2018-04-11 九州大学,科学技術振興機構(JST)
ポイント
- 2015年にヒストン亜種を新たに14種類発見し世界から注目を集めたが、これらの機能は不明であった。
- 今回、そのうちのH3mm7と名付けたヒストンが、筋肉の再生に重要であることを明らかにした。
- 今後の幹細胞研究や再生医療への応用が期待される。
九州大学 生体防御医学研究所の大川 恭行 教授、原田 哲仁 助教、前原 一満 助教の研究グループは、早稲田大学の胡桃坂 仁志 教授、東京工業大学の木村 宏 教授、徳島大学の竹本 龍也 教授、長崎大学の小野 悠介 准教授との共同研究により、マウスの骨格筋の再生を促進するのに必要な、これまで知られていなかった新たなヒストンタンパク質(以下ヒストン)を発見しました。
ヒストンは、遺伝情報が記された全長2メートルもの糸状のDNAを数マイクロメートル以下の細胞核内に効率よく格納するために必要な糸巻きとして機能するタンパク質です。大川教授らは、2015年に、ヒストン亜種を新たに14種類発見し、世界から注目を集めていましたが、これらの機能は不明なままでした。
本論文では、大川教授らが発見したこれらのヒストン亜種のうち、H3mm7と名付けたヒストンが、筋肉の再生に重要であることを明らかにしました。H3mm7はマウスの筋肉(骨格筋)中にわずかに存在する筋幹細胞に多く含まれていました。筋幹細胞は、筋損傷が生じると速やかに増殖し分化することで、短時間に筋肉を再生します。これにより、生体内で最大の体積を占める筋肉の恒常性が保たれています。ところが、H3mm7遺伝子を欠損したマウスでは筋幹細胞の数は変化しないにもかかわらず、損傷後の筋肉の再生が遅延することが分かりました。その後の解析で、ヒストンH3mm7は筋幹細胞内でDNAを緩めることで細胞内の遺伝子が働きやすくする作用があることが分かりました。このメカニズムの解明により、今後の幹細胞研究や再生医療への応用が期待されます。
本研究成果は、2018年4月11日(水)午前10時(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」で公開される予定です。
本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)研究領域「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」(研究総括:菅野 純夫 東京大学 教授)における研究課題「細胞ポテンシャル測定システムの開発」(研究代表者:大川 恭行 九州大学 教授)、日本学術振興会 科学研究費JP25116010、JP17H03608、JP15K18457、JP16K18479および徳島大学 先端酵素学研究所共同利用・共同研究の支援により得られたものです。
ヒストン亜種は主要なヒストンとDNA配列から類似性が高く区別が困難であったことから、その存在が見過ごされてきました。本研究成果は、これらヒストン亜種が私たちの体を形成する細胞や組織の恒常性維持(筋再生など)に機能している可能性を示唆しており、今後、これらの機能破綻により引き起こされる疾患の発見や治療法の開発が期待されます。
図
ヘビ毒などで損傷した骨格筋の修復(再生)は、骨格筋幹細胞が筋肉の再生に必要な遺伝子の発現を上昇させ筋組織へと分化することで起こります。一方で、H3mm7遺伝子を欠損した骨格筋細胞では、筋再生に必要な遺伝子の発現が促進されないため不完全な骨格筋再生が起こります。
doi:10.1038/s41467-018-03845-1
大川 恭行(オオカワ ヤスユキ)
九州大学 生体防御医学研究所 附属トランスオミクス医学研究センター 教授
川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
九州大学 広報室
科学技術振興機構 広報課