2018-04-19 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP),国立研研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市 理事長:水澤英洋、以下、NCNP)は、日本新薬株式会社(本社:京都市、社長:前川重信、以下 日本新薬)と開発を進めるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬(NS-065/NCNP-01)の医師主導早期探索的臨床試験(以下、本試験)の結果が、日本時間2018年4月19日(木)午前3時(報道解禁日時:米国東部夏時間4月18日午後2時)に、Science Translational Medicine誌 へ掲載されました。
NS-065/NCNP-01はNCNPと日本新薬の共同研究を通して創製されたエクソン・スキップ作用を有する核酸医薬品であり、ジストロフィン遺伝子のエクソン53スキップに応答する遺伝子変異を有するDMD患者に対する治療薬として期待されています。
本試験(UMIN:000010964、ClinicalTrials.gov:NCT02081625として登録)はNS-065/NCNP-01をヒトに対して初めて投与した臨床試験であり、10例のDMD患者を低用量(体重1kgあたり1.25mgの投与量)群に3例、中用量(同、5mg)群に3例、及び高用量(同、20mg)群に4例ずつ割り当て、NS-065/NCNP-01を週1回12週間にわたって静脈内投与する非盲検非対照試験として実施されました。本試験への患者募集は神経筋疾患患者登録システム(Remudy)も活用する形で行われました。主要評価項目は安全性、副次評価項目は薬物動態、ジストロフィン発現等の有効性と設定されました。主な組入れ基準はジストロフィン遺伝子にエクソン53スキップの適用となる変異を有すること、5歳以上18歳未満で原則として歩行不能であること等が設定されました。ジストロフィン発現については、投与期間の前後で筋生検を行い評価しました。
その結果、安全性については重篤な有害事象の発生はなく投与中止例もありませんでした。有効性については、エクソン53がスキップしてアミノ酸読み取り枠のずれが修正されたジストロフィンのメッセンジャーRNA(mRNA)が用量依存性に検出され、さらに免疫染色で評価したジストロフィンタンパク質については、10名のうち7名において投与前後で有意な増加が認められました。特に高用量群の1例の患者においては、ジストロフィンmRNAのうち修正されたmRNAの占める割合は投与前の0.3%から投与後に47.8%まで増加し、また健常者由来の筋肉と比較したジストロフィンタンパク質の発現量(健常者を100%)は、投与前の0.8%(免疫染色)及び0%(ウェスタンブロット)から、投与後にそれぞれ17.6%及び8.1%まで増加しました。
以上の結果を受け、日本新薬は2016年1月より国内で第I/II相臨床試験を、また同年3月より米国で第II相臨床試験を開始しています。さらにDMDは全身の筋力低下が進行し、その後臓器障害も合併する重篤な疾患であり、またNS-065/NCNP-01はエクソン・スキップ作用に基づく革新的な作用機序を有すること等から、本剤は国内において先駆け審査指定制度の指定を受けています。
助成金
NS-065/NCNP-01の開発は、以下の助成を受けています。
- 日本医療研究開発機構(AMED)研究費
平成27-28年度臨床研究・治験推進研究事業
平成27-28年度障害者対策総合研究開発事業 - 厚生労働科学研究費 平成24-26年度医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
平成23-25年度障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)
平成26年度障害者対策総合研究開発事業(神経・筋疾患分野) - 国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費
用語の説明
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)とエクソン・スキップ治療
- DMDは男児に発症するもっとも頻度の高い遺伝性筋疾患で、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の骨組みを作るタンパク質の遺伝子変異により、ジストロフィンが欠損して進行性の筋力低下を来たします。現在、進行を遅らせるステロイド剤以外に有力な治療法は存在しません。「エクソン・スキップ治療」はアンチセンスと呼ばれる合成核酸を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA)のうちタンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を取り除く(スキップする)ことでアミノ酸読み取り枠のずれを修正し、正常なジストロフィンタンパク質に比べると一部が短縮するものの、機能を保ったジストロフィンタンパク質の発現を誘導します。
- NS-065/NCNP-01
- モルフォリノ化合物で合成されたアンチセンスと呼ばれる核酸医薬品です。核酸医薬品は遺伝子の構成成分である核酸と類似した構造を持ち、特定の遺伝子配列を標的として、その遺伝子から作られるタンパク質の産生を調節することで作用します。従来の低分子医薬品では難しかった疾患の治療が可能になると期待されており、特異性が高く安全性の面にも優れることから、次世代の医薬品と言われています。NS-065/NCNP-01はジストロフィン遺伝子のエクソン53スキップに応答する遺伝子変異を有するDMD患者を対象に開発されました。
- 先駆け審査指定制度
- 有効な治療法がなく命に関わる疾患に対し、世界に先駆けて革新的医薬品等を日本発で早期に実用化すべく、国内での開発を促進する制度です。本制度の目的は、薬事承認に関する相談・審査で優先的な取扱いをすることで、日本における承認審査の期間を短縮することです。
原論文情報
- 論文名:“Systemic administration of the antisense oligonucleotide NS-065/NCNP-01 for skipping of exon-53 in patients with Duchenne muscular dystrophy”
- 著者:小牧 宏文、永田 哲也、齊藤 崇、増田 智、竹下 絵里、佐々木 征行、立森 久照、中村 治雅、青木 吉嗣、武田 伸一
- 掲載誌:Science Translational Medicine
- DOI:10.1126/scirtranslmed.aan0713
- URL:http://stm.sciencemag.org/lookup/doi/10.1126/scitranslmed.aan0713
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小牧 宏文(こまき ひろふみ)
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