植物病原菌の巧妙な認識回避機構~植物と病原菌の攻防における共進化の一端を解明~

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2018-12-05理化学研究所

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター植物免疫研究グループの浅井秀太客員研究員、白須賢グループディレクターらの国際共同研究グループ※は、植物病原菌が植物への感染を成立させるために、宿主植物からの認識を回避する機構を発見しました。

農地では、耐病性品種の抵抗性を打破する新たな病原菌系統の出現が問題となっているため、本研究成果は、将来的な病害防除法の開発に貢献することが期待できます。
植物と病原菌は、自身の存続をかけた攻防により共進化してきました。植物病原菌はエフェクター[1]と呼ばれる病原性タンパク質を植物細胞内に注入し、植物の防御反応を抑制することで、感染に成功します。一方、抵抗性を示す植物は、細胞内型免疫センサー[2]を用いてエフェクターを認識し、過敏感反応(HR)[3]と呼ばれる、細胞死を伴う強力な免疫応答を誘導します。
今回、国際共同研究グループは、卵菌綱[4]植物病原菌であるべと病[5]菌から、シロイヌナズナの細胞内型免疫センサーによって認識されるエフェクターを同定しました(図A)。また、認識を回避しているべと病菌分離株において、エフェクターの発現を抑制(図B)、または宿主細胞内での局在を変化させること(図C)で、認識を回避する2種類の機構を明らかにしました。
本研究は、英国のオンライン科学誌『Nature Communications』(12月5日付け:日本時間12月5日)に掲載されます。


図 べと病菌の細胞内型免疫センサーRPP4による認識の回避機構

※国際共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物免疫研究グループ
客員研究員 浅井 秀太(あさい しゅうた)
グループディレクター 白須 賢(しらす けん)
英国センズベリー研究所
博士研究員 オリバー・ファーザー(Oliver Furzer)
博士研究員 ヴォルカン・セビック(Volkan Cevik)
博士研究員 デーソン・キム(Dae Sung Kim)
博士研究員 ナビード・イシャクー(Naveed Ishaque)
グループリーダー ジョナサン・ジョーンズ(Jonathan Jones)
カリフォルニア大学バークレー校
博士研究員 サンドラ・ゴーリスチニック(Sandra Goritschnig)
博士研究員 ブライアン・スタスカヴィッツ(Brian Staskawicz)

※研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究B「病原菌エフェクターの植物免疫抑制機構および認識回避機構の解明(研究代表者:浅井秀太)」をはじめ、同基盤研究C「細胞レベルでの宿主病原菌相互作用機構解析による病害防除に向けた有用遺伝子の探索(研究代表者:浅井秀太)」、同新学術領域研究「植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム」の研究課題「寄生植物による維管束情報ハイジャック機構の解明(研究代表者:白須賢)」、同基盤研究S「植物と病原体の攻防における分子機構(研究代表者:白須賢)」、同特別研究員奨励費「核局在卵菌綱植物病原菌エフェクターの罹病性誘導機構および病害抵抗性抑制機構の解明(特別研究員SPD:浅井秀太)」による支援を受けて行われました。

