私たちの身近な危険生物の謎を解明~フタホシドクガの幼虫と食樹の発見~

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2020-01-09   愛媛大学

<研究成果>

愛媛大学大学院農学研究科吉冨博之准教授(愛媛大学ミュージアム兼任)と千葉県立中央博物館尾崎煙雄主任上席研究員は、これまで未知だったフタホシドクガの幼虫期とその食樹を発見しました。

<研究の背景>

ドクガ科は、日本から約 60 種が知られ、そのうちの 10 種は幼虫が毒刺毛を持っています。幼虫の毒刺毛は幼虫だけでなく蛹や成虫、卵にも付着し酷い皮膚病を引き起こすことが知られています。

また、毒刺毛はたいへん細かく空気中を浮遊することにより空気感染することもあります。有毒なドクガの仲間は深刻な皮膚病を引き起こすことから昔から衛生害虫としてよく研究されてきましたが、毒刺毛をもつドクガ 10 種のうち、2 種類は幼虫の形態もその食樹も判明しておらず謎でした。

吉冨准教授と尾崎主任上席研究員が愛媛県と千葉県でそれぞれ独自に行っていたヤドリギに関する調査により、ヤドリギを食べる未知のドクガの幼虫が発見されました。飼育によりその幼虫がフタホシドクガの幼虫であることが判明しました。

<成果内容>

発見した幼虫を基に論文では識別点を記載しました。本種の幼虫は終齢で 45~50 ㎜、全体的に黒っぽく白い短毛を散布します。日本産の他のドクガ科幼虫からは、大きな体長と腹部中央にある黄色と青色の縦紋により容易に識別できます(図 1)。

本種は幼虫の特徴からオーストラリアから知られる種に近縁だということが判明しました。このオーストラリアの種はフタホシドクガと同様に寄生性樹木を食樹としています。しかし、日本のフタホシドクガはビャクダン科のヤドリギが食樹であるのに対し、オーストラリアの種はオオバヤドリギ科の樹木を食樹としており、どう進化したのか興味深い事象です。

現段階で判明している生態は断片的ですが以下の通りです。ヤドリギの幹に産卵された卵は、秋に孵化し、幼虫はそのままヤドリギ上で越冬します。ヤドリギの葉や若い茎の表面を食べて大きくなった幼虫は、6 月頃にヤドリギ上で簡単な繭を作りその中で蛹となります。夏季に成虫が羽化します。

<展望>

幼虫の形態や食樹が判明したことから、今後は衛生害虫としての研究が行われることになると思います。また、ヤドリギという寄生性の変わった樹木を食することから変わった生態を有していることが考えられ、生態の詳細な解明も望まれます。

幼虫が毒刺毛をもつ日本産ドクガ科 10 種のうち、マガリキドクガの幼虫形態と食樹が判明していません。本種は稀な種なので生態の解明は困難だと思われますが、フタホシドクガと同属であることから、ヤドリギもしくはヤドリギに近縁の植物を食べている可能性があり、こちらの解明も望まれます。

フタホシドクガの幼虫は酷い皮膚病を引き起こしますが、本種が比較的稀なこと、ヤドリギが樹木の高所に寄生し本種と人が接触する機会はほとんどないことから、本種が原因で皮膚病になるケースはあまりないと思われ、過敏になることは無いと思います。しかし、強風の後にはヤドリギと共に本種の幼虫が地面に落ちていることもあるので注意が必要です。また、ヤドリギが寄生している樹木の下にいたり木に不用意に登ったりすると本種の幼虫に遭遇する可能性もあります。

【種の解説】

フタホシドクガ Nygmia staudingeri (Leech, 1889)

開張:雄 41 ㎜内外、雌 55 ㎜内外。前翅の横脈上に円形の黒点があるのが特徴。大きさに個体変異があり、夏に出現する雄には小型の個体もいる。本州、四国、九州、国外では台湾、中国、ネパールからインドに分布する。年 2 化で 7~8 月と 9~10 月に出現する。寄主植物は未知。(日本産蛾類標準図鑑 II(学研)の記述より、一部表現を改変。)

愛媛県では山地を中心に分布するが、比較的稀な種。

ヤドリギ Viscum album subsp. coloratum

半寄生の灌木で、他の樹木の枝の上に生育する。30~100cm ほどの長さの叉状に分枝した枝を持つ。黄色みを帯びた緑色の葉は1組ずつ対をなし、革のような質感で、長さ2~8センチメートル、幅0.8~2.5cm ほどの大きさのものが全体にわたってついている。花はあまり目立たない黄緑色で、直径2–3cm程度である。果実は白または黄色の液果であり、数個の種子が非常に粘着質なにかわ状の繊維に包まれている。

全体としては、宿主の枝から垂れ下がって、団塊状の株を形成する。宿主が落葉すると、この形が遠くからでも見て取れるようになる。宿主樹木はエノキ・クリ・アカシデ・ヤナギ類・ブナ・ミズナラ・クワ・サクラなど幅広い。果実は冬季にキレンジャク・ヒレンジャクなどがよく集まることで知られる。果実の内部は粘りがあり、種子はそれに包まれているため、鳥の腸を容易く通り抜け、長く粘液質の糸を引いて樹上に落ちる。その状態でぶら下がっているのが見られることも多い。粘液によって樹皮上に張り付くと、そこで発芽して樹皮に向けて根を下ろし、寄生がはじまる。(以上 wikipedia より、一部改変。)

愛媛県では平地から山地に多く見られる。松山市内の石手川沿いに生えるエノキにはたくさんのヤドリギが寄生しており、寄生された樹木の樹勢を弱めるということで過去には駆除活動が行われたこともある。

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図 1.フタホシドクガの終齢幼虫 図 2.フタホシドクガの毒刺毛でかぶれた皮膚

(図は高画質のものを提供できます。また、論文内で使用されている他の写真も提供可能です。)

生物環境工学
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