2018-03-30 京都大学,日本医療研究開発機構
概要
奥野恭史 京都大学大学院医学研究科 教授、荒木通啓 同特定教授、鎌田真由美 同准教授、中津井雅彦 同特定准教授、小島諒介 同特定助教らの研究グループは、溝上雅史 国立国際医療研究センター研究所 ゲノム医科学プロジェクト長、徳永勝士 東京大学大学院医学研究科 教授、加藤和人 大阪大学大学院医学系研究科 教授らの研究グループ、小崎健次郎 慶應義塾大学医学部 教授らの研究グループとともに、疾患名・年齢・性別などの臨床データと遺伝子変異データとを統合的に扱うデータベース「MGeND」を日本医療研究開発機構(AMED)の支援により整備し、公開します。
(MGeNDのホームページ )
疾患の発症や進展、治療の奏功(効果の有無)には、遺伝子の変異や型が深く関わっている場合があります。臨床データと遺伝子変異データを結びつけて共有することにより、従来よりも正確かつ高度な個別化医療の実現が期待できます。日本人の臨床・遺伝子変異データを統合的に扱うMGeNDの構築は、ゲノム医療の実践、および促進に不可欠なものです。
臨床データと遺伝子変異データとを結びつけて収集・公開するデータベースは、米国NIHが運営するClinVarなど、海外ではすでに運用が開始されています。また、小崎教授らの研究グループが開発中の、難病・希少疾患を対象とするデータベース DPVも、先行してデータの収集と公開を開始しています。今回、奥野教授らの研究グループは小崎教授らの研究グループと共同し、DPVのノウハウを生かしMGeNDを開発しました。ここでは、先行するデータベースに蓄積されつつある情報も活用しつつ、日本国内の複数の疾患領域にまたがる医療機関から臨床・遺伝子変異データを収集し、日本人の特徴を反映したオープンアクセスのデータベースとして、2018年3月16日正午に公開しました。
1.背景
疾患の発症や進展、治療の奏功(効果の有無)には、遺伝子の変異が深く関わっている場合があります。例えば、がんは遺伝子の変異を伴う病気であり、がん細胞でどのような遺伝子変異が起こっているかによって、がんの種類を判別したり、適切な抗がん剤を選択したりすることができます。また、肝炎やHIV、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)などの感染症では、遺伝子変異の種類によって、感染のしやすさや、感染後の経過が変わってくることがあります。遺伝性の難病や、認知症・難聴と遺伝子変異との関わりも知られており、遺伝子変異を調べることで、疾患を特定し、適切な医療行為へとつなげることなどが可能となります。
臨床データと遺伝子変異データとを結びつけて収集・公開するデータベースは、米国NIHが運営するClinVarなど、海外ではすでに運用が開始されています。日本においては、小崎教授らの研究グループが難病・希少疾患の領域を対象としてDPV(Database for Pathogenic Variants)を開発し、先行してデータの収集と公開を始めています。しかし、疾患領域横断的かつ日本人の遺伝的特徴を反映したデータベースはこれまで提供されていませんでした。今回、奥野教授らの研究グループが小崎教授らの研究グループと共同でDPVのノウハウを生かし開発したMGeND(Medical genomics Japan Variant Database)は、「希少・難治性疾患」「がん」「感染症」「認知症及びその他」の疾患領域を対象としています。先行するデータベースに蓄積されつつある情報も活用しつつ、日本国内の医療機関から臨床・遺伝子変異データを収集し、疾患領域横断的かつ日本人の特徴を反映したオープンアクセスのデータベースとして公開します。
2.研究手法・成果
AMED 臨床ゲノム情報統合データベース整備事業では、「希少・難治性疾患」「がん」「感染症」「認知症及びその他」の疾患領域に属する国内11拠点において、臨床及び研究に使用できる臨床情報と遺伝情報を統合的に扱うデータストレージが整備されつつあります。奥野教授らの研究グループは、研究分担機関である三菱スペース・ソフトウエア株式会社と連携し、京都大学医学部附属病院のセキュリティエリア内にデータベースサーバを設置し、
- 国内11拠点から個人を特定できない形で臨床・遺伝子変異データを収集する仕組み
- 異なる疾患領域の臨床・遺伝子変異データを統合し、統一的に取り扱うデータベース
- 臨床・遺伝子変異データの検索・閲覧が可能なWebインターフェース
を構築しました。平成30年3月16日の公開時に、論文公開済みの遺伝子変異データ3,968件を収集・登録済みであり、平成30年度末までに15,500件、平成33年度末までに58,000件のデータ登録を見込んでいます。
溝上ゲノム医科学プロジェクト長、徳永教授、加藤教授らの研究グループは、MGeNDへ登録する臨床・遺伝子変異データの取り扱いについてのガイドラインを作成しました。また、MGeNDは、奥野教授らの研究グループが徳永教授・加藤教授と共に作成し、京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院 医の倫理委員会により審査・承認された研究計画書に基づいて運営されています。
3.波及効果、今後の予定
MGeNDの公開により、疾患を横断した包括的な臨床ゲノム情報の利活用及び研究プロジェクト間のデータシェアリングを実現します。データストレージにより臨床的意義が付与された遺伝子変異データの共有や、他の疾患領域との遺伝子変異の比較などが可能となり、より正確かつ高度な個別化医療(Precision Medicine)の実現が期待できます。日本人の臨床・遺伝子変異データを統合的に扱うMGeNDの構築は、ゲノム医療の実践、および促進に不可欠なものです。
一方で、臨床・研究の現場でスムーズにMGeNDを活用するためには、それぞれの疾患領域のユースケースに即した検索インターフェースやデータ表示機能が求められます。現在のMGeNDでは、単一の検索インターフェースやデータ表示機能のみを実装しており、疾患領域により異なるユースケースに対応するインターフェースは実現していません。今後の研究開発において、現場での臨床・研究に携わる医師・研究者の意見を踏まえつつ、疾患領域固有のユーザ・インターフェースを開発します。
また、奥野教授らの研究グループは、研究分担機関の富士通株式会社とともに、未知の遺伝子変異に対する臨床的意義付け(アノテーション)を行うためのAIキュレーションシステムを開発しています。臨床現場でのアノテーション支援のため、データ提供元拠点からの希望にもとづいて、AIキュレーションシステムの開発と展開を進めます。
4.研究プロジェクトについて
本データベースは、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)平成28年度 臨床ゲノム情報統合データベース整備事業「ゲノム医療を促進する臨床ゲノム情報知識基盤の構築」の支援によって開発されました。
お問い合わせ先
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 ビッグデータ医科学分野
教授 奥野 恭史
AMED事業に関するお問い合わせ先
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
基盤研究事業部 バイオバンク課