背景

植物と病原菌は、自身の存続をかけた攻防により共進化してきました。植物病原菌はエフェクターと呼ばれる病原性タンパク質を植物細胞内に注入し、植物の防御反応を抑制することで、感染に成功します。一方、抵抗性を示す植物は、細胞内型免疫センサーを用いてエフェクターを認識し、過敏感反応(HR)と呼ばれる、細胞死を伴う強力な免疫応答を誘導します。
卵菌綱植物病原菌であるべと病菌(Hyaloperonospora arabidopsidis)は、モデル植物であるシロイヌナズナにべと病を引き起こす植物病原菌です。これまで、べと病菌-シロイヌナズナ間の相互作用については世界中で精力的に研究されており、べと病菌の異なる分離株とシロイヌナズナの異なるエコタイプ[6]間の親和性・非親和性(感染できる・できない)の関係が明らかにされています。シロイヌナズナのCol-0エコタイプは、細胞内型免疫センサーであるRPP4タンパク質によって、べと病菌の分離株Emoy2を認識することが知られていましたが、認識されるエフェクターはまだ見つかっていませんでした。
そこで、国際共同研究グループは、細胞内型免疫センサーRPP4により認識されるべと病菌エフェクターの同定を試みました。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、まずシロイヌナズナ(Col-0)において、非病原性株Emoy2(RPP4による認識)と病原性株Waco9(RPP4による認識回避)を感染させた際の遺伝子発現解析(比較トランスクリプトーム解析[7])およびゲノム配列を決定したEmoy2とWaco9を含む七つのべと病菌分離株間の比較ゲノム解析[8]を通して、RPP4により認識されるべと病菌エフェクター候補をEmoy2株より五つ選抜しました。
一般的に、細胞内型免疫センサーと認識される病原菌エフェクターを同時に植物細胞内で発現させると、過敏感細胞死(HR細胞死)[3]という免疫応答が誘導されることが知られています。そこで、選抜された五つの候補エフェクターとRPP4をタバコ植物において一緒に発現させたところ、RPP4と候補エフェクターHaRxL103Emoy2を一緒に発現させた部位において、HR細胞死が観察されました(図1)。これにより、べと病菌エフェクターHaRxL103Emoy2(Emoy2由来)が、シロイヌナズナの細胞内型免疫センサーRPP4により認識されることが分かりました。
続いて、べと病菌の宿主細胞内型免疫センサーからの認識回避機構を調べるために、RPP4に認識されないべと病菌分離株(Waco9、Cala2、Emco5、Maks9、Hind2)由来のHaRxL103遺伝子をクローニング[9]し、タバコ植物においてRPP4と一緒に発現させました。その結果、HR細胞死はRPP4とHaRxL103のWaco9/Cala2型(HaRxL103Waco9/Cala2)およびEmco5/Maks9型(HaRxL103Emco5/Maks9)を一緒に発現させた部位においては観察されましたが、Hind2型(HaRxL103Hind2)を一緒に発現させた部位では観察されませんでした(図2A)。また、植物細胞内でのHaRxL103の局在を調べたところ、HR細胞死を誘導したEmoy2型、Waco9/Cala2型、Emco5/Maks9型は、細胞質と核(特に核小体[10])に局在しましたが、HR細胞死を誘導しなかったHind2型は、核小体内に局在する割合が著しく減少していることが分かりました(図2B)。
そこで、Hind2型に核局在シグナル配列(NLS)[11]を付加したところ(NLS-HaRxL103Hind2)、植物細胞内の核(特に核小体)内にNLS-HaRxL103Hind2の局在が見られました(図3A)。また、タバコ植物においてNLS-HaRxL103Hind2をRPP4と一緒に発現させたところ、HR細胞死が誘導されました(図3B)。さらに、配列を比較したところ、Hind2型ではEmoy2型が持つ推定のNLS内に変異が見つかりました。以上の結果より、HaRxL103Hind2は宿主細胞内局在を変化させる遺伝子変異によりRPP4による認識を回避していることが分かりました。
次に、異なる機構にてRPP4による認識を回避している可能性を探索するため、Hind2以外のべと病菌分離株(Waco9、Cala2、Emco5、Maks9)について調べたところ、感染時にHaRxL103遺伝子の発現誘導が見られませんでした(図4)。このことから、これらの分離株ではHaRxL103遺伝子の発現を抑制することでRPP4による認識を回避していることが分かりました。
本研究により、卵菌綱植物病原菌であるべと病菌よりシロイヌナズナの細胞内型免疫センサーにより認識されるエフェクターを同定しました(図5A)。加えて、認識を回避しているべと病菌分離株において、エフェクターの発現を抑制(図5B)、または宿主細胞内での局在を変化させる(図5C)ことにより認識を回避する2種類の機構が明らかになりました。

今後の期待

本研究により、植物と病原菌の攻防における植物の細胞内型免疫センサーによる病原菌エフェクターの認識、および病原菌側の認識回避機構の一端を明らかにしました。農地では、育種により細胞内型免疫センサーを導入した耐病性品種の抵抗性を打破する新たな病原菌系統の出現が問題となっているため、本研究成果は、将来的な病害防除法の開発に貢献することが期待できます。
さらに今回の研究は、国際連合が2016年に定めた17項目の「持続可能な開発目標(SDGs)[12]」のうち「2.飢餓をゼロに」に大きく貢献する成果です。

原論文情報

Shuta Asai, Oliver J. Furzer, Volkan Cevik, Dae Sung Kim, Naveed Ishaque, Sandra Goritschnig, Brian J. Staskawicz, Ken Shirasu and Jonathan D.G. Jones, “A downy mildew effector evades recognition by polymorphism of expression and subcellular localization”, Nature Communications, 10.1038/s41467-018-07469-3

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