植物の発生や器官成長に重要な膜交通タンパク質のリサイクルシステムを発見

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膜交通の、膜交通による、膜交通のためのタンパク質リサイクル

2020-09-0-22 基礎生物学研究所,島根大学,東京大学

全ての生物は細胞からできており、その内側と外側は「細胞膜」で仕切られています。この細胞膜には、細胞内外の物質のやり取りや細胞外環境の感知に関わる様々なタンパク質が存在しており、細胞の恒常性維持や環境変化への応答に必須の役割を果たしています。真核生物では、細胞膜におけるタンパク質の量や配置が「膜交通」という細胞内の小胞や小管を介した物質輸送システムによって厳密に調節されています。その具体的なしくみは、生物のさまざまな体制やライフスタイルに応じて、それぞれの生物の進化の過程で独自の多様化を遂げたと考えられています。

基礎生物学研究所細胞動態部門の上田貴志教授と海老根一生助教、島根大学生物資源科学部の西村浩二准教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の堤伸浩教授と藤本優准教授らの研究グループは、シロイヌナズナを用いて、植物の細胞外や細胞膜への物質輸送を担うVAMP72という膜交通タンパク質が、PICALM1という別の膜交通タンパク質のはたらきにより、細胞膜から細胞内へ回収され「リサイクル」されることを発見しました(図1)。また、PICALM1によるVAMP72の細胞膜からの回収が破綻すると、根や茎をはじめとした器官の成長に広く悪影響が生じることも判明しました。動物細胞では、VAMP72とよく似たタンパク質が植物とは全く異なる仕組みにより細胞膜から回収されています。また、PICALM1と類似のタンパク質は、陸上植物の進化の過程において劇的にその数が増加していることも分かっています。これらのこととあわせて本研究の成果は、植物の器官成長を支える基盤的なシステムの確立に、膜交通タンパク質をリサイクルする仕組みの多様化が重要な役割を果たしたことを示しています。

本研究の成果は、米国東部時間2020年9月21日の週に国際学術誌Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)に掲載されます。

図1 VAMP72がPICALM1によって細胞膜から回収される様子を示した模式図

【研究の背景】
真核生物の細胞膜には、細胞内外の水や物質の輸送や周辺環境の感知に関わるタンパク質が配置されており、細胞の恒常性維持や環境変化への応答および細胞同士の情報のやり取りに必須の役割を果たしています。つまり、これらの細胞活動を正しく行うためには、細胞膜における各種のタンパク質の量や位置が適切に調整されなれければなりません。真核細胞では、その調整に「膜交通」という細胞内の小胞や小管を介した物質輸送のしくみがはたらいています。とくに、細胞膜へ物質を輸送するはたらきは「エキソサイトーシス」と、また、細胞膜から物質を回収するはたらきは「エンドサイトーシス」とそれぞれ呼ばれています。

植物細胞のエキソサイトーシスにはたらくタンパク質の一つに、VAMP72というタンパク質があります。VAMP72は細胞膜に物質を輸送するための小胞の膜に局在し、その小胞と細胞膜との融合を引き起こす進化的に保存された膜交通タンパク質の一種です。このような小胞を介した細胞膜への持続可能な物質輸送のためには、VAMP72を新規に合成するだけでなく、それを細胞膜からエンドサイトーシスにより回収してリサイクルする必要があると考えられます。本研究では、この膜交通タンパク質をリサイクルするための膜交通の仕組みを明らかにしました。

【研究の成果】
本研究の最大の成果は、VAMP72の細胞膜からの回収とそのリサイクルに決定的な役割を果たす、PICALM1という膜交通タンパク質を発見し、植物の成長における重要性を明らかにしたことです。

本研究ではまず、VAMP72の輸送制御に関わるタンパク質を同定するために、シロイヌナズナのVAMP72と結合するタンパク質を探索しました。その結果、幾つかの候補の中から、PICALM1aとPICALM1bという一対のよく似たタンパク質(以後PICALM1と呼びます)がVAMP72と結合することを見出しました。このPICALM1については、先行研究におけるアミノ酸配列の分析から、ANTHタンパク質というクラスリンアダプターの一種であることが推定されていました。クラスリンアダプターは、エンドサイトーシスの過程で細胞膜からクラスリン被覆小胞が形成される際に、細胞膜や積み荷タンパク質とクラスリンとの結合を仲介する役割を担うタンパク質です(図2)。

fig2.jpg図2 ANTHタンパク質の機能
ANTHタンパク質はAP-2複合体やTPC(TPLATE複合体)などのクラスリンアダプターと協調してクラスリン被覆小胞への積荷タンパク質の積み込みを担うと推定されていた。

