葉の形態の収斂進化に関わる遺伝子を発見~育種への応用に期待~

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2019-12-06 東北大学大学院生命科学研究科,理化学研究所

【発表のポイント】
● 陸上植物の祖先は葉を持たず、二又の枝分かれを繰り返す成長をしていた。
● 陸上植物の祖先は、コケ植物・シダ植物・種子植物に進化する過程で、生育環境に適応するために、異なる系統毎に独立に、葉を獲得した。
● 葉は植物の系統毎に収斂進化*1的に獲得された器官であるにも関わらず、共通の分子機構で形成されることを明らかにした。
● 植物の葉の形態の多様化・進化を駆動する遺伝子 LOS1 を発見した。

【概要】
陸上植物の祖先は光合成組織である葉を持たず、コケ、シダ、種子植物に種分化した後、それぞれの生育環境に適応するよう、独立に葉を獲得してきました。東北大学大学院生命科学研究科の楢本悟史助教、経塚淳子教授らの研究グループは、オックスフォード大学 (Liam Dolan 教授)、理化学研究所環境資源科学研究センター (豊岡公徳上級技師)、広島大学大学院統合生命科学研究科 (嶋村正樹准教授)らをはじめとしたグループと共同で、植物は系統毎に常に共通の遺伝子 LOS1 (LATERAL ORGAN SUPPRESSION1) を用いて、葉の発生・成長を制御するよう進化してきたことを発見しました。植物の葉は収斂進化的に獲得されたものであることから、これまで系統間で全く異なる器官であると考えられていました。今回の発見はその常識を覆す発見であるとともに、植物の葉の多様化・進化の礎となるメカニズムの解明に繋がる重要な発見です。葉の成長は植物の生産性に直結することから、今後、本遺伝子に注目した育種への応用も期待されます。本研究結果は、米国東部時間 12 月 9 日午後 2 時(日本時間 12 月 10 日午前 4 時)、PLOS Biology 誌(電子版)に掲載されます。本研究は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

【詳細な説明】
わたしたちが普段よく見る植物には葉や花があります。しかし、4 億 7 千万年前に水中から陸上に上がった当時の植物は、現存の植物が持つような葉や花を持っておらず、細長い枝のようなものが二又に枝分かれしながら伸びるようにして生きていました。その後、植物は陸上で、苔類、シダ類、種子植物などに分かれて進化していきましたが、葉はそれぞれの系統に分かれた後に獲得され、それぞれの生活環境に合わせて進化していったと考えられています (図1:葉の収斂進化)。
これまで、葉の形づくりについての研究は、シロイヌナズナやイネなどの維管束植物を使った研究が広く行われてきましたが、進化の過程で初期に分岐した植物種を用いた研究はほとんどありませんでした。そのため、どのようにして葉が生まれ、進化したのか?という問題は未解明のままでした。東北大学大学院生命科学研究科の楢本助教と経塚教授らの研究グループは、オックスフォード大学 (Dolan 教授)、理化学研究所環境資源科学研究センター (豊岡公徳上級技師)、広島大学大学院統合生命科学研究科 (嶋村正樹准教授)らのグループと共に、葉の形 (図 2)が異常になるゼニゴケの突然変異体を単離し、ゼニゴケの葉の発生を制御する遺伝子 LOS1 (LATERAL ORGAN SUPRESSION1) (ロスワン)を発見しました (図 3)。
LOS1 は、イネやトマトなどの維管束植物にも保存された遺伝子で、葉の発生に働くことが知られていました。そこで、楢本助教らは、ゼニゴケの LOS1 をイネに発現させる実験を行い、ゼニゴケ LOS1 がイネ LOS1 の機能を代替できることを示しました (図 4)。この結果は、陸上植物の葉は、系統が分かれた後にそれぞれ独立に出現・進化したにもかかわらず、同じ LOS1 の働きによって発生が制御されていることを示しています。
また、楢本助教らは LOS1 の機能の欠損が、ゼニゴケやイネの葉を原始的な形に先祖返りさせることも発見しました。このことは、LOS1 が葉の形の進化にも関与することを示唆する結果です。
植物は葉だけでなく、花、実や維管束(木の素材)なども同様に進化させてきました。地球上の生命は、あらゆる場面でその恩恵に預かっています。本研究の成果は、生物の形づくりの進化のプロセスを分子レベルで明らかにできた成果であると同時に、植物の生産性向上の技術開発に寄与する可能性がある重要な研究成果です。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

用語説明
*1 収斂進化 鳥類の鳥とほ乳類のコウモリの翼のように、全く異なる系統の生物が、同じような姿・特徴をもつように進化すること。生態的環境に適応した結果、収斂進化がおこると言われている。なお、相同遺伝子による形態の類似の場合、特に平行進化と呼ぶこともある。

【図】

図1:葉は植物の系統毎に独立に収斂進化してきた
系統樹は Harrison, 2017 を一部改変。コケ植物 シダ植物 種子植物異なるタイプの葉の獲得 LOS1 の獲得 B 1 2 3 C 幹細胞表側裏側


(A)ゼニゴケの模式図。ゼニゴケは背側と腹側に異なった組織を形成する。
(B)ゼニゴケを裏側からみた模式図。片側 3 列からなる特殊な葉(腹鱗片とよばれる)が形成される。
(C)ゼニゴケ先端部の断面図。葉は幹細胞の周囲で左右交互に形成される。
なお、(B)と(C)では、簡略化のため、仮根は省略して示している。


図3:Mplos1 変異体の表現型
(A and B) 播種後 10 日目のゼニゴケ野生型と Mplos1 変異体
(C and D) 播種後 3 週間目のゼニゴケ野生型と Mplos1 変異体
Mplos1 変異体では、反り返って成長するとともに、裏側の組織において葉的器官の形成が促進されている。矢じりは葉的器官を示す。



図4:ゼニゴケ LOS1 はイネ LOS1 ホモログの機能を代替可能である
(A)イネ野生型
(B)イネ g1 (LOS1 ホモログ) 突然変異体
(C)ゼニゴケ LOS1 を発現させたイネ g1 突然変異体
イネ g1 突然変異体の表現型がゼニゴケ LOS1 の発現により野生型と同等に戻っている。

【論文題目】
題目:A conserved regulatory mechanism mediates the convergent evolution of plant shoot lateral organs
著者:Satoshi Naramoto, Victor Arnold Shivas Jones, Nicola Trozzi, Mayuko Sato, Kiminori Toyooka, Masaki Shimamura, Sakiko Ishida, Kazuhiko Nishitani, Kimitsune Ishizaki, Ryuichi Nishihama, Takayuki Kohchi, Liam Dolan and Junko Kyozuka
雑誌:PLOS BIOLOGY
DOI:https://doi.org/ 10.1371/journal.pbio.3000560

【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 楢本 悟史 (ならもと さとし)

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)

理化学研究所 広報室 報道担当

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