肝硬変に対する細胞療法の確立のための非ヒト哺乳類肝線維症モデルの開発

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2020-04-0-10 京都大学iPS細胞研究所

ポイント

  1. ヒトの肝硬変注1)の病態を再現した非ヒト哺乳類の肝線維症注2)モデルを作製した。
  2. ヒトiPS細胞より作製した肝細胞が免疫抑制剤投与下で非ヒト哺乳類肝線維症モデルの肝臓に生着できることを示した。
  3. 細胞療法の検証が可能な非ヒト哺乳類肝線維症モデルの開発は肝硬変に対する細胞療法による肝臓再生医療の開発に大いに貢献することが期待される。

1. 要旨

現在、肝硬変の根治療法は肝移植しかありません。しかし、深刻なドナー肝不足のため、多くの移植待機患者が肝移植を受けられずに亡くなっています。細胞療法による肝臓再生医療の開発は、移植待機患者の救命や、症状の軽減による患者のQOL(quality of life; 生活の質)の向上に寄与することが期待されています。しかし、これまでの基礎研究はマウスやラットなどの齧歯類モデルで行われており、その結果をよりヒトに近い動物モデルで検証する必要がありました。
安田 勝太郎 研究生(京都大学大学院医学研究科肝胆膵・移植外科学、CiRA増殖分化機構研究部門)、上本 伸二 教授(京都大学大学院医学研究科肝胆膵・移植外科学)、長船 健二 教授(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門)らの研究グループは、ヒトの肝硬変の病態を再現した非ヒト哺乳類(カニクイザル)の肝線維症モデルを確立しました。さらに、免疫抑制剤投与下に、カニクイザル肝線維症モデルの肝臓へヒトiPS細胞より作製した肝細胞を移植する方法を開発し、移植した肝細胞がこのカニクイザルモデルの肝臓に生着できることを示しました。
この研究成果は、2020年4月2日に米科学誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」で公開されました。

2. 研究の背景

肝硬変のような肝不全を伴う疾患の患者を救命する目的で、肝移植療法が広く行われています。しかし、肝移植のドナーが不足しているため、多くの患者が肝移植を受けられずに亡くなっています。このような肝不全患者の肝機能を補助して、肝移植のための適切なドナーがみつかるまで命をつなぐ目的で、肝細胞移植療法が注目されてきました。ところが、肝細胞移植に用いられる肝細胞は、肝移植に使用できない質の低い肝臓から採取されることが多く、また、そもそもドナー肝が不足していることから、新たな細胞源の開発が模索されてきました。そのような状況の中、無限の増殖能と肝細胞への分化能をもつヒトiPS細胞が樹立され、新たな移植細胞源として注目されています。ヒトiPS細胞より作製された肝細胞は、ヒト肝細胞の機能を持ち、齧歯類の体内でも肝細胞として機能することが報告されてきました。しかし、実際に患者に移植するにあたり、よりヒトに近い動物モデルで治療効果を評価する必要がありました。そこで、長船教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞より作製した肝細胞の治療効果を検証可能なカニクイザル疾患モデルを作製することを目指しました。

3. 研究結果

1)肝硬変の病態を再現したカニクイザル肝線維症モデルを樹立した
3頭のカニクイザルに対し、肝細胞に特異的に障害を与える薬剤であるチオアセトアミドを投与し、薬剤性肝硬変の病態再現を試みました。マウスなどとは異なり、薬剤に対する反応は個体差が大きく、各個体にあわせて適宜薬剤の投与量などを調整しながら、長期間繰り返し投与を行うことで、3頭の肝臓にヒトの肝硬変様の線維化を生じさせることに成功しました。肝線維症を生じた3頭のカニクイザルは、典型的な肝硬変の血液所見を呈し、さらに肝硬変の主要な合併症である門脈圧亢進症注3)の所見も呈していました(図1)。

図1 硬変肝の組織像繊維化領域を青く染色

2)免疫抑制剤投与下にヒトiPS細胞由来肝細胞がカニクイザル肝線維症モデルの肝臓に生着できることを示した
カニクイザルはマウスやラットよりも体が大きいため、臨床で行われている手技をそのまま適用することができるというメリットがあります。そこで、実際の臨床での肝細胞移植と同様に、免疫抑制剤投与下にカニクイザルの門脈にカテーテルを留置し、門脈から線維化を起こした肝臓にヒトiPS細胞由来肝細胞の移植を行いました。2週間後に肝組織を確認したところ、肝硬変様の線維化を生じた肝組織のなかに、ヒトiPS細胞由来肝細胞が生着していることを確認することができました(図2)。

図2 移植細胞の生着を伴った硬変肝の組織像
左図:門脈周囲に生着するヒトiPS細胞由来肝細胞を緑色に染色
右図:繊維化領域を青く染色、ヒトiPS細胞由来肝細胞を褐色に染色(矢印)

4. まとめ

ヒトの肝硬変の病態を再現したカニクイザル疾患モデルを樹立しました。さらに、ヒトiPS細胞由来肝細胞を移植する方法を開発し、このカニクイザル肝線維症モデルの肝臓に、ヒトiPS細胞由来肝細胞が生着できることを示しました。本研究の成果は、カニクイザル疾患モデルを用いた前臨床試験を加速させ、肝硬変に対する細胞療法、とりわけヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた細胞移植療法による肝臓再生医療の開発に大いに貢献することが期待されます。

5. 論文名と著者

  1. 論文名
    A nonhuman primate model of liver fibrosis towards cell therapy for liver cirrhosis
  2. ジャーナル名
    Biochemical and Biophysical Research Communications
  3. 著者
    Katsutaro Yasuda1,2, Maki Kotaka1, Takafumi Toyohara1, Shin-Ichi Sueta1, Yuko Katakai3,
    Naohide Ageyama4, Shinji Uemoto2, Kenji Osafune1
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学CiRA増殖分化機構研究部門
    2. 京都大学大学院医学研究科肝胆膵・移植外科学
    3. 一般社団法人 予防衛生協会
    4. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センター

6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より支援を受けて実施されました。

  1. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の再生医療実現拠点ネットワークプログラム「iPS細胞研究中核拠点」

7. 用語説明

注1)肝硬変
ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎など、あらゆる慢性炎症性肝疾患の終末像。炎症により傷ついた組織は治癒過程で線維成分に置き換えられる。長期にわたる慢性炎症の結果として過剰に線維成分が蓄積し、本来あるべき肝臓の組織構造が改変されてしまった状態を肝硬変と呼ぶ。多くの場合、不可逆的である。主要な合併症として、肝不全・門脈圧亢進症が挙げられる。
注2)肝線維症
慢性炎症により傷ついた肝組織の治癒過程で、肝組織に線維成分が蓄積した状態。肝硬変は肝線維症の終末像のことを指す。
注3)門脈圧亢進症
肝硬変など様々な疾患により門脈圧が上昇する病態を、門脈圧亢進症と呼ぶ。心臓から動脈により脾臓や消化管に送られた血流は、各臓器を出たのちに寄り集まって門脈を形成し、肝臓に流入する。肝硬変では、線維化による肝組織の改変や肝臓内の血管内皮障害により門脈血流が妨げられたり、全身の循環動態の変化が生じて門脈血流が増大するなどして、門脈圧が上昇する。門脈圧の上昇は食道静脈瘤などの合併症につながる。

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