどの哺乳類はキタゾウアザラシのように顔に洞毛(動かすことのできるヒゲ)を持っています。しかしながら、これまで、自然界で動物たちがヒゲをどのように動かし、利用しているかは謎でした。本研究は深海のような暗闇での餌採りにおいて哺乳類のヒゲが重要な役割を果たしていることを初めて示しました。今後、自然界でのヒゲの動きや役割について他の哺乳類でも研究を進めることで、野生動物の行動のさらなる理解に繋がると期待されます。

注1:機器はエポキシ樹脂でアザラシの体毛に取り付けられており、使用後は容易に取り外すことができる。なお、体毛は1年に1度、換毛期(5~6月)に生え換わる。

注2:本研究で雌を対象としたのは、(1)生物発光の影響を調査するため、(2)外洋の深海で餌採りするハクジラ類と比較するため、という2つの目的を満たすためである。雌は(1)ハダカイワシなどの発光魚を(2)外洋の深海で頻繁に食べるが、一方、雄は沿岸の海底で餌を採ることが多い。

文献

文献1:Adachi, T., Takahashi, A., Costa, D.P., Robinson, P.W., Hückstädt, L.A., Peterson, S.H., Holser, R.R., Beltran, R.S., Keates, T.R. & Naito, Y. (2021) Forced into an ecological corner: Round-the-clock deep foraging on small prey by elephant seals. Science Advances, 7, eabg3628.

文献2:Dehnhardt, G., Mauck, B. & Bleckmann, H. (1998) Seal whiskers detect water movements. Nature, 394, 235–236.

発表論文

掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America(PNAS)
タイトル:Whiskers as hydrodynamic prey sensors in foraging seals

著者:
安達 大輝(国立極地研究所 特任研究員(研究当時)、現:カリフォルニア大学サンタクルーズ校 研究員)
内藤 靖彦(国立極地研究所 名誉教授)
Patrick W. Robinson(カリフォルニア大学サンタクルーズ校 講師)
Daniel P. Costa (カリフォルニア大学サンタクルーズ校 教授)
Luis A. Hückstädt(エクセター大学 講師)
Rachel R. Holser(カリフォルニア大学サンタクルーズ校 研究員)
岩崎 渉(東京大学 教授)
高橋 晃周(国立極地研究所 准教授)
DOI:10.1073/pnas.2119502119
URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2119502119
論文出版日:2022年6月13日(米国東部夏時間)

研究サポート

本研究は、JSPS科研費(12J04316、15H06824、16J02935、23255001、15K14793、20H00650)の助成を受けて実施されました。

お問い合わせ先

(研究内容について)
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 研究員 安達 大輝(あだち たいき)
国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授 高橋 晃周(たかはし あきのり)

(報道について)
国立極地研究所 広報室
東京大学大学院新領域創成科学研究科 広報室
東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室

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