iPS細胞操作技術に新しい「光」を
2020-10-07 京都大学
亀井謙一郎 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)准教授、廣理英基 化学研究所准教授(兼・iCeMS連携准教授)、坂口怜子 工学研究科助教(兼・CeMS連携助教)、立崎武弘 東海大学講師(兼・iCeMS客員講師)らの研究グループは、高強度のテラヘルツ光パルスをヒトiPSに照射すると、細胞の中で発現量が変化する遺伝子ネットワークが存在することを発見しました。
iPS細胞はあらゆる細胞に分化する可能性を持った多能性幹細胞で、再生医療や創薬への応用が研究されていますが、望みの機能を持つ細胞に自在に変化させるための引き金となる遺伝子発現を制御する技術は確立されていません。
一方で、近年、高強度テラヘルツ光パルスの照射により、細胞の応答が変化する現象が報告され注目されています。しかし、その応答の変化を引き起こす機構はあまり理解されていませんでした。本研究では、世界最高レベルの強度を持つテラヘルツパルスをiPS細胞に照射し、照射の有無による細胞内の遺伝子発現の量の変化を網羅的に解析したところ、発現が亢進する遺伝子ネットワークと抑制される遺伝子ネットワークが存在することを初めて発見しました。さらに、発現が変化した遺伝子の上流では亜鉛イオン依存的な転写因子が多数存在することを突き止めました。本研究によって、高強度テラヘルツパルスを細胞に照射することで、細胞に接触せず、損傷を与えずに細胞内の遺伝子の発現パターンを変化させることができることがわかり、テラヘルツパルスで多能性幹細胞の運命を自在に操作する技術の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2020年9月24日に、国際学術誌「Optics Letters」に掲載されました。