目の錯覚から紐解く脳の仕組み~錯視を用いた視覚神経回路の「要所」の発見~

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2020-09-17 国立遺伝学研究所

An Optical Illusion Pinpoints an Essential Circuit Node for Global Motion Processing

Yunmin Wu, Marco dal Maschio, Fumi Kubo*, Herwig Baier *責任著者

Neuron 108, 1–13 (2020) DOI:10.1016/j.neuron.2020.08.027

Figure1

図: 錯視現象を利用した、動きを感知する神経回路の要所の発見
(上)動きに反応する神経細胞(=方向選択性細胞)は脳内に多数存在しているが、そのうち錯視に反応する神経細胞は、前視蓋にクラスターを形成していた。
(下)錯視に反応する細胞クラスターを消失させるとゼブラフィッシュは動きを視覚的に感知できなくなった(左図)。一方で、これらの細胞を人工的に活性化させると、静止したものに対しても、あたかも動きを感知しているかのような行動を示した(右図)。これらの結果から、この細胞クラスターが動きの視覚情報処理に必須であることが明らかになった。


私たち人間を含む多くの動物は、外界の動きを視覚によって感知します。この感知には、特定の方向への動きに反応する「方向選択性細胞」と呼ばれる神経細胞が中心的な役割を果たします。方向選択性細胞は、脊椎動物において脳の広い領域に数多く存在することが知られていました。しかしながら、これらの数多くの方向選択性細胞のうち、どの細胞群が視覚にとって重要な役割を担っているのかはわかっていませんでした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の久保郁准教授らとドイツ、マックス・プランク神経生物学研究所Yunmin Wu博士、Herwig Baier博士らの共同研究グループは、モデル生物のゼブラフィッシュを用いて、目の錯覚の一つとして知られる「運動残効」を使用し、錯視刺激に反応する方向選択性細胞を探索しました。運動残効とは、一定方向に動く物を見続けると静止している物が反対方向に動くように見える目の錯覚(錯視)のことです。その結果、錯視に反応する方向選択性細胞は脳の視覚領域のひとつである前視蓋の限られた領域に存在していることがわかったのです。このようにして同定した方向選択性細胞は、ゼブラフィッシュが動きの視覚情報を感知するのに重要な役割を持っていました。(図)

本成果により、錯視反応を利用することによって、動きを感知する神経回路の鍵となる「要素」を新たに突き止める道を拓いたのです。

本研究は、マックス・プランク協会およびドイツ研究振興協会(DFG)の支援を受けて実施されました。

本研究成果は、米国科学雑誌「Neuron」に2020年9月23日0時(日本時間)に掲載されました。

詳しい資料は≫

生物化学工学
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