実際にPICALM1は、植物の細胞内においてクラスリンと結合し、さらに、細胞膜上での局在がクラスリンと一致したことから(図3)、PICALM1が植物のエンドサイトーシスではたらく新たなクラスリンアダプターであることが分かりました。

fig3.jpg図3 PICALM1とクラスリンの根の表皮細胞の細胞膜上での局在を示した斜光照明顕微鏡像
PICALM1(緑)とクラスリン軽鎖(マゼンタ)はよく共局在する。スケールバーは5µm。

次に、PICALM1がVAMP72の輸送に本当に関わっているかを調べました。PICALM1欠失変異体(PICALM1aとPICALM1bの二重変異体)を作成し、細胞内でのVAMP72の局在パターンを野生型シロイヌナズナのそれと比較したところ、野生型ではおもにトランスゴルジネットワークという細胞小器官と細胞膜にみられたVAMP72の局在が、PICALM1欠失変異体では細胞膜へと変化することが分かりました(図4)。また、野生型シロイヌナズナにおいては、PICALM1が細胞膜上でVAMP72と共局在することも判明しました。これらの結果から、PICALM1は、エキソサイトーシスにはたらいた後のVAMP72を、クラスリン被覆小胞に積み込んで細胞膜からエンドサイトーシスにより回収し、トランスゴルジネットワークへと送り返す役割を担っていることが分かりました。

fig4.jpg図4 野生型シロイヌナズナとPICALM1欠失変異体の根の表皮細胞におけるGFPで標識したVAMP72の局在を示した共焦点顕微鏡像
PICALM1欠失変異体ではVAMP72(緑)が細胞膜に蓄積してしまう。スケールバーは10 µm。

また、PICALM1の欠失が、細胞のエンドサイトーシスの活性全般や植物の成長に及ぼす影響についても調べました。まず、PICALM1欠失変異体における細胞のエンドサイトーシス全般の活性を細胞膜脂質の流れを計測することで調べたところ、野生型シロイヌナズナのそれと比べて変化がありませんでした。しかし、PICALM1欠失変異体の成長を、野生型シロイヌナズナのそれと比較したところ、PICALM1欠失変異体では、分裂組織の活性低下に起因するとみられる根や茎、果実の矮化や種皮の構造異常、さらには種皮から吸水時に放出される多糖類の減少など、さまざまな器官の成長や発生に異常が起こっていることが分かりました(図5)。これらの結果は、PICALM1のはたらきに依存した、細胞膜からのVAMP72の回収とリサイクルが、植物の発生や成長に大変重要な役割を果たしていることを示しています。

fig5.jpg図5 PICALM1欠失変異体の芽生えの様子と種皮から放出される多糖類の染色像
PICALM1欠失変異体では矮化や吸水時に種皮から放出される多糖類の減少が観察される。
【今後の展望】
今回の研究から、PICALM1というクラスリンアダプターが、植物細胞のエキソサイトーシスを実行するVAMP72の細胞膜からの回収とそのリサイクルにはたらくことが明らかになりました。細胞膜からのクラスリン被覆小胞の形成は、真核生物のさまざまな系統に共通する膜交通の基本的なプロセスの一つです。しかし、動物の細胞においては、VAMP72とよく似た分子の細胞膜からの回収は全く異なるしくみによりおこなわれていることが報告されています。植物の進化の過程でPICALM1の仲間が多様化していることとあわせて考え、今回の研究の成果により、植物においてクラスリンアダプターが多様化することで、器官の成長や発達を支えるエンドサイトーシスのしくみが獲得されたことの例を新たに示すことができたと考えています。今後は、顕著な多様化がみられる植物のPICALMタンパク質の機能をさらに詳しく調べることで、膜交通の多様化と進化について、一層理解を深めることが出来るものと期待されます。

【発表雑誌】
雑誌名: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)
掲載日: 米国東部時間2020年9月21日の週内
論文タイトル: Longin R-SNARE is retrieved from the plasma membrane by ANTH domain-containing proteins in Arabidopsis
著者: Masaru Fujimoto*, Kazuo Ebine*, Kohji Nishimura*, Nobuhiro Tsutsumi, and Takashi Ueda (*Co-first author)
DOI: 10.1073/pnas.2011152117

【研究グループ】
本研究は、基礎生物学研究所 細胞動態研究部門の上田貴志教授と海老根一生助教、島根大学 生物資源科学部の西村浩二准教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の藤本優准教授と同研究科 植物分子遺伝学研究室の堤伸浩教授らの共同研究チームにより実施されました。

【研究サポート】
本研究は、科学研究費助成事業(18H02470,19H05670, 19H05675, 24248001, 18K06303, 19H04872, 18H03941, 10J08869)、三菱財団、および、山田科学振興財団などの支援を受けて行われました。

【本研究に関するお問い合わせ先】
基礎生物学研究所 細胞動態研究部門
教授 上田 貴志 (うえだ たかし)

【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室

島根大学企画部企画広報課 広報グループ

東京大学 大学院農学生命科学研究科
農学系事務部 総務課 総務チーム 総務・広報情報担当

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