妊娠初期の野菜摂取が児の2歳時点における喘息症状の発生率軽減に寄与する可能性

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国立成育医療研究センターにおける長期観察研究で解析

2018-03-01 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター産科の小川浩平医師らのグループは、妊娠初期に妊婦が野菜を多く摂取すると、児が出生後、2歳になったときの喘息症状(喘鳴)の発症率が低くなることを成育医療研究センター内のコホートデータを使用した解析で見いだしました。同研究結果からは、野菜の種類のうち葉野菜(レタス、ほうれんそうなど)やアブラナ科野菜(ブロッコリー、カリフラワーなど)が特に喘息症状(喘鳴)の予防効果が高いことも示唆されました。この研究成果は2018年2月12日、権威ある臨床栄養学関連の雑誌であるEuropean Journal of Clinical Nutrition(イギリスの国際誌)より発表されました。

プレスリリースのポイント

  • つわりなどの影響で摂取量の推定が難しいとされていた妊娠初期の栄養摂取状況を詳細な質問紙で調査し、妊娠初期の野菜摂取が児に及ぼす影響について調査しました。
  • 妊娠初期の野菜摂取は幼児にとって重要な疾患の一つである気管支喘息の主要症状である「喘鳴」の発症率と相関しており、その摂取が予防的に働く可能性が示唆されました。
  • 本研究の結果は、妊娠初期の栄養指導の発展につながる可能性があると考えられます。

背景

これまで、小児喘息のリスク因子として受動喫煙、大気汚染、気道ウィルス感染など様々な因子が報告されてきました。その中には妊娠中の喫煙など、出産前の母親(妊婦)の生活に関連した因子も報告されており、そのような因子を調査することも将来の児の疾病の予防のため重要であると考えられます。一般の小児や成人では野菜摂取はその後の喘息リスクの軽減に寄与するという報告が複数あり、妊娠中の野菜摂取も同様に出生後の児の喘息リスク軽減につながる可能性があると私たちは考えました。
しかし、つわりなどの影響があるため妊娠中の栄養摂取を評価することは難しく、妊娠中の野菜摂取と児の喘息のリスクの関係を調査した研究はほとんどありませんでした。そこで、私たちは栄養摂取を評価するための質問紙票を妊婦用に調整し、この質問紙を使用すればつわりの有無によらず比較的正確に栄養摂取状態を評価できることを過去の研究で明らかにしました (2017. Ogawa)。今回はこの質問紙を用いて妊娠初期の野菜摂取状況を明らかにし、児の成長後(2歳時)の喘息症状(喘鳴)の発症率との関連を調査することにしました。

研究手法と成果

私たちの研究は国立成育医療研究センターで行われた出生コホート研究データベース(母子コホート研究:主任研究者 堀川玲子)を使用して行われました。2010年から2013年の妊娠女性を登録し、女性とその児を継続的に追跡調査しています。本データベースを用いることにより、妊娠中の曝露が小児期に与える影響を調査することが可能です。
喘息症状(喘鳴)の有無は2歳時に質問紙を用いて評価しましたので、質問紙の回答が得られなかった症例などは除外して解析しました。対象となった511人を野菜(総野菜)の摂取量により5群に分け、それぞれの群における喘息症状(喘鳴)の発症率を比較しました。また、さらに細かい解析として、総野菜だけではなく、葉野菜、アブラナ科野菜(ブロッコリー、キャベツなど)、緑黄色野菜毎に対象者を5群に分け、追加で検討しました。

妊娠初期の野菜摂取が児の2歳時点における喘息症状の発生率軽減に寄与する可能性

図1:妊娠初期の野菜摂取量毎の2歳の喘息発症率の発症率

yasai図2の画像

図2:妊娠初期の葉野菜摂取量毎の2歳の喘息発症率の発症率

yasai図3の画像

図3:妊娠初期のアブラナ科野菜摂取量毎の2歳の喘息発症率の発症率

yasai図4の画像

図4:妊娠初期の緑黄色野菜摂取量毎の2歳の喘息発症率の発症率

  • 図1:妊娠初期の総野菜摂取量が多いほど2歳の児の喘息症状(喘鳴)発症率は低くなっていました。最も総野菜を摂取している集団(Q5)は最も総野菜を摂取していない集団(Q1)と比較して喘息症状(喘鳴)発症のオッズ比が0.59でした(左図)。
  • 図2:同様に妊娠初期のアブラナ科野菜の摂取量が多いほど2歳の児の喘息症状(喘鳴)発症率は低くなっていました。最も総野菜を摂取している集団(Q5)は最も総野菜を摂取していない集団(Q1)と比較して喘息症状(喘鳴)発症のオッズ比が0.48でした。
  • 図3:また、同様に妊娠初期の葉野菜の摂取量が多いほど2歳の児の喘息症状(喘鳴)発症率は低くなっていました。最も総野菜を摂取している集団(Q5)は最も総野菜を摂取していない集団(Q1)と比較して喘息症状(喘鳴)発症のオッズ比が0.47でした。
  • 図4:緑黄色野菜に関しては、妊娠初期の摂取が多いと2歳の児の喘息症状(喘鳴)発症率は少し低くなっていましたが、統計的に有意な差にはなりませんでした。

今後の展望・コメント

本研究で私たちは、野菜の摂取量(特に葉野菜やアブラナ科野菜の摂取)が多い妊婦さんから出生した児は2歳時の喘息症状(喘鳴)の発症率が低いことを示しました。この結果を踏まえると、妊娠初期の妊婦さんに葉野菜やアブラナ科野菜を中心とした野菜を摂取するように指導することで将来の喘息発症率を低下させることができるかもしれません。
一方で、いくつかの点で本研究の結果の解釈には注意が必要です。例えば、本研究における対象者は必ずしも多くはなく、他の集団でも同様の結果が得られるのかどうか検証する必要があることが挙げられます。また、2歳時の喘息症状(喘鳴を有する児)の全例が小児喘息に発展していくわけではなく、これについても今後の検証が必要です。
妊娠初期の野菜摂取に関する臨床的な取り組みはこれからの課題です。しかし、妊娠初期の栄養指導の発展に貢献できるように、本研究結果を裏付けることのできるデータを示していきたいと考えています。

*このプレスリリースは、特定の集団に対する疫学研究成果です。臨床的応用に関しては前述したようにこれからの問題になりますので、実際の対応につきましては専門医の指導を仰いでください。

発表論文情報
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